ザ・グレート・展開予測ショー

防人の唄<ガードナーズ「バラード⇒パンクロック」>〜月下美刃〜


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(01/ 9/ 8)

鍛える事に理由が要るだろうかと考えた事がある。自分を高めたいという欲求はある。
だが、その為に自分の生命健康を危険に晒したり時間を浪費したくはない。失うのは辛い。
それに結局自分が能力を高めたかどうかは何かと比較せねばならない。闘争になる。
更に失う。否、自分が前に進む以上、全てを守って生きては行けない。未来と過去は決して
相容れない。勇気をもって過去に決着し、希望をもって未来を目指す。それでも、
それでも「唯、守りたくて……」思うに、それゆえここまで来たんだろう、お互いに。
両者の再会のくだりは、あえてここでは語るまい。この話はその少し先にある。

闇に包まれた公園。今ここで、水に濡れてるような美しい刃が軽やかに舞った。
ガキィン、ヒュッ
照り返す輝きが美しいその刀はまるで今宵の月のようだ。その鏡のような刀身が払い
落としたのはさしずめ太陽の剣だろうか、烈光そのもので象られた刃は流れるように撃ち
弾かれ、主を守る事叶わなくなってしまっていた。その太陽の主の咽喉元に、月光が、いや、
月光を纏った刃が突きつけられ、時間は凍りついていた。太陽を携えた男は鋼の冷たい
触感を感じる錯覚に陥り敗北を認めざるを得なかった。もっとも彼の勝敗に拘る意思など
微々たるものだったが。月光の刃を携えていたのは女性だった。彼女は相手の表情で
彼の考えを察すると脱力し、刀を支える左腕をだらんと下げた。なさけなげに呟く。
「これで十戦十勝だ。少しは粘ってくれないと困る。なぁ、本当に本気か?」
「あのな、きょうび普通の高校生が実戦剣術なんかできるわきゃねーだろ。」
男というか少年は呆れきった感じの声で言い返した。実際呆れるしかあるまい。
「霊能者が普通の高校生を自称するな。メドーサと渡り合ったほどの霊能者が、な。」
女性にしてみればそこが重要なのだから少年の意見は滑稽でしかない。口元が緩む。
「剣術経験は人並みだろ!とにかく一休みだ。」
ヤケクソ気味にまくしたてて、少年はその場に座り込んだ。もう十回も全力で飛び掛って
払い除けられを繰り返していたのだ。女性の方も嘆息して、近くに置いた自分の荷物から
ファーストフード店などで使ってる物と同じ紙コップを取り出し、中身を飲んだ。
「神無、それ何が入ってるんだ?」
「圧縮した月の魔力。酸素ボンベみたいなもんだ。地球の魔力濃度は私には薄すぎる。」
いつもの少年なら入れ物がそぐわない点を指摘しそうなものだが今夜は違った。
「そーいや月って霊的拠点としてなにやらすごいって聞いたことあったっけ…
姉ちゃんばっかりだし…いーなぁ……俺も月で暮らしたい。厄介事もなさそうだし…」
「竜気か宇宙服が無いと生活できないのにか?姫が月神に転生させてくれるかもな。」
神無は鼻で笑って少年の与太話に付き合った。彼、横島忠夫は疲れた口調で続ける。
「それもいーなぁ…人間より長生きできるもんなぁ。マジな話連れてってくれないか?」
「本気で?お前、地上に未練は無いのか?一年の内に何回も来れるわけじゃないんだぞ。」
「いいよ、アホらしい。未練も何も、死にそうな目にあって俺には…何も残らなかったし」
横島の脳裏に甦る人間社会を混乱に陥れた悪夢、それ以上の悲運の邂逅。
「くだらないな。くだらないよ、不様な奴だよ、お前は。残らなかった?馬鹿を言うな。
お前が守るんじゃなかったのか?私の心を打った貴様はどこに消えた?甘ったれるな!」
神無が本気で怒るのを見たのは初めてだっただろう。元々それほど付き合いは無かった。
「簡単に言ってんじゃねぇ!俺だって精一杯……クソッ!俺が…あいつに、とどめを…」
横島は叫んだ。他にどうしようもない。最初から感情を抑えてなどいなかった。
言ってる内容も滅茶苦茶だ。解ってる。全部理解し、認めてる上で言い返しているのだ。
「愛してその人を得るのは最上である。愛してその人を失うのはその次に良い。だったか?
いや、お前に訊いても知るまい。事情は大体知ってる。お前の決断に、世界中が借りを
作ったといってもいい。だが、見捨てたのはお前だ。悩むのはやめちゃいけない。
誰かに何かを伝えるというのは命より価値があることだ。想いだけでも、お前が
守らなくてはならない。もっとも、表面に出すのは辛いぞ、周りも、そしてお前もな。横島、
お前が守りたいモノは一つじゃないだろう?忘れるな。しかし振り返るな。私にも守るべき
姫がいる。だから、守る為に戦うお前を高くかっていたんだ。それを棄てようとするなら
許せない。月で暮らしたいなどとぬかす貴様は軽蔑する。」
「……そんなの…俺、納得できねーよ。俺はお前見たく立派にゃなれねーんだよ!!」
吐き棄てるように叫んだ横島を、神無はしばし見つめて考え込んでいたがやがて言葉を紡ぐ
「……解った。説教はこれで終わりにしよう。ファイナルラウンドだ。」
刀を構え、感情の波を一旦鎮め、全ての魂を殺気にするつもりで感覚を統合する。最早、
言葉などの上っ面で語れる事などたかが知れてる。互いの魂を交感する死闘の中でしか
閉じた心は開けない。無論、非生産的な殺し合いなど願い下げだ。物理を超越した存在の
殆どは人間が脳から肉体に命令を送るように、チャクラで精神を制御できる。月神も然り。
いわば仮の死闘だ。横島の魂を研ぎ澄ます為の茶番。そして、肝心の横島も乗ってきた。
「なんてぇ冷たい瞳だ…本気で来るってことか?……チクショウ!」
バシュゥゥゥッ
霊気を集束させ、右手を輝く刀身で包み込む。横島の「栄光の手」が発現した。
「覚悟が出来たらいつでも来い。睨み合ってても決着はつかん。」
「今度はお前から来てみろよ。」
真剣勝負の緊張感は自分の精神力では耐えられない。早期決着を狙える相手でもない。
ならば敗北パターンから少しでも離れる。その程度の考えだったが真剣勝負はいつも
その程度の事に左右された。彼の浅い経験の中にも幾つか修羅場と呼べるものがあった。
だから解る、先手をとる事は必ずしも有利な事ではない。彼が理解した事は概ねそれだけだ。
実際は攻撃する際に恐怖から躊躇いが生まれてる事に遠因があるのだが、彼に限らず、
格上の相手と戦闘するにあたって、敵の攻撃をいなした瞬間が絶好の勝機と言える。
「少しは頭が働くようになったか。……いくぞ!!」
シャッ
相手の思惑が読めてる以上、神無は単調に攻めたりしない。初撃は浅く牽制する。
横島は神無の斬撃の迅さにまともに反応するのは諦め、後退して避ける。それに合わせて
神無も前に踏み込んで刀の間合いギリギリを維持し、再び斬撃を繰り出す。
ヒュッ
横島は今度は左に避ける。空振りは直撃以上にモーションが長くなるものだが、こちらが
間合いの外から斬り込んでも神無が体勢を立て直すほうが早いだろう。互いに焦れる。
(もたついてるとスタミナ面で不利な俺はヤバイ!こうなりゃいちかばちか……!!)
(焦るな、もう一撃を布石にしてから踏み込む。あと一撃だけ向こうに合わせろ…)
ジャッ
神無のニ度目の踏み込みからの斬撃を横島が後方に避けた瞬間。その時こそ勝負の急所。
「こな……くそぉぉぉぉぉぉっ!!」
「喰らって‘吹き飛べぇぇぇぇぇぇ’!!」
ガキィィィン
互いが互いに繰り出した勝利に向かう一撃が、運命の符合か奇蹟の合致か、完全に相殺する。
「……今のは…防戦状態で喰らってたらやばかった。マジに強すぎだぜ……。」
「ならば互角だったお前も強過ぎだな……正直、ひやりとしたぞ。」
二人は合せ鏡のように太刀を向け合いながら一瞬の緊張の為の酸素不足に喘いだ。
最早両者は完全に手詰まりとなっていた。相手の手が読めない。本人にも
解らないのだから無理も無い話だが、これは鶏と卵の初めを考えるようなものだ。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
「りゃあぁぁぁぁぁ!!」
森羅万象は何れも原点に還る。二人の戦いも原始的な斬り合いへと回帰していった。

