ザ・グレート・展開予測ショー

狼牙(十二)


投稿者名:AS
投稿日時:(01/ 8/14)




 ー狼牙ー



 その瞬間。
 呼吸も鼓動も静止した様な静寂を『神無』は感じていた。
 彼と相手の精神感応力者の現在の力量には開きがあった。そしてその差は雨の降り出した昼頃の発端・・・二人の男がぶつかりあうきっかけとなったあの時から、今のこの瞬間までの半日に過ぎない時間で埋まるとは思えない程、開いていた。
 ーしかしー
 ー彼は勝ったー
 意地、意気込み、執念、そして誇り。
 彼があれ程に戦えたその根源。あの強力なテレパスでも、その根源だけは封じきれなかった。
『・・・見事だ』
 ハッと、神無が横を振り向く。
 そこには『刀』があった。
 その刀は一人の男の手に握られている。霊体のみの存在となった男の掌の内で、何も語らずに刀は眠っていた。
 男を見る。
 その男はまさに侍・・・という様な風体をしていた。ところどころほつれた着物に加え、ぼさぼさの髪。顔は精悍だが、どこか粗野な印象を受ける。
「どうして・・・彼は・・・?」
 神無の問いに対して、男が口を開く。その眼は変わらずモニターに向けられていた。
『あの瞬間、奴は賭けをした・・・同時にいくつもな・・・』
「賭け・・・?」
 振り向きもせず、ただ微かに頷く。
『そう、賭けだ。狼牙の抵抗力と相手の精神獣の力、その二つの力を使って己の左腕の正確な位置を計った。誤って腕を切り落とす危険を承知でな・・・』
「・・・・・・」
 沈黙をよそに、話を続ける。
『次いで、狼牙から放った血が付着する音で、今度は相手の位置を計った。だがこれも見当違いの対象物と違える可能性が大きい。それに聴覚を取り戻す為とはいえ、鎧を解けば致命の一撃をくらう恐れもあった』
「では、彼の勝ちは運が良かっただけと・・・?」
『いや・・・例えそうだとしても、生半可な覚悟であそこまでは踏みきれまい・・・その覚悟あってこその・・・む・・・』
 男の顔が歪んだ。途端、男の姿が揺れ、掻き消える。
「ど、どうし・・・あれは!?」
 神無の顔が強ばる。モニターの中、いつの間にか彼は黒装束を身に纏った者達に包囲されていた。息も絶え絶えで膝を落とし、それでも狼牙だけは離さず握りしめている。
『先に行くぞ!』
 地上への転送装置に『刀』が向かう。
「・・・くっ!」
 その後を追い、神無は唇を噛んだ。

 殺意の込められた声が響く。
「・・・その刀を渡す気は無いのだな?」
 唯一こちらを包囲せず、そばにいる黒装束の男の言葉に、雪之丞はうんざりとした表情で応えた。
「いい加減・・・聞き飽きたぜ・・・まったく・・・どいつもこいつも・・・こんなもんがそんなに欲しいのかよ・・・」
 男が一歩前に進む。口元が歪んでいた。
「その刀の価値も知らんとみえる・・・その刀は・・・」
「月の光に含まれた魔力を、希少鉱石を用いた刀身で束ね、主に神に等しい力を与える・・・くだらねぇ刀だ・・・それに血眼になってるてめぇらもな!」
 黒装束の男から、明確に殺気が放たれる。
「・・・愚か者めが・・・!」
 場が張り詰め、男が片腕を上げる。

『やれ・・・!』

 ーその瞬間ー

 ドガァッ!
「ーーー!!?」
 包囲していた黒装束が一人崩れ、ブーメランが雪之丞、それにタイガーと男の間に突き立った。
「な・・・!?」
 ゆっくりと、誰かが階段を上がってくる。


『・・・残念だけど、邪魔するワケ・・・』


 ー長い髪を風に委ね、彼女は不敵に笑ったー




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