前世の幻 -タマモ-(5)
投稿者名:JIANG
投稿日時:(01/ 7/26)
人間という生き物は、しつこいものね。一ヶ月もしないうちに、私がこの地に降り立ったと噂を聞きつけたのか妖狐追討の武者たちがこの那須野に現れたわ。
まったく、私を追い払っただけでは満足せずに退治しようというのだからうっとうしい。
法皇の病の原因である邪気は払われたのだから、ほっといてくれればいいのに……。
私は都のことや法皇のことが少し気になったので、得意の幻術を使って三浦介という武者の夢枕に美女の姿で現れて、その後の様子を聞いてみたの。
彼の話によると法皇の病は私が都を離れた後、回復に向かっていたらしいわ。でも十日ほどするとまた重い病に伏せるようになったということだった。
それで、また泰成に占わせたところ今だ妖狐の呪いが法皇の体を蝕んでいると言ったらしいの。相変わらず見当違いのことを言ってくれるわ。
それで、妖狐退治をするために弓の名手であるこの三浦介と上総介の二人が選ばれ家来を引き連れてここまで来たということだった。
私は夢の中で法皇の病の原因は私のせいではなく、上皇の恨みが生き霊になって法皇を害しているのだと教えたけど三浦介はまったくそれを聞き入れてはくれなかったわ。
翌朝、私を退治するための狩りが始まった。
妖力の乏しい私はひたすら逃げ回るしかなかったわ。武者たちは私を追い回し、矢を射かけ、刀や槍を振り回し、私を追い詰めていく。
私は唯一道の開いている山の方に逃げていったわ。
山の中腹にその男は立っていた。その男は道服を着て頭をすっぽりと覆う頭巾をかぶっていた。
頭巾からのぞく憎しみに濁った目を見て私はそいつが泰成だと直観したわ。
たぶん泰成は何か仕掛けをほどこしているだろう。
前方に泰成、後ろからは弓をかまえる三浦介と上総介。一瞬の躊躇は命取りになる。
私はためらわずに速度を落とさず前方で待ち受ける泰成の罠に飛び込んだわ。
呪縛の結界が発動し、私は動きを止められてしまった。
その隙をついて矢が放たれ、私の体に2本の矢が突き刺さった。私は痛みをこらえ、力を振り絞って結界を破って泰成に襲いかかった。
泰成は結界が破られるとは思わなかったのだろう。馬鹿みたいに立ちすくんでいたわ。おまえの術など私には効かないと都で思い知っていただろうに。その泰成の喉笛に私は最後の武器である牙を突き立てた。
倒れ落ちた泰成をうち捨て、私は武者たちから逃れるべく体を引きずり山を登っていったわ。でもなぜか武者たちは、それ以上私を追ってこなかった。
いつの間にかそこは、山の木々が途切れ、岩がむき出しになった場所になっていた。周りを見ると岩のすき間のあちこちから猛毒のガスが吹き出していた。妖狐である私にはなんでもないが、この猛毒のおかげで人間たちは追ってこれないらしかった。
私は傷ついた体と妖力をここで回復させることにしたわ。ここなら、わずらわしい人間もやって来れないだろう。私はこの場所で目立たなくするように、自分自身を巨大な岩に変化させた。そして永い眠りについたのだったわ。
私はおキヌちゃんに肩を叩かれて我に返った。
岩ばかりの景色が消え去り、本がたくさん並ぶ図書館の中に私はいた。
何だかボーといた私を見たおキヌちゃんはやさしく微笑んでいた。
勉強が終わったので帰るのだそうだ。私はまだ読んでいない本を数冊おキヌちゃんに借りてもらうことにして帰ることにしたわ。
事務所に帰って、屋根裏部屋に落ち着くとふと疑問に思った。
あの程度だったら、もっと早く目覚めてもいいはずなのに、なんで今頃になって転生したんだろう? 私は図書館から借りてきた一冊の本を手に取って唸った。
私が変化した石はその後、殺生石と呼ばれるようになってこの石の近くによるものは鳥でも獣でも人間でもなんでも殺してしまったそうだ。そこでこれは九尾の狐の呪いだということになって、源翁和尚が呪いを封じるために殺生石を大槌で叩き割ってしまったと書いてあったわ。
私はこれを読んで頭がクラクラしてしまった。
これがなかったら転生という形じゃなくてもっとずっと前に復活できていたじゃないの!?
