ザ・グレート・展開予測ショー

夕霧。


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(01/ 8/28)

私は言う。
それを例えていうならば、まるで夕霧のようだと。と

もう太陽も沈んだというのに何処と無く薄明るい。
それは、陽光を反射させている雲と、そして真っ白な霧のせいであろう。
ベットに横たわっていた一人の少女が、そっと腕を布団から出し上半身を起そうと手のひらをベットの上に置く。
年の頃は10代後半だろうか?
腰まで伸びた黒髪に、黒目がちの大きな瞳、白い肌。純日本的な、そして可愛らしい。と言える容姿の持ち主である。
だが、今は、少女の頬は紅く染められており、その表情もどこか、夢見ごこちと言った感じである。
「あれ?」
そして、驚いたように少女。
上半身を起こそうした腕が体重を掛けた瞬間
かくんと音をたてて体ごとベットの上に崩れ落ちたのだ。
「やっぱり…入院が長かったせい…かなあ」
と呟く声は掠れており力がない。
頭は、かすみがかっておりどうにも、いつもの通りに動けない。
おきなければ、と思っているのに起き上がれない。
体が、動かない。
声が掠れる。
誰もこの部屋には居ない。
いま少女は、自分の部屋に一人だ。


似ている
あの時と−
体に多くの管をくくりつけられていた時と。
2年間。
言葉にすると、あっけない。
だけど、実際の時間はとても長くて・・・・・・・・・・
空調は完璧、湿度もぴったり、でも恐い。
−そして一人で。
誰も私を知らない。
この病院から動く訳にはいかない。
助けは、ベットの上のボタン、ナースコール。
じんと目頭が熱くなる。
風邪のせいではない、熱のせいではない涙が、目じりに溜まる。
ぼんやりと霞ががった頭に微かに蘇る記憶。

それは、長い長い時間ひとりでいた記憶。
もう、過ぎ去ったことのはずなのに、こんなに、怖い。

少女は、もう一度手のひらをベッドに置き腕を立てた。
そして、起き上がろうとする。
もう違う事を確認しようと
がくがくと震える腕を無視し
上半身を起こす。
上半身を起こした少女の顔は笑みに彩られていた。

大丈夫。
自分は起きれる。
体を動かせる。
体の病魔は去った。

もうあの時は過ぎ去ったのだ。
今こうして退院して家にいる。
長期入院を経て。

病院にいた時間
目に映る自分の部屋がちょっとだけ小さく見える。
それを思い起こすのは、怖い。
だけど、今自分は、それを乗り越えられる。
そう思うと嬉しく、とても誇らしかった
そして、あの時間をきちんと認められる自分がとても好きだとも思う。

嫌だった場所、治療を認めて、恐がった、そして乗り越えられる自分。
御世辞にも潔い良いとはいえない。
だけど、それでいいのだ。
と思う。
恐くても。
みっともなくても。
それでも、乗り越えられるなら。
霧に囲まれた世界で月や星を探し出せるなら。

そして少女はまたベットに崩れ落ちる。
だが、その顔には先程の哀しげな表情は無く、どこか嬉しそうなそしてバツの悪そうな表情だ。
その瞬間
病人を気遣ってだろうか?
音も無くドアが開いた。

ほら―光が見えた、私にとても似ている幽霊さんと共に。

おわり
・・・・・・うーむ。でもねぇ、オキヌちゃんでしょ?
なら、死神から逃れた彼女しかいないよねぇ・・。ちょっと軽いかもしれませんが。

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