ザ・グレート・展開予測ショー

狼牙(終)


投稿者名:AS
投稿日時:(01/ 8/21)




 ー狼牙ー



 ザガァッ!
 束縛され、無防備となった首筋への、意識を刈り取る一撃。
 黒装束達の首魁は場の全員が注視する中、ゆっくりと両の膝を着き、そのまま上体を前のめりに・・・
 ーーーガクン!
 男の身体が震えた。ーそう認識した瞬間ー
「!」
 ド、ガシャアァァッッ!!!
 エミの身体が宙に投げ出された。そのまま地面へと叩きつけられる。それが黒装束の男の左腕から繰り出された一撃によるものだと皆が悟った時、エミが苦しげに身を起こした。
「あ、あんた・・・もう・・・」
 受け身には成功したらしく、思いの外ダメージは受けていない様だった。眼を男に向けたまま、立ち上がる。
「もう・・・アイツに魂まで・・・侵されて・・・」
 エミのその一言が引鉄となった。男が狂ったかの様に叫ぶ。
『ぐ・・・グ・・・!グガアァァッッ!!』
 黒装束が破れ、裂け、ちぎれ飛ぶ。そうしてその内に在った『男』の肉体が露出する。そしてその肉体は・・・
「な、何・・・あれは・・・!」
 神無が口元を掌で押さえ、息を呑む。目に映る『男』の肉体、その姿はヒトのものでは無かった。黒い鱗に似たものが全身覆い尽くし、鎧の様にも視える。急激に伸びた感のある頭髪も、それ自体が完全に頭部に付着して、兜の役割となっていた。
『クク・・・コレハイイ・・・!トテモ、イイキブンダ!』
 もはや人としての面影を残さぬ『男』・・・いや怪物の口から笑みがこぼれる。それは目に、あるいは耳にした者に禍禍しさ以外に与えるものは無い、暗い笑みだ。
「エミさん・・・!」
 タイガーに向かい頷き、エミが言う。
「間違いない・・・悪魔化よ!」
 ー悪魔化ー
 その言葉に怪物が反応した。
『ホウ・・・スデニハアクシテイタカ・・・サスガハ・・・』
「あたしの前でアイツの名前を言うんじゃ無いワケ!」
 そう言い放ち、エミは怒りに燃えた眼のままに、携えたブーメランを向ける。しかし怪物は嘲笑するのみだった。
『ワラワセルナ・・・ドウサツリョクハホメテヤッタガ、コノチカラノマエニハキサマナド・・・』
 その時。
 凄味のある声が割り込んだ。
『己が鍛錬した力でも無いというのに・・・厚顔な輩よ・・・反吐が出る!』
 後ろからの、侮蔑を隠そうともしないその言葉に、怪物が振り返った。
『イッテクレルナ・・・タカガカタナノセイレイフゼイガ・・・ソノカタナヲヘシオッタトキドウナルカ、キョウミガワイテキタゾ・・・!』
 その脅しを悠然と受け止め、刀を握る侍は静かにこう言った。
『こちらとしても、相手をしてやりたいとは思うが・・・な』
 そう言い、侍の男は見た。タイガーの後ろでゆらり・・・と立ち上がった青年の姿を。視線はそのままにして言う。
『忠告しておこうか。逃げるなら今の内だ・・・さもなくば貴様は無に還る事となる・・・』
 怪物は、侍の言葉に冷笑した。
『・・・ナニヲイッテル?コノオレヒトヲコエタンダゾ!キサマラゴトキニ・・・』
 シャアン!
 怪物の傲慢な言葉は止まった。右腕がゆっくりと、落ちる。

『この・・・馬鹿野郎・・・思い出させやがって!』

 刀を振り抜いた青年が言うと、怪物の無くした右腕が在った筈の場所から、黒い血が噴き出した。
『グ・・・アアアァーーー!?!』
 絶叫。何が起きたのかハッキリとは認識出来てはいないのだろうが、怪物の本能は激しく警鐘を打ち鳴らした。
『ギ・・・!』
 憎悪の眼で青年を視る。その手には奪取を命じられた霊刀が握られていた。自らの優位に酔い、なおかつその青年には霊刀を振るう力など残されていないと思ってしまっていた己の迂闊さを呪う。気付いた時は遅すぎだ。
『グ・・・オオオォーーー!!!』
 怪物が跳ぶ!青年を左に生えた妖爪で引き裂こうとーー!!
 しかし・・・

 シャアァァン!

 それが叶う事は無かった。

 怪物が最期に視た光景、それは自身に向かい真っ直ぐ伸びる、月と同じ紅の閃光・・・それのみだった。

 その閃光が溶け、降り注ぐ月の光の中へと消えた時。



 ー決着はついたー




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