ザ・グレート・展開予測ショー

狼牙(後日談)


投稿者名:AS
投稿日時:(01/ 8/23)




 ー狼牙ー



 ー空を見ていたー

 蒼い。ただひたすらに蒼く、そして広い。そんな事を心に感じつつ、彼は空を眺めていた。自身に同じ問いを繰り返す。
 今彼は寂れた屋敷の前庭にいる。とても・・・とても長かった一日の決着を着けた場所。そこで大の字に寝転がりながら、いつかと同じ事を己に問う。
「なぜ俺は・・・ここにいるんだ・・・?」

 ーそう呟き、彼は昨晩の事に思いを馳せたー
 
 シャアァァン!
 優しい光で辺りをてらす紅い月と同じ色の光・・・月へ還ろうとするかの様に真っ直ぐと空へ駆け上がったその光が怪物を呑み込み、やがて溶け消えたその時。
 ー決着はついたー
 全ての謎、思惑、確執、闘争、これらたった一日の間に起きた全ての出来事。
 それらな幕を下ろしたのは中心に在った霊刀『狼牙』とその所有者となった青年『伊達雪之丞』であった。
 ドサァ!
「ぐ・・・!」
 先程まで怪物と化していた男が地に落ち、呻く。
 グラリ・・・
「く・・・」
 それと時を同じくして、よろめき倒れようとする雪之丞。
 地面へと引き寄せられる彼を、一本の太い腕が支えた。すかさずそれを払いのけた雪之丞に対し、腕の主が苦いが太い笑みを浮かべる。
「・・・つくづく意地を張る奴ジャノー・・・」
「るせぇ・・・」
 消耗しきってへたりこむ精神感応力者と、地に伏す霊刀の主。
 そんな彼らに肩をすくめながら、色黒の女性はところどころ破けた黒装束を身に纏う男に近づいた。男が何か言う前に、完全に昏倒させて、携帯を取り出す。
「そう、片付いたワケ・・・場所は・・・」
 誰かとの連絡を終え、携帯をしまってから、彼女は二人の青年の元に近づいた。
「タイガー、立てる?」
「な、何とか・・・グ・・・!」
 苦しげに身を起こしたタイガーを支え、次に彼女は伏す青年へと目を向けた。
「ま、下らない奴ってのは、保留にしたげるワケ」
 背を向け、続ける。
「次に会った時、昼と同じ目をしてなければ取り消したげるワケ・・・じゃあね!」
 二人は階段を下りて行き、やがて視界から消えた。

 ーそしてー

「では・・・本当に良いのですね?」
 二人が消えてすぐ・・・その事務所の臨時雇いの連中が黒装束達を連れどこかへ消えた後、舟の前で彼女、神無は言った。
「・・・・・・」
 雪之丞は答えない。神無は嘆息し、転送カプセルに収まった霊刀を見やる。
「狼牙はこの転送カプセルの力を借り、貴方が呼べば瞬きする間に駆けつけるでしょう・・・」
 そこまで言い、一度咳払いをし、言う。
「貴方が主として本当に相応しいか、分からない・・・けど、不相応とは思いません。・・・良い闘いでした」
 そう言い、神無は微笑む。思わず見惚れてしまう様なその微笑みに、彼が戸惑ってる間に、彼女は舟に乗り込んだ。舟がゆっくりと、しかし確実に大地から離れて行く。
(・・・・・・)
 それを見ながら・・・彼は小声で囁いた。
(・・・ろぉが)
 バシュン!
 彼の右手に慣れ親しんだ感触が甦る。まじまじと見て、二、三度握ったりしていると、空の石舟が急停止した。
 グオォォオッッ!!!
 そう思った瞬間、舟が爆降下して来た。
 バン!
 地響きと共に着地した舟から、額とこめかみに青筋、加えて頬を紅潮させ肩を震わせながら・・・神無が現れた。百人に聞いたら一万人が怒っていると判断するだろう。事実彼自身もそう思うし、聞けば(聞く馬鹿も無いだろうが)彼女もそう言うだろう・・・ともかく彼女は刀片手にした雪之丞の前で、大きく息を吸い込んだ。叫ぶ。

『何を考えているのだっっ!!!貴方はっっ!!!?』

 そうして、今の今まで夜通し説教され、今に至るわけだが・・・ともかく彼は身を起こした。何かが脳裏に甦る。
(学校・・・か、逃げたと思われてっかな・・・?)
 心中で呟き、彼は昨日自分を動かした根源を思い浮かべた。
「借りは返す・・・か、よし!」

 ーパン!と頬を叩いてから、彼の足は自然とある場所に向かったー

 ーちなみにその頃・・・彼を鍛えようとする侍と、無断欠勤を理由に減棒を言い渡そうとするGS協会副会長兼スクールの理事長が待っている事を、補足するー

 ーそしてー

「まったく・・・・・・ん?」
 月の石舟の中で、静かに狼牙が煌いた。


 ーこれからの主の苦闘に苦笑いするかの様に、ただ静かにー



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