ザ・グレート・展開予測ショー

地獄裁判


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(01/ 8/ 5)

当然と言えば当然だが、地獄にアスファルト舗装はない。
「わっと!つぅ」
横島は車の天井に頭をぶつけてしまったようだ。
心配する声もかかるが、すぐに車内は静かになった。
ヘッドライトの一筋だけが、嫌味に見える程光々としていた。
車に乗っている横島の耳に泣き声が響いてきた。
「あれ?空耳かな。なんか赤ん坊の泣き声が?」
《横島様、私のスキャンによると、大量の赤ん坊が・・川原で》
「もしかして、例の川原かしら、親父さん」
美神が目玉の親父に振ると、
「うむ。『賽の河原』という場所じゃな。水子、つまり赤ん坊にして生を失った魂が行きつく場所じゃ」
川原に近づくに連れて赤ん坊の悲鳴が、はっきりと聞こえる。
「ママを失った悲しみって奴かな」
『そうだな。横島坊や特に人間って奴はおかあちゃんに甘えっぱなしだからな』
マーロウは黒く聡明な瞳をお嬢ちゃんと呼ぶ美神令子に向ける。
なによぉと口にはせずそっぽを向いてしまう。
その向うの光景に美神が軽い悲鳴をあげる。
「なっ、何あれ?」
なんすかと、横島が、マーロウを跨いで外を見ると、
子供は泣きながら川原の石を積み上げているのだが、鬼がそれを崩し足蹴にしている。
「そういう場所じゃよ。あまりかかわらん方がえぇ」
目玉の親父が忠告をしたが、既に車のドアがガチャと開いていた。
【ほ〜らぁ。お前達の罪はまだまだ続くぞぉ。泣け叫べ、絶望しろ!!】
何が面白いのか、その鬼は子供に虐待を続けている。
鬼の横面に石があたる。
「おい、子供を苛めて何が楽しいんだ!」
「なにもんだ?貴様」
無造作においてあった鉄の棍棒を掴み横島を睨む。その眼光たるや流石は地獄の住民である。
「正義の味方かな?見過ごす事は出来ねェよ!」
挨拶代わりというか、霊気の盾を手に発生させる。
むぅ。只者ではないな、と鬼が唸る。
【貴様は生有る物だな。ここではここのルールがあるんだ、覆す気か?】
その言葉は横島を一瞬ひるますに十分であった。
ガタイ、タイガーを一回り大きくした奴にしては、なかなかの速度というべきか。
単なる体当たりでも殺傷能力はありあまる、ハズであった。
「げっっ」
1メートルはふっとんだか。
【なんだ。馬鹿がはしゃいだダケか、おらお前達、とっとと石をつまんか!】
水子達に嗚呼という悲鳴が横島の意識に到達する。
「なんだよ、不意を付くタイプか」
その鬼は何故逝ってないのかと振り向く。
「サスがは竜神の鎧。ダメージを分散してくれたぜ」
吸血鬼コートの下に光る鎧はまったく破損は見えていない。
【げっ!そ、それは!】
武具はこの世界で手に入れられる最高級の物だ。
不意に横島の姿が消える。
【ど、何処にいきやがった!ヤロウ】
後にも前にもいない。
【出てこ・・・!】
鬼の言葉が途切れた。背中から腹に剣が、聖剣ジャスティスが突き刺さっている。
「俺の方が不意を付くのは十八番だよ」
何が起こったかわからないまま鬼は途切れた。
吸血鬼のマントを駆使して横島は姿を隠して後に回っていたのだ。
「横島クン、生きてる!」
美神が上から覗きこむ。
「えぇ、大丈夫っすよ・・でもどうしましょう。この子供たち」
水子の霊は怯えているように横島の回りに幾重にも集まる。
もう口もきけないのだろうか。只集まるだけだ。
親父が美神の肩を足場にして声を出す。
「横島君とやら、お主はすごい事を・・しかし」
