ザ・グレート・展開予測ショー

防人の唄。(後編)


投稿者名:hazuki
投稿日時:(01/ 9/13)

刀を構える。
感情の波を一旦鎮め、全てを殺気にするつもりで感覚を統合する。
最早、言葉などの上っ面で語れる事などたかが知れてる。
互いの魂を交感する死闘の中でしか閉じた心は開けない。
交錯する魂、命を全てを武器とかえて純粋な炎のように燃え上がらせる。
無論、非生産的な殺し合いなど願い下げだ。
物理を超越した存在の殆どは人間が脳から肉体に命令を送るように、チャクラで精神を制御できる。
月神も然り。
いわば仮の死闘だ。
横島の魂を研ぎ澄ます為の茶番。
そして、肝心の横島も乗ってきた。
額に汗が滲む。
前にいる神無に表情は無い。
すでにその口は一文字に引き結び言葉を紡ぐ事もない。
ただその瞳だけが雄弁に語っていた。
底冷えのするように冷たい瞳だと言うのに、その奥に込められた熱い、焦がれるような光。
ぐい
横島は額に滲んだ汗を腕で拭う。
ずっと闘っていたが、こんなに熱く、そして冷たい神無を見るのは初めてだった。
「なんてぇ冷たい瞳だ…本気で来るってことか?……チクショウ!」
どこか恐れている自分を叱咤するかのように大声で叫ぶ。
右手を上げる
そして、意識を集中させる。
バシュゥゥゥッ
霊気を集束させ、右手を輝く刀身で包み込む。
横島の「栄光の手」が発現した。
ブンと、
右手を無造作に下に下ろす。
身の内から創られた光の剣が輝きを放つ。
それは、月夜に現れる太陽の光をまとった剣。
そしてそれと向かい合うように在るのは、月の光を受け輝く剣。

二人は、いや、二つの剣は対峙したまま動こうとしない。
「覚悟が出来たらいつでも来い。睨み合ってても決着はつかん。」
表情を変えず神無。
意識は横島だけに集中している。
「今度はお前から来てみろよ。」
どこか笑いを含んだ声で横島。
だが、額からにじみでる冷や汗が、本来の横島の精神状態を教えている。
逃げ出したい衝動を無理やり押さえ込んで、横島は頭をフル回転させていた。、
真剣勝負の緊張感は自分の精神力では長時間耐えられない。
早期決着を狙える相手でもない。
ならば敗北パターンから少しでも離れる。
その程度の考えだったが真剣勝負はいつもその程度の事に左右された。
彼の浅い経験の中にも幾つか修羅場と呼べるものがあった。
だから解る、先手をとる事は必ずしも有利な事ではない。
彼が理解した事は概ねそれだけだ。
実際は攻撃する際に恐怖から躊躇いが生まれてる事に遠因があるのだが、彼に限らず、格上の相手と戦闘するにあたって、敵の攻撃をいなした瞬間が絶好の勝機と言える。
その様子を見、一瞬神無は少しばかり、ほんとうにほんの少し表情を緩ませた。
だが次の瞬間元の無表情に戻り
「少しは頭が働くようになったか。……いくぞ!!」
     吼えた
シャッ
相手の思惑が読めてる以上、神無は単調に攻めたりしない。
初撃は浅く牽制する。
横島は神無の斬撃の迅さにまともに反応するのは諦め、後退して避ける。
それに合わせて神無も前に踏み込んで刀の間合いギリギリを維持し、再び斬撃を繰り出す。
ヒュッ
横島は今度は左に避ける。
空振りは直撃以上にモーションが長くなるものだが、こちらが間合いの外から斬り込んでも神無が体勢を立て直すほうが早いだろう。
互いに焦れる。
次第に両者に決定的な差が出始めてくる。
神無には、さして変化は見られない。
だが、横島は、一撃一撃をよけるたびにぶわっと汗が背中から、額から噴出しているのだ。
避ける度に髪の毛が数本、服の切れ端が飛ぶ。
元々腕が違うのだ。
今その差を補っているものは集中力である。
そして、一撃一撃にコレでもかというほどに集中し、体の隅々までに神経を張り巡らせている。
それは、激しい集中力そして、体力の浪費である。
横島は心の中で舌打ちをする。
(もたついてるとスタミナ面で不利な俺はヤバイ!こうなりゃいちかばちか……!!)
だが、その考えが頭をよぎった瞬間
ヒュッ
切っ先が迫る。
「ぐっ」
直前で身を捩り避ける。
(焦るな、もう一撃を布石にしてから踏み込む。あと一撃だけ向こうに合わせろ…)
肩で息をしながら見据える。
もうすぐ
もうすぐである。
そして神無が仕掛けた。
ジャッ
神無のニ度目の踏み込みからの斬撃を横島が後方に避けた瞬間。
その時こそ勝負の急所。
「こな……くそぉぉぉぉぉぉっ!!」
絶叫。
「喰らって‘吹き飛べぇぇぇぇぇぇ’!!」
ガキィィィン
互いが互いに繰り出した勝利に向かう一撃が、運命の符合か奇蹟の合致か、完全に相殺する。
ぐらりと両者の体が揺れる。
「……今のは…防戦状態で喰らってたらやばかった。マジに強すぎだぜ……。」
息も絶え絶えに横島。
だが口元には淡い笑みが刻まれている。
「ならば互角だったお前も強過ぎだな……正直、ひやりとしたぞ。」
表情を変えずに神無。
だがその口調はどこか柔らかく感じる。
「まだ、決着は付いてないぞ」
ちゃきり
刀を持ち直し神無。
「ついてねえよ」
息も整うこともできずに笑う横島。
腕にある「栄光の手」が光を強める。
二人は合せ鏡のように太刀を向け合いながら一瞬の緊張の為の酸素不足に喘いだ。
最早両者は完全に手詰まりとなっていた。相手の手が読めない。本人にも
解らないのだから無理も無い話だが、これは鶏と卵の初めを考えるようなものだ。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
「りゃあぁぁぁぁぁ!!」
森羅万象は何れも原点に還る。二人の戦いも原始的な斬り合いへと回帰していった。


