ザ・グレート・展開予測ショー

放火魔軍団、右往する!


投稿者名:AS
投稿日時:(01/ 8/25)




 ー放火魔軍団、右往するー



 ー下水道ー

 人が立ち寄る事も少ない、人外のモノ達の巣窟。

 その下水道に、女性の荒い息遣いが響く。
「ぜ〜っ・・・ぜ〜〜〜・・・っっ!!!」
 まるで60kgの何かを、背中にしょって全力疾走したかの様な見事なまでの消耗っぷりで、仰向けで『床』に転がる一人の女性。
 長い栗色の髪が床に広がり、小柄な躯をめいっばい大きく広げて・・・美人というより幼さの残る愛敬のあるその顔を明かるい天井へと向けながら・・・彼女は疲弊しきっていた。
 何というか、あえてその様子を語るなら、ハードなマラソンの直後でもここまでにはならない・・・現在の疲弊しきった彼女の姿を目にしたなら、誰もがそんな感想を胸に抱く事だろう。
 ズズ〜〜〜・・・
 そんな彼女の耳に・・・呼吸が出来る様に顔の上の辺り、半分だけを覆い隠した悪趣味な仮面(いつか暗闇で薄く青白く輝いたのを見た事もある)をかぶった男だか女だかも知れない様な意味不明の生物が茶をすする音が聴こえてきた。
(・・・・・・)
 恨みがましい眼で、円卓の上座に腰かけるその『仮面』の姿を捉える。
 ー仮面ー
 下水道の奥深くにこんなアジトを作りあげ、平和に、そしてシアワセに暮らそうとしていた自分達、新婚夫婦を犯罪の裏街道へと引きずり込んだ・・・そんな人害の外道者。
 こんちくしょう。心中で彼女はそう吐き棄てた。
 それと同時に。
『何か・・・言いました?』
 コトン、と湯飲みをテーブルの上に置き、仮面が伏したままの彼女を見、薄く笑う。彼女の口元にも凄絶な笑みが浮かぶ。
「別に・・・ただ『こんちくしょう!』と思っただけです・・・それが何か?」
 ズズ・・・
 再び、茶をすする音。
(・・・・・・)
 強い忍耐の心で(ギリギリと歯がきしむのだけは止められないが)彼女は半ば予想のつく答えを待った。やがて、こちらも再びだが、コトンという音と共に、湯飲みがテーブルに置かれる。
『まぁ・・・良いでしょう。今回はお疲れの様ですし・・・』
(誰のせいだぁぁぁーーーーー!!!?!)
 またも心中で、言う。いや叫ぶ。
 ズズズ・・・
 そんなこちらの慟哭を込めまくった悲痛な叫びを気にも留めずに、恍惚と茶をすする仮面に対して・・・過去に何度抱いたかも知れない、そんな明確な『殺意』を抱く。
(・・・・・・はぁ)
 嘆息し、この広間から続く仮眠室で、麻酔針でただひたすら眠り続ける『彼』の事を想う。いくら逃走を計ろうとしても、こんなところに彼一人を残して行ける筈が無い。しかもタチの悪い事に、本来の彼は仮面の事を『生涯の友』・・・そう認識(誤認)してしまっているのだ。
 まさに人質同然である。
 見えない鎖、自分を縛る強固な鎖。しかも自分の『能力』で鎖を断ち切るわけにもいかない。無限回廊。
(これで衣食住が保証されてなかったら・・・刺し違えるしか無いとこだけど・・・)
 彼女がそう結論づけ、無理に納得しようとしたその時。
『さて・・・』
 いきなり、仮面が立ち上がった。
「!」
 とっさに身構える。そんな彼女の反応を面白いと思っているのか、しばし眺めて・・・仮面はこの広間に設置されたモニターを操作した。映像が浮かびあがる。
「これは・・・この二人は?」
 その映像への疑問に対して・・・仮面が毎度の事ながら、抑揚無く答える。
『これが次のターゲット・・・唐巣神父の根城とする・・・』
 一度、言葉を止める。もったいぶるな!と、彼女は叫ぶ。
 そんな魂の叫びも知らず・・・(多分知っているだろうが)次の映像の前で、仮面はこう語った。

『この教会を明日・・・灰にします!・・・フフフ・・・』

 何という・・・邪悪な含み笑いなのだ。

(これでもう・・・神様に許しを乞う事も出来なくなるのね・・・今日の内に出来得る限り、お祈りしよう・・・)

 自分にはすがるものすらもう・・・残されない。彼女は自らのあまりの不遇に涙した。

 無論、そんな悲痛を仮面は気にも留めない。

『さて・・・いろいろと準備しますので、私はこれで・・・』

 そう言い壁のスイッチを入れ、下水道に作ったこのアジトの更に地下に在る部屋、現れた武器庫への階段を仮面が降りて行く。

 ーその後ー

 彼女が残された湯飲みに汚水を入れたのを知るのは、もうじき祈れなくなる彼女の神様だけだったー



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