ザ・グレート・展開予測ショー

月に吼える(22)後編


投稿者名:四季
投稿日時:(01/ 9/ 3)

ゴクリ。

自分の唾液を嚥下する音が、やけに大きく感じられた。

背中に三対の視線が突き刺さっているのが解る。

いや、何もその役割が嫌だというわけではないのだ。

自分から望んでここまで来たわけであるし。

事務所で地団太踏んで悔しがっているであろう狼少女たちの顔が思い出される。

ただ。
「……なんか、嫌な予感が……」

その手の予感は外した事が無い横島である。

これが経験則というものか。

もっとも、悪い予感が当たっても嬉しくないかもしれない。

せめて、ねぎらいや信頼の言葉のひとつでもあったら即刻覚悟完了なんだがなあ、とか思ったりする。

「ほらほら、ボーッとしてても扉は開いてくれないわよ」

ところが背中を押すのは暖かい励ましではなく、真冬の荒海へ突き落とす蹴りだったりするのだ。

「……鬼」
そりゃあ、溜息も出る。

「……職務命令♪」

もっとも、これも彼女が心底気を許した相手にだけ見せる彼女なりの甘えのカタチだったりする。

横島に降りかかる事態が改善されるわけでもないが。

「へいへい」

主観でも現実でも容赦ない雇用主の言葉に煤けた背中で応じると、それでも微かに表情を引き締め、横島はカードを扉脇のスリットへ通した。

ピッ。

短い電子音が響く。

圧縮空気の音から数瞬遅れて滑らかにスライドする扉。

いささかの滞りもなく開ききった扉の先には。

「……やっぱりね」

昨日の経験から、或いは何らかの予測を立てていたのか、美神がおキヌごと壁の裏に飛び退きながら呟く。

そこには、レーザー発振機付きのロボットアーム一ダースが待ち構えていた。

無機物の瞳が無感動な機構で獲物に焦点を合わせる。

「やっぱりってなんやあああ!!!」

涙目で絶叫する横島の掌で文珠が輝くのと同時。

目の前の空気が爆ぜた。

鈍い爆発音とともに、半数近いレーザー発振機が四散する。

「おっ、やるねえ♪」

敏捷な動きで既に飛び出そうとしていたグーラーが横目で口笛を吹く。

横島がかざした文殊には、『鏡』の文字が浮かんでいた。

「……寿命縮むってーの……」

冷や汗を額に浮かべながら、横島が苦笑を返す。

正直、確実に上手くいくという確信があった訳ではなかったのだ。

笑ったつもりだったが、唇の端が痙攣するのは止められなかった。

誰だって、生きたまま体を焼き切られたくはない。

「良くやったわ、横島君」

何時の間にかシリアスなパートナの仮面を被った美神が横島の脇に立っていた。

人間には不可能な、跳躍というよりは飛翔と表現した方が似合うような動きで機械仕掛け

の光の槍を砕くグーラーを頼もしそうに見詰めている。

その表情が、微妙にわざとらしかったりするのだが。

「アンタなあ……」

白兵戦向きではないおキヌはまだしも、肉弾戦にも超一流の実力を発揮する美神の行動は、そもそも確信犯である。

それはジト目にもなるだろう。

「ま、いーじゃない、結果おーらいということで♪」

横島いわくの胡散臭い音符を語尾にくっつけて、美神が朗らかに笑った。

内心がどうかは知らないが、表面上まったく動じていない。

この辺りは関の親戚の面目躍如といったところだろうか。

「横島さん、だ、大丈夫ですか?」

一同の良心、というかほぼ唯一の常識人おキヌが、戦闘の衝撃の所為か開いたまま動かなくなった扉をくぐり、フロアに慎重な歩みを進めつつ心配そうに尋ねた。

「ん、ああ、別に、怪我とかはないよ。……サンキュ、おキヌちゃん」

緊張からか不安からか、引き攣ったような表情のおキヌを安心させるように横島が笑い返す。

難儀なことに、この男は女性にこのような表情をされてしまうと、心底本気で「ま、いーか」なんて思ってしまうのだ。

何年務めても『元』が取れた気がしない理由である。

「にしても……」

横島が、周囲を見渡して呆れたような声をあげた。

「広いですねえ」

「ああ、なんか、無駄に広いな」

貧乏性というか、普段暮らしている部屋が部屋なだけに、横島の目にはその空間は無駄に
広く、寒々しく見えた。

何畳あるのか判別できないようなフロアの中は、贅沢と言う表現も生ぬるいような密度で
無造作にいくつかのブースが仕切られている。

残る大半はフリーのスペースで、ソファやらテーブルやらに混じって子供部屋かと錯覚を覚えるような、作りかけのパズルやレゴなどが散乱している。

「おっ、懐かしいなあ」

「でも、ここってお仕事する所なんですよね?」

思わず其処に来た理由も忘れてはしゃぐ横島と首を傾げるおキヌ。

もっとも、美神の事務所にしても一般的な職場のイメージからは程遠いだろう。

「研究者って人種は、変わり者が多いのかしらね」

残敵処理を終えた美神が、苦笑気味に呟いた。

その脳裏にはどこぞの獣医が浮んでいたりする。

「にしても、やっぱり此処で正解みたいだね」

場の気配に敏感なグーラーはどことなく厳しい表情だ。

本来そこに息づいていた筈の人間の生活感というものが、既に失われて久しいからだろう。

空調は働いているはずなのに、その空気はイヤに澱んでいた。

「やっぱり、ここで間違いなしか?」

「ああ、そうだね。その割には、挨拶がないみたいだけど」

『おや、そんなモノが欲しかったのかい?』

くぐもった声が部屋中に反響するのと同時に、照明が落ちた。

〜つづく

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