ザ・グレート・展開予測ショー

鈴の少女


投稿者名:AS
投稿日時:(01/ 9/ 9)




 ー鈴の少女ー



 汚い。
 第一印象は、それだった。
 顔中、髪の毛にも、とにかく泥まみれの少女を見れば、いかに聖職に携わる者であろうともそう思わざるを得ないだろう。
 服装はもっとひどい。
 服とは思えない程に破けていて、通常は露出させる必要の無い部位を覗かせていた。汚れも更にひどく、悪臭をこれでもかと撒き散らしている。弟子の青年が苦い表情で(それでも裾を掴む小さい手は振り払わずに)ボソボソと事情を説明し始めた。
「えっと・・・散歩してたら偶然、鴉がこの子の鈴をくわえていってしまって・・・それで見ていられなくて・・・」
「ふむ」
「鴉から鈴を取り戻して、追い払ってー・・・当然この子に返したんですけど・・・」
 そこで青年は口をつぐんだ。果たしてこの先を言ってもいいものか・・・と、考えながら視線を泳がせている内に、見上げる様にして青年を見つめている当の少女と目が合う。
「ぁ・・・」
 ニコ・・・
 少女が微笑んだ。
 かかっていた前髪から僅かにだが瞳が覗く。
 それは心の底から嬉しいというのがハッキリと感じられる、そんな『笑顔』だった。もはやこの笑顔自体が青年が師に伝えるべきか悩んだ言葉をどこまでも力いっぱい、表している。

 少女は青年が『好き』なのだ。

 そして、それを見た神父が為すべき事は一つしか無い。
「さて、と・・・風呂でも沸かすか・・・」
「先生?」
 ピートはふいをつかれ、師の余りにも脈絡の無いと思えるその言葉に完全に惚けてしまう。肩をすくませ、それでも穏やかに・・・惚けている青年の師匠であり、またこの教会では唯一の神父でもある『彼』は静かにこう告げた。
「ピート君。君は得意な紅茶でも飲んでいなさい・・・あそこのご立派なソファーにでも座ってくつろげば身体も温まるさ」
 そう言って、風呂場へ向かおうと身を翻す直前に、弟子の青年が深く頭を垂れている姿を目の端でとらえた神父は、苦笑しながらもただ黙ってそっと眼鏡を掛け直した。

 時計の短針が一つだけ進んだ。

 さすがに風呂場まで少女についていくのは、師弟共に抵抗があり・・・今現在彼らは応接間で、ウロウロとそこら辺を行ったり来たりしていた。
『・・・・・・』
 何というか実に間の抜けきった光景。それを演出している二人とて、別にそうしていても何にもならない事など最初から熟知している。それでも落ち着かない気分だけはどうにもならず、結果としてこういった行動へと行き着くしかない。
『!』
 風呂場の方から、気配が伝わる。それを裏付ける様に足音が聴こえるや否や、二人は顔を見合わせてから同時に咳払いし、何事も無かった風を装い、椅子に腰かける。
 やがて、少女が姿を現した。
「ほぅ・・・」
「はぁ・・・」
 またも師弟揃って、今度は感嘆の吐息を洩らす。
 現れた少女は、別人に等しい。
 男二人で暮らすこの教会に、この年齢・・・12、3くらいの少女が着る服などある筈もなく、神父は知り合いの女性陣に片っ端から電話をかけ、最も信頼の出来る店を聞き出した。即座に向かい無理な注文と知りつつも、サイズの合いそうな服を十着ほどまとめて買い、教会へと駆け戻る。
 この間、全てを終えるのに使った時間は僅か五分。その努力は報われたと神父は心の底から思った。
 泥にまみれていた時と違い、雪の様に白い肌。その肌に映える黒髪は変わらず乱れているが、それでも印象は受けるまるで違うものとなっていた。無造作に置いてあった服の内、少女が選んだのは水色のワンピース?というのか?そういう事に疎い神父には良くは解らなかった。
「ぁ・・・あの・・・」
 絞り出す様な少女の声。その声に二人は我にかえった。
『ナ、何カナ・・・?』
 二人共、完全には覚めていない事が丸わかりの棒読み口調だったが、少女は気にしなかった。
「私の・・・鈴・・・は・・・?」
 何だか最初に聴いた時と、声のイメージまで変わった様な気がする・・・そんな事を心の中でぼやきながら、ピートは首にかけられる様、細工を施した鈴を手渡した。
(???)
 少女はしばらくの間、良く分からずに戸惑いの表情で鈴を眺めていたが、やがて理解するともたつきながらも首にかける。
「・・・ぁ、ありがとぅ・・・」
 はにかんだ笑顔を浮かべる少女に、実に晴れやかな心地の二人はそこでやっと『問題』に気がついた。
 問題、その一。
『この子・・・名前は?』
 問題、その二。
『この子・・・お家は?』

 そしてーーー問題、その三。

『これから・・・どうしよう?』

 一転困惑する二人の前で、不思議そうに少女は首を傾げた。



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