『そうだぜ。黒髪のお嬢ちゃんを助けにいけないではないか・・』
マーロウもどうするかと悩みを顔を見せる。
不意に闇が動く。蚊の羽音に似た声が皆の耳に届いた。
「・・ほぉ鬼を倒したか、なかなかやるのぉ・・」
振り向くと、歳も見当がつかない程、襤褸の老婆を纏う老婆がいるではないか。
「奪衣婆の婆様。お久しゅう御座います」
「ほぉ。そちはゲゲゲの、目玉か」
奪衣婆・・だつえばと読み、魂の着物を剥ぎ取り罪の重さを計る仕事する地獄の住人だ。
「あっ。おばば」
水子霊が、横島から我先へと御婆にあつまる。
「おぉおぉ、可哀想にの。じゃがこの婆でそちらの罪は計れんのじゃ」
一人一人の頭をなでる。
「こやつ等はな。母より先に霊界に来た、それだけの罪じゃが、ワシにもどうする事も」
横島が尋ねる。
「じゃあずっとっすか?」
奪衣婆、少し噴出して、
「ほっほっ。それはないぞ。それならこの川原に満杯になるぞえ、実はな」
定期的にさる神が水子の霊を救うべく、天界からやってくる手筈になっているが、
「このところ、あまりみかけん。長い子で100年は越えよう。どうしたことかな」
せめての救いと思い、鬼の目を盗んやってきてたそうだ。
『へぇ、やさしいじゃねぇか。地獄も満更でもないかな』
マーロウが感想を述べる。
「じゃがな。この子等が救われるには鬼に責めてられ絶望を知って天界にいたるのが規則じゃ」
横島が少し青くなる。
「じゃあ、俺のした事は?」
「大丈夫。鬼はこんなことでは死なん。この川に投げ込めば勝手に蘇るわ」
そういって奪衣婆は鬼の死体を三途の川に投げ込む。
「手伝いますよ」
と、美神。
「・・礼をいうぞ。生有る若き者達よ。そうじゃな。じゃがどういうわけで地獄へ?」
目玉の親父が説明をする。
「と、いうワケなのじゃ。奪衣婆。見逃してはくれぬかな?」
奪衣婆、本来の仕事に生者、死者を見分ける能力を持つが、
「生命の保証はせんぞ。いいな」
「はい!俺達は絶対オキヌちゃんを助けだすんだ!」
横島が答えると、
「・・三途の船頭には黙っておこう。ここより少し下った先、松の木が有る・・」
そこなら、割合浅瀬でもしや閻魔庁にたどりつくやもな、と小声でいってから、
「あれっ?奪衣婆様」
姿が見えなくなった。
「いそぐぞい。万一、船頭に見付かったら面倒じゃ」
親父がメンバーを急かした。
同刻、閻魔庁にほど近い場所。
「・・あっ。ここは何処だろう?」
オキヌちゃんの魂が目覚めたが、目がハッキリしない。
「ん・・?ここは」
目を擦りながら暗闇に慣らし、自分の身を思い出そうとしている。
突如後方から断末魔が響き渡る。
「なにっ?」
振り向くと、悪鬼が真っ二つに切られているではないか。
「ひっ!」
『・・目、覚めたのか。寝ていた方がどれだけ楽か・・』
声の方向に目を向けると、死神が大鎌に付いた液体を風を起す事で振り払っていた。
「こ、これは?」
『おぬしの魂は聖職者に似た物、だから、な』
オキヌちゃんの足元で枯れ枝を踏み倒したような音がした。
悪鬼の物と思われる骨だった。
暗がりに目が慣れると、そこが廃墟のような佇まいである事が判明した。
『・・おぬしが、来る前は牢獄だったが、こやつらが、ぶち壊してな・・』
くんと顎で悪鬼の死体を示す。
「それじゃあ死神さんが私を守って?」
『そうだ。・・仕事だからな』
今はこの死神に従うしかない、とオキヌちゃんは決意した。
『それでいい』
ぽつりとだけ、言い切った。

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