ザ・グレート・展開予測ショー

狼牙(九)


投稿者名:AS
投稿日時:(01/ 7/30)




 ー狼牙ー



 ー己の力で、勝つ!ー

 心中での密やかな、その決意に応えるかの様に、狼牙がその刀身を煌かせた。ゆっくりと・・・その切っ先を、見据える相手へと向ける。

「・・・つまらない軽口など聞いとらん・・・」

 ズン!
 一歩、踏み出す。
 見知った相手ではあるが、敵として向かい合う今・・・その巨体で重々しく地を踏みしめながらこちらへと近づくその姿からは、例え様も無い程の威圧感を感じさせる。
(大したもんだぜ・・・幻影にしちゃあ、な・・・)
 額から流れる汗を拭いつつ、間合いに踏み込んだ相手に、狼牙を振るう。しかしまたも狼牙は空を切った。
 タイガーの姿が揺れて、消える。何度も繰り返されたその光景にうんざりしたかの様に、雪之丞は狼牙で消えかけている幻影を、薙いだ。
「もう一度言う・・・あきらめるんジャ・・・」
 背後から声がかかる。雪之丞は無視した。
「この空間。繰り返すがお前さんにとってのこの場所は・・・」
「てめえから送りつけられたイメージに過ぎねえ・・・いい加減しつこいんだよ!」
 そこで、声は途切れ、何人目かのタイガーが姿を現す。
 そのタイガー・・・自分の目に映るこのタイガーも、無論本物では無い。強大な精神感応力によって、雪之丞が今現在立つ場所・・・廃虚と化した屋敷、その正面玄関の先に広がる前庭だったこの荒れ地は、最初に見て焼きつけたイメージそのままに、全く別の空間と化していた。

 ー支配された空間ー

 戦闘が始まった直後、襲い来る精神獣を紙一重でかわしたその瞬間、雪之丞はまるで自分が誰かの描いた『絵』の中に放りこまれたかの様な違和感を感じた。
「な、何だ・・・?今のおかしな感覚は・・・」
 そうゆっくりと考える暇を与えずに、猛然とタイガーが突っ込んでくる。それを右にかわし、すれ違う瞬間に狼牙で相手の左腕に一撃を叩き込む。動きが鈍ったのを見逃さずに、連続攻撃を仕掛けようとした、その時。
 僅かな余韻も残さずに、『一人目』のタイガーは消えた。

「・・・・・・」

 それからは、同じ事の繰り返し。
 次から次へと現れるタイガー。精神獣の襲撃をやりすごし、タイガーに一撃を加える。消えるタイガー。また何事も無かったかの様に現れるタイガー。
 知らず知らずの内に、雪之丞は疲弊していた。その隙をつかれ、精神獣に右肩を喰いやぶられてしまう。

 そうして・・・現在に至る。

「もう一度言う。あきらめるんジャ・・・お前さんの五感は味覚を除いて全てがワシの支配下にある・・・視る事、聴く事、匂いを嗅ぐ事、何かに触れる事・・・全てが偽りの中で、勝ち目など無い!」

 勧告。屈辱を、自ら受け入れろという残酷なその言葉。
 雪之丞はただ黙って左手の中指を立てた。

「・・・これが最後ジャ・・・!」
 中指を立てたままの雪之丞を厳しい眼で睨みつつ、ゆっくりと口を開く。

『あきらめろ・・・その刀を渡せ・・・!』

『い・や・だ・な!』

 一切の迷いも見せず・・・いや迷いすらせずに雪之丞は勧告をはねのけた。瞬間、右肩を喰いやぶってからは、ただ黙って雪之丞を見据えていた精神獣が、吠えた。
『グァァアルルルルル!!!!』
 吠え猛る。荒れ狂う。何にも見向きせず、ただ真っ直ぐに、雪之丞へと襲いかかる。
「・・・・・・」
 雪之丞は動かなかった。妙に冷めた眼差しで、青白く輝く巨大な虎を、ただ見つめる。
『グアアァァ・・・!!!』
 至近距離に入り込み、牙を剥き出しにした精神獣。その牙が喰いついたのは・・・


「ーーーっ!!」


 ー自ら差し出した、『彼』の左腕だったー




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