「冷静になって考えりゃ、ガチンコでやったらそりゃ負けるわな。」
仏頂面でぶちぶち愚痴を言う横島に神無は悪戯っぽく笑う。普段は絶対やらない表情だ。
「ま、これに懲りたら多少は精進する事だ。辛い事を他人に押し付けられるぐらいには、な」
「ちっ…、しつこい!……もうやんねーよ。何がどうだろうと俺が選んだ事だし……過剰に
気持ちを重ねすぎんのも死者への冒涜って奴だ。被害者面は止めて想いを守らにゃな。」
横島は初めから理解していた。それを認められない毒気がとれたといったところか。
「…それじゃここらで私は帰るとするか。最後の一戦はそれなりに楽しめた、最初だけな」
元々とある年中行事の帰りに、腕試しに横島のとこに寄った神無であった。
「なんて言い草だ…っとそれはともかく、そんじゃな!」
手を振る仕草こそぞんざいだったが、横島は魂を浄化してくれた恩人を笑顔で見送る。
「!?」
予想外の清々しい表情を見せられて、神無は返事に躊躇する。言うべき言葉が痞える。
「ん?どした?」
訝しがる横島と眼を合わせた時、神無は極端な鉄面皮になっていた。
「いや、……またな。」

「皮肉だな。ついてきたいなどと言った腑抜けが、別れ際には随分名残惜しい顔になって」
喜ばしい事だ。傍らに置けない事は違わないなら、せめて誇れる友人であってもらいたい。
彼女はそう思える自分に満足し、また口を開いた。
「今度は私に利き腕を使わせて見せろよ。」

後に朧が語るには、
帰還するなり彼女は近年まれに見る「上機嫌」ぶりで部下と修練にいそしんだとか。

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