ザ・グレート・展開予測ショー

続々・タイガー黙示録


投稿者名:ツナさん
投稿日時:(01/ 8/11)

 何の変哲もない駅前のアーケード。
 だが、このカップルがいるだけで、一種異様な光景になってしまうのは、本人たちだけが知りえない事実かもしれない。
 事実、二人の姿を認めたうん年前のちょっとばかしおいたが過ぎる風の女子高生の一団が遠巻きのその姿を負いながらもいつの間にか姿を消していたし、タイガーの同級生と思しき一団は、変に気をまわしてか、邪魔しそうなやつをそれと無しに排除しつつ、好奇心と、嫉妬心とやじうま精神にのっとって稚戯にも等しい尾行を始めたりと、まぁはたから見ればなにかあるのかな、と思えるぐらい「浮いて」いる。
 しかしとうの本人たちはそれどころではないらしい。
 魔理は魔理で、自分で誘っておきながらどんなことから話せば言いのだろうと頭の中がパニックしかけていたし、タイガーは緊張と興奮と幸福感と憂鬱感と脱力感と喪失感と・・・とにかく一度に不幸と幸福が押し寄せてきたわけだから、なんともいえない状況であったりする。
「あ、あのさぁ」
「な、なにかのー」
「ん、いや。あ、みてみて、あのぬいぐるみ、かわいーよなぁ」
「そーじゃのー」
「あーなんだよあいつ、わたしたち見て笑ったみたいだぜ、しめてやろうかー」
「そーじゃのー」
「そーそー、今度封切りになったアクション映画なんだけどさー、主演の女優、かっこいいよねー」
「そうじゃのー」
万事こんな感じである。話が噛み合わない。と言うよりタイガーからは何か話し掛けようとはしない。
 タイガーはあえてそうしていた。今何かをしゃべりだしたら、口を滑らせて出てくる言葉はたぶんエミさんの事になるだろう。そんな事はいくらなんでも話せない。
 ぶっちゃけた話、これから数年学校行きながら食っていく分位の金は持っている。
 どこかの誰かと違って、エミは金払い「だけ」は良かったらしく、下手な会社役員よりもいい生活が出来る素地はあった。
 だからエミの所を放り出されたからといって、生活面でそう悲観することもなかったが、問題は精神面である。
 理屈ではない感情と言う者がるのなら、それはやはり情愛に他ならない。
 男と言う者は一度ほれてしまえばたとえ相手に全くその気がなくてもそうは割り切れない。そのうえ変なプライドみたいなものがあって、本気で惚れている相手がいるのに他の女に、という感覚もある。
 細かい感情は個々にあるにしろ概ねそんな感じだろう。横島みたいな煩悩の権化は別と考えても、だ。
 とにかくタイガーはエミに惚れている。
 それが恋愛感情に直結しうる物かは本人の表面的な感情は抜きにして考えれば全く別問題である、と言えるが。
 だもんだから、ここで魔理に甘えてしまうわけにはいかない。彼女の気持ちを考えれば、ここはそれなりのお付き合いで済ましてしまいたい、と思っていた。
 
 アイスクリームショップでチョコミントとバニラのダブルを買った二人は、それを食べながらふたたびぶーらぶーらと歩き出した。腕を組むわけでもなし、甘い言葉を交わすわけでもなし、そんなもん見てても面白くないと同級生の一団が姿を消した頃。
 「なぁ、わたしといても楽しくないの?」
あまり話し掛けてこないタイガーにごうを煮やした魔理が口火を切る。
「そ、そんなことはないですがのー」
「なんか、あったんだ」
「いや、別になにもないですがノー」
「うそ、そんな寂しげな顔して、なにかあったんだろ?」
「・・・・」
「話してよ。力になれないかもしれないけど」
「・・・エミさんにおいだされてしまったんじゃ」
真剣な眼差しに耐え切れなくなったタイガーが、ぼそりと漏らす。
「クビになったの?」
「・・・」
こくりと頷くタイガー。
「わっしは、エミさんに世話してもらってこの国に来たんじゃ。恩を仇で返すまいと必死にやってきた、つもりだったんですがノー。いや、それだけではなかった。エミさんに認めてもらいたかったんじゃ。あの人はわっしの憧れなんじゃ」
「ふーん。それであんたは如何したいんだよ。追い出されてそのままかよ」
「しかし」
「あんたねぇ、私はタイガーのそんな不抜けたツラぁ、見たくないよ!!!」
魔理は我慢していた感情を噴出していた。
「私はねぇ、あの時あんたの姿を見て、かっこいいと思ったんだ、ダンプカーみたいに突き進んでいくあんたの姿がね!なのに今は何よ!不抜けた面して愚痴こぼされたって、私は何もしてあげられない!!!私は・・・あんたとあってからずっと考えてたんだ、私みたいのでも付き合ってくれるかなとか・・・馬鹿な夢だったよ。あんたみたいなのを何で一瞬でも好きになっちまったんだかわからないぜ」
「・・・わっしは、わっしは」
タイガーはなんと答えていいかわからなかった。数瞬、考えたすえ、
「わっしは、男じゃけぇ、・・もう悩まん」
それだけ言って、魔理の肩をぽんとたたき、そのまま言ってしまった。
「タイガー?」
魔理はタイガーの後姿を追った。その姿はかつて見た、ダンプカーのように力強い足取りで進む彼そのものだった。


 またまた続いてしまう

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