ザ・グレート・展開予測ショー

もっと・タイガー黙示録


投稿者名:ツナさん
投稿日時:(01/ 8/18)

 「魔、魔理さん・・・・あ、ああ。汚い部屋だけど上がって」
タイガーは征服姿の魔理を見、かなりどきまきしつつも、ドアを開けた。
「おっじゃまさーん、ああ、思ったよりも片付いてんじゃん。あ、これ適当に買ってきたから、私料理へたくそだからコンビニで適当に見繕ってきたよ。安上がりな引っ越し祝いだけど勘弁して」
テレ笑いを浮かべつつ、あがりこむ魔理。
「お、お茶出しますけぇ、テレビでも見てまっててつかぁさい」
タイガーは顔を真っ赤にして、目線を合わせないように居間へ連れて行くと、キッチンへ引っ込んだ。
(な、なぜ魔理さんがここに来たんですかいのう?まだ教えてない筈だったが・・?)
タイガーは深呼吸して気持ちを落ち着けつつ、考える。まぁ、魔理がおキヌちゃんから聞き出しただけなのであるが、緊張している彼の頭にそんな考えは浮かばない。
 とに角来てくれたのは嬉しい。タイガーは茶箪笥からお客さま用高級セイロンティーを出し、ポットに入れる。
 カップにお湯を注ぎ、あらかじめカップを暖め、少し冷めたお湯をティーポットに注ぐ。沸かしたてのお湯は温度が高すぎて、紅茶の香気を飛ばしてしまうらしい。
紅茶のわずかに甘い芳しい香りが鼻腔をくすぐる。
「紅茶の入れ方だけは自信があるけぇのぅ」
紅茶の入れ方だけは散々エミに仕込まれていたのであった。
 更に昨日買ってきたチーズケーキの残りを切り分け盛り付けると、それらを持って魔理の待つ居間へ向かった。 
「どーぞ」
ソファーにでん、と座すわって一服している魔理に、粗茶ですがのう、と紅茶を差し出す。
「あ、さんきゅ」
魔理はそれを受け取ると香りも嗅がずにごくりと飲む。
「お、おいしい、すっごくうまいよ、タイガー」
「それは良かった。お代わり、ありますけぇ、言って下さい」
「うん、ありがと。・・・ごめん、こんながさつな女で」
「いや気にせんでください。わっしからみれば魔理も十分上品じゃけぇ」
「やさしいなあんたやっぱり・・・。そーそー、またエミおねぇ様のところで働くことになったんだって?」
「ん、ああ、心配かけてすまんかったですのう」
「ん、いや、いいよ。気にしてないから・・・。そのおかげでまたあんたに会えたんだし・・・」
語尾が、濁る。
「そ、そうじゃ、のう・・・・あ、このチーズケーキ、なかなかいけますけぇ、食べてつかぁさい」
「ん、ああ、ありがと。あ、こっちもせっかく買ってきたんだから、食べよーぜ」


 宴もたけなわ、外は暗くなり時はあっという間に過ぎていく。
 どうでもいいような下らない話をしつつ、テレビを見たりしているだけなのだが、二人にとってはそれで十分だった。
 で、それなりの時間になって当然のごとくテーブルの上につまみやら、『飲むと軽い高揚感を得られたり、いい気分になったりする透明や茶褐色の物や発泡するの飲み物(自主検閲により、直接的表現は削除。以下生、ロック、赤などと記す(爆)』が並べられた。
 タイガーも止めればいいものの、時間がたって緊張も解けてきたせいか、横島ら男友達といるような気分になっていて、気にせず口を開ける始末。
「くぅぅ、やっぱり夏は生だよな」
カンの生をごくごくと豪快に飲む魔理。
「わっしはこっちがいいのぅ」
タイガーはグラスに赤を注ぎ、何気に優雅な手つきでちびちびやっている。
 二人とも結構いける口らしく、光の速さで生やら赤やらが消えていく。(結構というより、かなり凄まじい・・・)
 で生が尽きて、如何しようか、とタイガーが立ち上がり、チラッと時計を見る。
「あ」
そこではっとなった。時計の針は夜の10時をさしていた。そのまま魔理をみて、自分のうかつさに気付く。
「もう、こんな時間だったんかいのう」
「あ〜、気にしない気にしない、じゃんじゃんやろー」
何気に心配げな表情のタイガーを笑い飛ばす魔理。かなり飲んだはずなのにあまり顔に出ていない。
「しかし・・・」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ」
「じゃが・・・」
タイガーがそれと無しに帰るように促す。
 と、魔理は急に悲しげな顔になった。
「なに、帰れって言うのかよ・・・」
「ん、まぁもう夜もふけたけぇ・・家まで送るけぇ・・・」
「いいんだよ家なんかどうでも・・・」
いいながら赤をグラスに注ぐ。タイガーはそれをやんわりと止める。
「この辺にしときんさい」
「・・・なんだよう・・私のことが嫌いなのかよう・・・」
タイガーの奪ったグラスを、引っ手繰る。その顔は、ひどく悲しげだった。
「そんな悲しい顔・・・みたくないけぇ」
「・・・帰りたくないよう」
「・・・」
「やだよう、あんたのそばにいたいんだよう・・・もう夜、一人ぼっちは嫌だよう」
タイガーの大きな手を両手で包みこみ、まるで子供のように手をゆする。

 魔理が12歳の時、両親は離婚した。
 それから父と二人で生活してきたが、父はお金を置いていくだけでほとんど家に帰ってこないし、母親は再婚して魔理とはほとんど会いたがらなかった。
 独りぼっちになった彼女は、そのうち夜な夜な遊びに出るようになり、地元のチームに出入りするようになっていった。それでも、夜中になれば家に帰らないわけにはいかない。
 誰もいない、生活観もろく似ない2LDKのマンション。自室に篭ってベッドにもぐりこんでも、寂しさだけがあった。
 孤独。
 彼女が気丈な、強い心をもった理由は、その孤独にあったのかもしれない。
 更に霊能力という特異な力を持って生まれたことがそれに更なる拍車をかけていた。
 六道女学園に入学し、キヌや弓などと出会い、その孤独感や苛立ちは以前に比べはるかに和らいだが・・・。

 「帰りたくないよう・・・・」
タイガーは、何もいわなかった。その孤独を、自分も経験していたから。
 スラムで過ごす夜の闇の怖さは、自分もよく知っている。
「魔理・・・・」
握られた手を離し、そっと抱き寄せる。
「わっしは・・・」
タイガーは天を見上げる。
「タイガー・・?」
急に抱きしめられて、呼び捨てで呼ばれどうしていいかわからない風の魔理。ただその大きな胸板が、妙にここち良かった。このまま眠ってしまいたいような、心地よい暖かさ。
「ワッシは、あんたにほれたけぇ。・・・あんたはもう一人じゃないんじゃ、もう寂しいおもいはさせん」
「タイガー・・・私・・・でいいの?」
タイガーは直ぐには答えない。ただ更に強く抱きしめた。
「・・・ずっと、こーしてたい・・・」
魔理はそういって瞳を閉じた。一筋の涙が頬を伝い、タイガーの胸に染み込んでいく。
 まるで魔理の思いが、タイガーの心に染み込んでいくように。

 時の流れは消して止まることは無くたゆたう。
 ただ二人が願えることは一つ。この一瞬の思いが、永遠に続いていくように、と。
  
                                    
                                   fin

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