ザ・グレート・展開予測ショー

月に吼える(22)前編


投稿者名:四季
投稿日時:(01/ 9/ 3)

「B2か……ここね」
 呟き、神通棍を握り直す美神の姿に、周囲の空気がほんの少しだけ引き締まった。
 革が擦れるギュッという音が地下階特有の圧迫感を持った空気にやけに高く響く。
「あれ、まだ下があるみたいですけど?」
「ああ、地下三階は倉庫になってるのよ」
 体を乗り出す様にして階段を覗き込むおキヌに、美神が淡々と応じた。
 無造作な物言いだが建物の見取り図は完全に頭に入っている。
 負けん気の強さは金銭関係にだけ発揮されるわけではないようだ。
「あ、そーなんすか?」
 こちらは地で緊張感が無い横島の物言い。
 大物の柔軟さと見るか弛んでると見るか、意見が分かれるところだろう。
「そーよ。で、ここの階層にあるのがラボの中心てわけ」
 美神はそんな横島の様子も特に気に掛けてはいない様だ。
 何より自分自身の実力に自信があるのだろうが、もしかしたら慣れているのかもしれない。
 重厚な金属の扉にオレンジの塗料ででかでかと書かれたB2の文字に、挑むような視線をぶつける。
「そーだねえ。アタシが昨日来たのがB1までだから、ここがアタリじゃない?」
 やや黄色がかった蛍光燈の灯かりの下で、グーラーがすっと目を細めた。
 一見横島のそれと同質の気楽さを感じるが、瞳の奥には秘めた強い怒りが揺らめいている。
 この場所から始まった悲劇の、彼女は当事者なのだ。
「それじゃ、気ぃ引き締めていかなあかんなあ」
 何処まで本気なのか、横島が「んーーっ」と体の筋を伸ばした。
 除霊道具がぎっしり詰まったお馴染みのバックパックがその背中でゆさゆさ重そうに揺れているのを見て、グーラーがふっと表情を緩める。
 意識的にそうしたというよりは、自然に力が抜けたというべきか。
 言葉そのものはのんびりとしているが、なんとなく、横島の本気のようなものを垣間見た気がしたのだ。
 何故かはわからないが、その不器用にも見えるヨコシマのカタチが、彼女には心地よかった。
「……」
 二メートルばかり後ろでは、そんなグーラーの表情に気付いたおキヌが複雑な表情をみせていた。
 目の前の女性に良く似た表情をする人間を、どこかで見たことがあると思ったのだ。
 それも、とても身近に。
 あれは、誰だったろうか?
「ふーん。それじゃ、その気合に免じて……はい」
 横島の様子をじっと見ていた美神が、おキヌが答えを導き出す前にぽんと無造作に何かを放り投げた。
「おわっ、いきなり何を……」
 眼前に唐突に飛来したそれを、横島は危うく掌で受け止める。
 抗議の声を上げようとして、ふと掌の中のそれに視線を落とした。
「なんすか、これ……カード?」
 それは現代人には馴染み深いプラスティック製のカードだった。
 もっとも、馴染み深かったのは材質と形状だけで、その両面にはいかなる種類の文字も、装飾も施されておらず、まるで使い道は知れない。
 ただただ無愛想な材質の白さだけが目立っていた。
 なまじ形になれているだけに、正体不明のそのカードには却って心情的に落ち着かないものがある。
「IDカード。依頼人が作ってくれたのよ」
 ひとさし指をぴっと立てて、美神が種明かしをした。
 急ごしらえ故の不愛想さという事か。
「全権が付与してあるわ。もっとも、そのラボの中の誰かが変更していなければ、だけど」
 前日のセキュリティルームでの有り様ではあまり期待できないかもしれないが、それでも扉を開く事ぐらいは出来るだろう。
 現に今日も、ここに来るまでの間にあった扉は開いた。
「なるほど」
 しげしげと掌の中の白いIDカードを眺める横島の肩を、美神がぽんと叩いた。
「じゃ、そーゆー訳だから」
「へ?」
 横島が一瞬呆けたような顔になる。
 会話の飛躍について行けなかったのだ。
 だが、彼の雇用主は満面の笑みで(これが油断ならないのだが)彼に告げた。
「行け、切り込みとっこー隊長♪」
……
……
 神風ですか?
 万歳突撃です。
「その音符が胡散臭いんじゃあああっ!!」
 横島の絶叫は、誰にも省みられなかった。
 それは極めてありきたりな事だったけれども。
後編へと続く

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