ザ・グレート・展開予測ショー

放火魔軍団、顔合わせ!


投稿者名:AS
投稿日時:(01/ 8/29)




 ー放火魔軍団、顔合わせー



 とあるデパートの休憩所。
 そこに彼女は居た。平和な光景がその目に飛び込んでくる。
 外の鮮やかに映る緑も、中の行き交う人達の明るい笑顔も、目にするもの全てが彼女・・・沙雨藍には眩しかった。薄暗く陰湿な下水のアジトを出て、しばらく離れていた普通の日常へと触れ、それを目にする度に彼女はいつも想う。
(どこで・・・道を踏み間違えたんだろ・・・)
 そう胸中で呟き、備えつけの椅子に腰かけた。そうしてから改めて、現在の自分を考える。
 長い栗色の髪に、愛敬のある顔。平均に比べてやや小柄な躯と、外見的には際だっておかしいところは無い・・・筈だ。
 かといって・・・性格面に問題があるとも彼女は思えなかった。息する『非常識』といつも間近で接していようとも汚染だけはされない様に、その心構えだけは忘れはしない。決して朱に染まってなどいない。例え連続放火魔の一人に数えられようと。
(なら問題は・・・)
『藍さん』
 ー火口にでも投げ捨てて、聞かなかった事にしたい声ー
 彼女は目を閉じ、聞こえないふりをした。
(それなら問題は・・・)
『三日前上司の湯飲みに下水の汚物を入れた陰険な藍さーん!』
「っ人聞きの悪い言い方をす・・・しないで!」
 いつの間にやら耳元に寄せられた拡声器を振り払い、彼女は立ち上がった。目の前にはここで待ち合わせた相手・・・仮面が悠然とたたずんでいる。
『お待たせしました・・・とと』
「そんな格好で出てくるな!声かけるなぁーーーー!!」
こんな場所でも仮面に黒マント姿の『非常識』の手を掴み、突き刺さる無数の冷たい視線から全速力で遠ざかった。

 ーそれから三十分間、彼女は走り続けたー

「はぁ・・・はぁ・・・!」
『お疲れですか、藍さん?』
 かけられた声に、彼女はゆっくりと視線を上に向ける。
(・・・化け物)
 その目の先には、同じ距離を走ったにも関わらず汗一つかいた様子もない仮面の姿があった。本当に自分と同じ人間なのか、とつくづく疑わしくなる。
 そんな彼女の疑いの眼をさらりと流して・・・仮面は拡声器をテーブルの上に置いてから、マントの中から手さぐりで小さな箱を取り出した。
『とりあえず非合法なモノですが、これを飲ませれば・・・』
「彼は助かるのね!?」
 それまでの不機嫌さが嘘の様に、彼女は顔を輝かせた。
『ええそれはもう・・・この薬を一口でものめば、顔は紅潮するどころか真紅に染まり、口から火を吐くのでは無いかとこちらが心配になる程けたたましく吠えまくりながら空へ向かってー』
「捨てて」
『冗談ですよ』
 にこやかに笑う仮面へとー
「せいっ!」
 藍は渾身の右ストレートを放った。

 それからしばらくは何事も無く、二人はアジトへと進む。
 既に日は落ちかけ、辺りは夕闇に包まれていた。並んで歩く二人の後を、細長い影がついてくる。
「あれ?」
 藍の眼に、前方で誰かが止まれ!と叫んでいるのが見えた。目をこらして良く見ると、その誰かは制服を・・・あれは・・・
「ーーーーーー!!!」
 藍の顔がひきつる。青ざめる。
「ち、ちょっと!警察よ!早く逃げなきゃ・・・!」
 慌てふためく彼女。しかし仮面はにこやかに笑うだけだった。
『大丈夫ですよ・・・私はただ仮装しているだけと言えばいいのだし、今日は大した武装もしてませんから・・・』
「ほ、ほんと・・・?」
『ええと・・・今日はマントの下にニトログリセリンを少々、それと四十五口径の愛用の拳銃を三丁、それに後はサブマシンガンと小型ロケット・ランチャー・・・』
 栗色の髪を振り乱して彼女は絶叫した。するしか無かった。
「あ〜、君達、少しの間いくつかのしつも・・・ん・・・」
 プス!ドサァ!
『走りますよ!』
 不用意に近づいた警官を即効性麻酔針で眠らせー・・・仮面が駆け出した。
「ち、ちょっと!」
 一瞬、棒立ちになったのも束の間、立ち直った彼女も後を追おうとした・・・その時。

『そこまでだ!』

 重なった五つの鋭い声に、仮面と彼女が足を止める。
 振り向くと、目に映ったのは夕陽の中の五つの影。どこから引っ張って来たのか、普通の道の『ビル』の上からこちらを見下ろしている。良く見えないがそれぞれが統一された色のスーツとヘルメットを着用していて、あれではまるで・・・
『とう!』
 その中の四つの影が飛翔する。見事に着地した。
「ま、待ってくださ・・・ブッ!?」
 最後に残る一つの影も飛翔する。顔面から着地。
「何やってんのよ!あんたは!」
 黒いスーツの女性?が叫ぶ。藍はポツリと呟いた。
「・・・・・・何なの?」

 ーその問いに答えるモノは、いなかったー


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