なんでもかんでも私のせいにしないでよ!
やっぱり人間って最低ッ!!
おわり
今までの
コメント:
- タマモの昔語り、第5弾。
タマモの怒り爆発の最終話です(笑)
泰成、本当は出す予定じゃなかったけど、最終決戦のラスボスとして登場させました。
今作では良い敵役として活躍してくれました。
ご冥福をお祈りします(笑)
今回の注目キャラは三浦介、上総介ですね。
三浦介の方がやや活躍しているかな。
二人とも弓の名手で、伝説では退治の前に犬を妖狐に見立てて弓の練習をします。
それで、見事九尾の狐を討ち取るわけです。何事にも練習は必要だという逸話ですね。
それから、殺生石をうち砕いた源翁和尚は大工道具の玄翁(大きな金槌)の名前の由来になったそうです。(豆知識)
では、感想お待ちしてます。 (JIANG)
- 玄翁和尚・・曹洞宗『玄翁心昭(げんのうしんしょう)』
実在の人物。後の玄翁山の開祖。
浪曲「殺生石」をずーっとやってきて、最後にタマモちゃんが良い事いいましたね。
「やっぱ人間なんて最低ッ!!」
これ言う為に5話ですか・・・・。
御疲れ様でした。ホントに。 (トンプソン)
- −Iholiさん
そうですね。もう少しタマモの語りをくだけたもの言いにできれば良かったのですけど、うまくできませんでした。
これからの課題です。
それでも最終話は少しは雰囲気が出たかなと思うんですけど道でしょうか?
−sigさん&suaerさん
僕のタマモのイメージは高貴というのもありますが孤高という方がピッタリきますね。
あと泰成が活躍する小説が読みたい方は富樫倫太郎氏の「修羅の跫(あしおと)」なんかどうでしょうか。九尾狐はもちろん酒呑童子なんかも出てきて面白いですよ。ちょっと分厚いの玉に瑕ですが(笑)歴史群像新書刊だったかな? (JIANG)
- −トンプソンさん
タマモの最後の言葉、これは書き終わる寸前、源翁和尚が殺生石を叩き割るところを書いてる時に自然に出てきました。原作に使われた言葉ですが妙にシックリきたもので使ってしまいました。
ホッと一息です。 (JIANG)
- ホッと一息です。
と言いたいとこでしたが・・・・・・
よくよく読み返して考えるとあの言葉でこの物語を締めくくるのはどう考えても物足りないですよね。
前世の記憶が甦ったことに対して今のタマモがどのように感じたか。
そしてそれを踏まえて今の状況をどのように考えているか。
これらのことを書かなければこの話はまだ完成されたとはいえないなと言うことに思い至りました。
トンプソンさんの「これ言う為に5話ですか・・・・。」と言う書込みがなければ気づかなかったでしょう。ありがとう、トンプソンさん。
と言うことで、あと1話ほど続けさせてもらいます。 (JIANG)
- お話自体は完全タマモ主体の「殺生石」伝説と云った処で、大きく奇をてらった解釈も無くすんなり読めました。
回想の場面はどうしても説明が多くなってしまうので、現実に戻った場面よりもタマモの表情を引き出し難いのは仕方無いでしょうね。その分、例の一言が利いてます。 (Iholi)
- たいへん、納得のいくお話ですよ。筋も通っているし。
あと、小説の紹介ありがとうございます。早速借りてこよう・・・(微笑)
続きがある、ということなので・・・すごく楽しみです。がんばってくださいね?では・・・ (sig)
- あと一話♪ …すごく気になるし……コレ、すごくタマモちゃんらしくて良いですよ♪
あぁ…ボクも、こんなタマモちゃんが書いてみたい…(←無理・泣) (sauer)
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