ザ・グレート・展開予測ショー

狼牙(十一)前編


投稿者名:AS
投稿日時:(01/ 8/ 8)




 ー狼牙ー



 ピゥ!
 再三、空を切る音。
「はぁ・・・はぁ・・・」
 右手に携えた刀で『敵』を斬り裂くのは三度、拳で、あるいは足刀などで打ち砕いたのが二度、霊波で撃ったのは四度。
 そのどれもが外れ・・・その為に精神は削られ、肉体的にも疲弊し、恐らく誰が見ようともこの勝負、雪之丞の勝ちは無いと判断する・・・それ程までに『彼』は劣勢だった。
「・・・・・・」
 ドシュウ!
 十人目を刺し貫く。またも消える幻影。それを再び一閃薙いで、揺らめき消えるその様子をただ冷めた眼で見ながら、雪之丞はタイガーの現在の能力をほぼ把握した。
(テレパシーで心は読めない・・・それは確実だ・・・)
 やろうと思えば不可能では無いだろう。しかし蒼く輝く全身で降りそそぐ月の光を弾く精神獣。更にこちらの五感の内、四つまでを鎖縛するこの『世界』・・・それらを維持するのにはいかにタイガーといえ、己の全能力を注ぐ必要がある筈だ。そう判断し、雪之丞は薄く笑った。
(そして恐らく・・・あの精神獣は・・・)
 一つ、彼はある賭けに出る事を決めた。
 このままでは・・・右肩のダメージに疲労。それに加えて自身の感覚のほとんどが相手の手中にある今の状況では、この戦闘での自分の勝ち目など無いに等しい。
「・・・・・・」
 雪之丞は右手を見た。相対する者の勧告をよそに、ただ左手の中指を立て、右手に在る霊刀・・・狼牙を見やる。
 全ての世界。見える物、聞く物、触れる物や匂いも偽りの中、ただ一つだけ信じるに足る『存在』・・・強力な精神感応力に抵抗し、今自分が頼りに出来るたった一つのその『存在』を、雪之丞は右手で固く握りしめた。そうしながら、言う。
「い・や・だ・な!」
 ー瞬間ー
 殺気が世界を覆い尽くす。
 その殺気の実体化したモノともいえる、蒼き虎がその牙を剥き出しにし、こちらへと駆け抜けて来る。
 その虎が喰いつける程こちらに接近した瞬間、大きく開いた口元へと左腕を差し出す。予想通り左腕に対しての視覚は自分の元へ還って来ていた。
「ーーーっ!」
 牙によって、肉が潰され貫かれる激痛。その激痛を歯を噛みあわせて必死に耐え、雪之丞は狼牙を振るった。
 ザシュウ!
 左腕から鮮血が舞い散る。
 既に朱に染まり尽くした左腕・・・しかも触覚を捕らわれている為に痛みを感じない今は、斬ったという実感もわかないが、紅く濡れ、雫を垂らす狼牙がその事実を証明していた。
 その濡れた切っ先を見、胸中で独りごちる。
(読めないのは残念だったな・・・タイガー!)
 そのまま・・・ゆっくりと構えながら、言う。

『タイガァ!決着つけてやるぜ!』

 ー声と共にー

 ー弧を描き、狼牙が飛沫をしぶかせたー


 ー同時刻ー


 ザ・・・!
 大型のトラックが、屋敷へと続く階段の前で止まった。
 ややあって、荷台から音も無く、一人が飛び降りる。
 闇に紛れる黒装束に身を包んだ男・・・それに続いて似た様な姿の者達が、次々と飛び降り・・・やがて音も無く消え去る。
 運転していた者までその場を去ると、物陰から一人、姿を現す者がいた。気配を殺したまま、呟く。

『やっと・・・動いたか・・・やれやれなワケ・・・!』

 毒づきながら・・・『彼女』は階段へと進んだ。



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