どこかで、犬が吼えていた
地面につっぷし倒れている負け犬がこと横島。
「冷静になって考えりゃ、ガチンコでやったらそりゃ負けるわな。」
仏頂面でぶちぶち愚痴を言う横島に神無は悪戯っぽく笑う。
段は絶対やらない表情だ。
「ま、これに懲りたら多少は精進する事だ。辛い事を他人に押し付けられるぐらいには、な」
その言葉に含まれた意味を悟りむくりと起き上がる。
「ちっ…、しつこい!……もうやんねーよ。何がどうだろうと俺が選んだ事だし……過剰に気持ちを重ねすぎんのも死者への冒涜って奴だ。被害者面は止めて想いを守らにゃな。」
逃げない。
いや、逃げれない思い。
続いてゆく感情。
忘れきれない存在なら、全てと思える存在ならそれでいい。
分かっていたのだ。
だが、それでも、怖くて
全てが怖くて
今あるものすら失うのが怖くて全てから今もって居るものから逃げ出したくなっていた。
守ろうとしても守れないのが怖くて。
だが、いま逃げ出せばそのあるものを守ることもできなくなる。
もしかしたら、守れるかもしれないものを。
目の前の女性は戦っている
失う「かも」しれないという恐怖と。
それは知らないが故の恐怖。
それでも目の前の恐怖から逃げない。
強く前を見据え闘っている。
敵と。自分と。全てと。
勝利を得るために。
防人の誇りを得るために。
ならば、自分も戦えない訳はないだろう。
こんな女性が戦っているのだ。
できなければ男じゃない。


横島は初めから理解していた。それを認められない毒気がとれたといったところか。
「…それじゃここらで私は帰るとするか。最後の一戦はそれなりに楽しめた、最初だけな」
元々、月での異常事態を救うがためにここにいるのだ。
こうしているのも、ある「作戦」を成功させるために、この男が必要不可欠であるからだ。
あまりの剣術の経験の無さに呆れそして修行をさせようとしたのだが。
実践ではあれだけの活躍そするくせに……と神無がいいたくなるのも無理まいだろう。
わざとらしく顔をしかめる横島、だが、それはやがて笑顔へと変わる。
「なんて言い草だ…っとそれはともかく、そんじゃな!」
手を振る仕草こそぞんざいだったが、横島は魂を浄化してくれた恩人を笑顔で見送る。
戦開始時刻は明日午後だろう?
「失敗するなよ」
その顔は、励ましとも労りともとれる。
「!?」
予想外の清々しい表情を見せられて、神無は返事に躊躇する。
言うべき言葉が痞える。
「ん?どした?」
訝しがる横島と眼を合わせた時、神無は極端な鉄面皮になっていた。
「いや、……お前もな。」
神無はゆっくりと言葉を選ぶように何度か唇を動かしその後照れくさそうに言った。

「皮肉だな。ついてきたいなどと言った腑抜けが、別れ際には随分名残惜しい顔になって」
喜ばしい事だ。
傍らに置けない事は違わないなら、せめて誇れる友人であってもらいたい。
彼女はそう思える自分に満足し、また口を開いた。
「今度は私に利き腕を使わせて見せろよ。」
うっさい
という返答が聞こえてきた。
あと、今にみてろやら、ぜってえ倒すとやら聞こえてくる。
くすりと忍び笑いが漏れる。
「今度」この自分の言葉に神無は笑えた。
明日は、命を掛けて闘うというのに。
自分は、明日以降の話をしている。
そして彼も。
死ぬ事など、負けることなど、失う事など考えていない。
否。
失わない理由を増やすために、勝つ理由を増やすために自分達は約束を交わす。
死なないために、そして失わないために。

強くあろうとするために、失い懺悔するそして、傷をかかえ、また前に進む。
確かに失ったものの存在を確かめながら。
それでも前に進む。
強くあるために。
失わない為に。



そして「作戦」が終わり月に彼女は帰った。
後に朧が語る。
帰還するなり彼女は近年まれに見る「上機嫌」ぶりで部下と修練にいそしんだとか。

おわり

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