ザ・グレート・展開予測ショー

狼牙(十四)


投稿者名:AS
投稿日時:(01/ 8/19)




 ー狼牙ー



 ザザッッ!!!
(はぁ、はぁ・・・やっと・・・)
 全速力で荒れ地同然の場所を駆け続けた彼女、神無はしばしの間呼吸を整え、伏せていた顔を上げた。
「!?」
 目を疑う。
 前庭に辿り着いた彼女が目にした光景は、予想を完全に裏切っていた。彼らを包囲していた十人足らずの『招かれざる客』は一人を除いて皆一様に『恐怖』に身を震わせている。
 ある者はしゃがみこみ、頭を押さえて震え続けている。またある者は仰向けになり、宙を見上げながら魚の様に口をパクパクとさせるだけ・・・彼らにはもはや、戦意どころか立ち上がる意志さえも残されていない様に見えた。
『あの女が・・・やったのか?』
 横に浮かぶ刀が言葉に、神無も気付く。ただ一人残った黒装束の男と向き合う、黒衣を身に纏った色黒の女性。服装は違うが昼にあの精神感応力者と行動を共にしていた彼女に間違い無い。
「さて・・・」
 女性の口が開かれる。ゆっくりと手をパタパタさせて、言う。
「おたくの家来は皆、負傷してるのに加えて一歩も動いてないこちらの家来にこの様・・・おたくも尻尾まいて退散したら?」
 挑発としか受け取れない言葉に、男は簡潔に応えた。
 ヒュン!
 殺意を乗せた苦無が、彼女の眉間へ向けて飛ぶ。
「・・・・・・」
 彼女はそれをかわした。眉一つ動かさずに、ただ首を傾けただけで不意の一撃を軽くあしらう。
「あ、危なかった・・・」
 その苦無は後ろで膝を着いていた彼女のアシスタントの頬に一筋、痕跡を残し闇に消えた。
 何にせよ・・・彼女はその敵意を受け、両の瞳に冷たい光を宿らせる。
「今の・・・返事として受け取って、いいワケね・・・?」
「・・・・・・」
 男は答えない。ただ辺りを包む闇より深い殺意を込めた瞳で見返すだけだ・・・口を開く。
「図に・・・のるなよ・・・所詮こいつらは現実にしがみつき、幻にたやすく惑う未熟者だという事を・・・」
 つまらなそうに、遮る。
「つ・ま・ら・な・い!・・・負け惜しみなんて聞く耳持たないワケ!退くの!?それとも・・・」
『愚問!』
 鋭い叫び!男の殺気が彼女に向け、集中する!
 ス・・・!
 半ば反射的に動こうとした自身の弟子を、手で制した。そうして彼女は言う。
「動くんじゃないワケ・・・」
「エミさん!」
 自分の後ろにいる弟子には見えない様にし、彼女は優しく、そして暖かく微笑んだ。
「あんたには今回随分無理をさせたわね・・・そこの気絶させた奴にわざをざ憎まれる役をさせちゃったり・・・あの時あんたがああしてなければ、あいつを再起不能にしてたかもしれない」
「・・・・・・」
「今度は・・・」
 笑みを消す。表情が一変する。
『師匠らしいトコも、見せなきゃね!』
 そう言って彼女は、足場の悪さを感じさせずに、走るのではなく音をたてず滑る様に迫りくる男に厳しい眼を向けた。
「ーーー悔やめ!」
 男が背中から取り出した忍刀を、閃かせる!
 ガギィ!
 空気まで斬り裂く様な鋭い一撃を、ブーメランで受け止める。
 ギリギリ・・・
 競り合いが続く。両者の気迫を前にし、既にその近くまで来ていた神無達も動けずにいた。
「く・・・!」
 ジリジリと・・・彼女が後退する。
「ふん・・・所詮は力が・・・」
 額に汗を浮かべ、苦しげに後退した彼女に対して男が勝ち誇ろうとした時、彼女が突然・・・
 クス・・・
 ー笑ったー
 ジャキィィン!
「!?」
 ー突如、男の身体は地面に浮かび上がった呪法陣によって鎖縛されたー
「ふぅ・・・何の為に動かずに、正面からぶつかったげたと思う?今おたくが立ってるのは、丁度さっきまでこっちが動かずじっとしてた場所・・・」
 悔しげに、男の口から呻きが洩れる。
「貴様ぁ・・・」

 最高の呪術師たる彼女、『小笠原エミ』は男のうめきを平然と無視した。

 鋭く言い放つ。

『チェック・・・メイト!』

 ーブーメランが、男の首筋へと振り抜かれたー


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