ザ・グレート・展開予測ショー

手紙(訂正版)


投稿者名:hazuki
投稿日時:(01/ 8/ 6)

大好きな
大好きな場所がある。
地中海の水面に映る月が見える場所。
ゆらりと揺れる水面に映る少し歪められた月。
鼻をくすぐる潮の香り。ごつごつとした少し湿った感触。
遠い遠い昔から変わることの無かったところ。

東の空はもう闇にそまっているのに西の空はまだかすかに太陽が残していった光が西の空のふちをオレンジ色に彩っていた。
そして、太陽によってあった蒼い空がその存在がなくなることにより、闇色へと消えていくのと対照的に白く、燦然と輝いてゆく月。
それはとても、幻想的な、だがどこか寂しさを感じる光景。
だけど毎日かならず繰り返される光景。
「今日は十六夜かあ…」
穏やかにそんな事をいうのは、ピートである。
学校の委員会の(もちろん除霊委員会)仕事の為帰りが遅くなっていた。
ピートは今日の出来事を思い出し少しばかりため息をついた。
どうも、あの学校は毎日のように怪奇現象が起きる。
立て続けに起きるのかわかっているが、なぜ、ああも情けなくなる事柄ばっかりなんだろう。
(ちなみに今日は可憐にスキップをしつつ、校舎を徘徊する人体模型をどうにか除霊したのだ)
なぜ可憐な女子高生の霊が人体模型に乗り移っていたのかは聞かない方が良いだろう。
しかも、除霊のためとはいえ何が哀しくて、人体模型と腕を組んでデートを自分はしたのだろうか?
しかも、スキップまで…(ちなみに横島とタイガーが心底嬉しそうに、愛子が心底同情の面持ちで見ていた←顧問の暮井先生は何を言うでもなく見ていた。)
だがため息は途中で、苦笑へと変わる。
……この一年の出来事は、自分にとっての700年近い人生の中でも無かったような驚きの連続なのだ。

いままでピートは島に居た。
穏やか過ぎる、まるで時が止まったかと錯覚されるような場所に

通学路にある家の灯りが少しずつ灯っていく。
ピートはこの少しもの寂しさを感じさせる光景が好きなのだ。
少しずつ伸びてく影。
どこからともなく聞こえてくる子供の声や夕食の香り。
ひとつひとつの家に灯ってゆく灯り。
外の光景が少しずつ寂しさを増していくなかひとつひとつの家の中に温かい灯りが灯ってゆく…

寂しくて、優しい時間。

こんな光景を見ると思い出す。
故郷のあの場所を。
誰も知らない自分だけの場所を。
そして仲間の誰もが知っているあの場所を。
水面に映る月と潮の香りのする風、
変わらない大切な場所。
母親が人間で父親が、あの人物だったのだ。
母親は時の止まったようなこの島であっという間に(もちろんピ−トの感覚で)、いなくなり父親はまあ……ああだったので。
ピートには、肉親が家にいなかった。
待っている人がいなかったのだ。
まあこの島民自体が親戚といえば親戚なのだが……
だが、時々寂しいと感じる時がある。
そんな時に訪れた場所。
自分だけの場所。
そして、迎えに来てもらえる場所。
それは隣のおばさんだったり、二件先のおじさんだったり、何故その場所を知っているのかは分からない。
何故自分がこの時間にこの場所にいるのか分かるのだろうか?
だけど、笑って迎えに来てくれる場所。
来てもらえる場所。
水面に映る月を見て、そして待つことのできる自分。

それは特別な時間。
そこは特別な場所。

緩やか過ぎる時の流れ。
穏やかで優しい仲間。
自分を大切に慈しんでくれた場所。
やわらかい時間。
温かい。
と思う。
この世界を。
こう思うことのできる自分を。

「手紙でも書こうかな」
ふとそんなことを思う。
届くのは遅いだろうし、近況以外とりたて書くこともないが
とりとめのない事を書くことも、いいだろうと。
まあこの場所でのとりとめの無い事などあっちの島からしたら大事件だろうが。

大切な仲間たちへと。

「あれ?」
かたん
と教会へと着き、ポストを探ってみると一通の手紙。
差出人は村の仲間たち。
手紙というのは少々分厚すぎるそれ。
あまりのタイミングに、思わず笑いがこみ上げる。
中では神父が夕食の用意をして待っているはずだ。
食事をしたら、いっしょに手紙を読もう。
そしてこの厚さに負けないくらいの返事をー

そうしてピートは温かい光の灯るひとつの教会の中へと、姿を消した。

十六夜の月は白く輝いている。
その月は、秘密の場所で輝いているものと同じように綺麗だった。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa