ザ・グレート・展開予測ショー

狼牙(十三)


投稿者名:AS
投稿日時:(01/ 8/17)




 ー狼牙ー



 バキ!ドサドサッ!
 舟からの転送は思いとは裏腹に、上手くは行かなかった。
「い、痛た・・・彼は!?」
 落下による痛みを我慢して、彼女は身を起こす。
(?・・・ここは?)
 『そこ』はモニターから見ていた場所・・・屋敷の前庭にあたる場所では無かった。たくさんの木々に囲まれ、目前に何があるかもはっきりとは認識出来ない。
 そんな場所に『二人』は落ちた。
『どうやら・・・屋敷の裏手にある林の様だな・・・』
 落下による衝撃を微塵も感じさせず(宙に浮いているのだから当然といえば当然だが)悠然と言い放つ『刀』の言葉に彼女、神無は右腿をさすりながら理不尽な怒りを抱いた。
(っでも、そんな場合で無いか・・・)
 今この瞬間にも、疲弊しきった『彼』が討たれ、狼牙が持ちさられるかもしれないのだ。些事にこだわる暇など無い。
「ーーー急がないと!」
『うむ!』
 二人は、駆け出す。
 先を行くのは刀だった。飛翔し、神無の行く手を遮る邪魔な枝や草を斬り捨てながら、突き進む。
「・・・見えた!」
 その甲斐あってか、迅速に、二人は林から屋敷の見える開けた場所へと出る事が出来た。しかし今度はその屋敷を迂回しなければならない。
(転送装置、まだまだ改善の必要有り、ね!)

 ー心中で報告書に付け加えるべき事を独りごち、神無はひたすらに、駆けたー

 ーその同時刻、屋敷の前ではー

 辺りを覆い尽くす夜の闇。その闇は場に居る全員が放つ独特の気・・・即ち殺気によって更に深く、色濃く周囲を包み込むが如く闇に染めていた。
 ジャリ・・・
 眼前の者達とはまた違った黒衣を身に纏った、色黒の女が一歩踏み出す。
 ザザァッ!
 更に場に走る緊迫。
 そのたった一歩に対し、刀を携えた青年と地に伏している大柄の青年、それに同様の姿ながらも他とはまた違った威圧感を持つ黒装束の者達の首魁を完全に取り囲む彼らに、緊張が走る。
 それ程に、彼女は警戒すべき実力を備えていた。
「不甲斐ない・・・輪は解くな!」
 首魁とおぼしき者が、そちらも一歩踏み出す。
「・・・・・・」
 それにも構わず、ただ野原を歩くかの様に、彼女は進む。
 やがて・・・互いの距離が縮まり、それによってプレッシャーが強まる。黒装束の男から。黒衣の彼女から。
 ス・・・ッ!
「ーーー何!?」
 たった一瞬。男が刀剣を手に取ろうとした瞬間、彼女は男の横をすり抜けた。驚愕の表情で固まる。
 そんな事は気にすらせず、彼女は歩を進めた。
「まさかタイガーがそんなになるとはね・・・」
 同様に彼らを囲んでいる黒装束の者の横を抜け、何の気無く呟く。そうしながら、刀を構える青年に手を伸ばせば届く程近くに寄って、彼女は語りかけた。
「さ、あんたの言う下らない刀、こっちによこすワケ」
 ーそう言って手を伸ばした瞬間ー
 バチ・・・ッ!
 突然に刀が放った光に、彼女は拒まれた。やれやれといった様子で、肩をすくめる。
「やっぱこうなっちゃったワケね・・・そうなると・・・」
 伏している男に向かい、言う。
「起きてるタイガー!こうなったら所有者込みで守る!チャッチャとこいつら片づけるワケ!」
 
 その一声が合図となり、黒い殺意が動き出す。

 気にせず彼女はよろよろと立った男の背中を叩いた。

「ほら!シャキッとする!」
「ろ、労災は・・・?」


 ーその一言は無視し、彼女は『笛を』取り出したー



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