ザ・グレート・展開予測ショー

狼牙(四)


投稿者名:AS
投稿日時:(01/ 7/23)




 ー狼牙ー



 ー雨は止む事無く、降り続けたー

「・・・・・・」

 既に先程アスファルトを濡らした彼の『血』は、この雨に打たれ、流されて、消えている。仮初めの血も・・・そして自ら打ちつけ流した血も・・・どちらも自身の心から流したー『血』ー
 今彼はただ黙って、硬い地にその身を横たえていた。
 衰弱した己の身体は既に回復して来ている。今彼がこうしているのには、何の意味も無い。それでも彼はそうしていた。何からも目を背け、耳を塞ぎただじっと・・・動かずに・・・
『神奈』・・・そう名乗った女性も、それに倣うかの様に、ただ黙ってそこに居続ける。傘を片手にし・・・ずっと。
 

 ーやがてー静寂が破られる。雨が降り、そして地面に、あるいは彼の身に弾かれる・・・延々と繰り返されたその世界、彼にとってのみの静寂の世界に、『彼女』の声が割って入る。

『いつまで・・・そうしている・・・のですか?』

 答えは返らなかった。しかしそれに構わずに、彼女は彼に語りかける。
「無意味な行為を止めたのは、そうしている為・・・それだけの為なのですか?」
 やはり答えは返らない。
「・・・・・・」
 ややあって、彼女は落胆の・・・その中に僅かに侮蔑の入り混じった、ため息を洩らした。
「どうやら見込み違いだった様です・・・今からでも遅くありませんね・・・やはり『彼』に頼むしか・・・」
 ー『彼』ー
 それがハッキリと、先刻自分をうちのめした男の事を言ったのかは解らない。しかしその言葉を聞いて、今彼の脳裏に浮かぶのはその男のみだった。色を失った世界に亀裂が走る。
 彼はゆっくりとだが・・・立ちあがった。
「・・・・・・」
 二、三度、拳を握りしめる。左。今度は右。右拳を握る時に痛みは走ったが、自分は『力』を失ってはいない・・・借りを返せぬ事は無い・・・決して。それは今の彼にとって、充分に覇気を甦らせらせ得る事だった。
「あの・・・」
 右後方から声がかかる。彼は『神奈』の居る方に向いた。
 若い・・・自分よりは年上に見えたが。長い黒髪を後ろで束ねている。服装は水玉模様の半袖のシャツに、短めの白いスカート。余り似合ってはいない。彼の目にはどこかー不自然に写った。
 顔は・・・整っている。意志の強そうな黒い瞳。弓・・・彼の友達(今のところ)とは違った方向で、美人だった。スタイルもいい。そこで彼は激しく首を振った。
(アイツの悪いクセ・・・伝染ったかな・・・)
 今彼女はキョトンとして、こちらを見つめている。居心地悪そうに咳払いをしつつ、彼は口を開いた。
「俺に・・・ゴホン!何か用がある・・・のか?」
 彼女・・・神奈は微かに頷いた。そして屋敷の方へと、静かに歩きだす。黙って見ていると、神奈がこちらへ肩越しに振り向いた。目が合う。こちらへ・・・そう言っているかの様に、彼女は再び前を向いて、歩きはじめた。
「・・・・・・」
 妙な女だ・・・そう思うが敵とは思えない。妖怪や魔族の類だとも。やがて・・・彼女が先程の屋敷へと続く階段をあがりはじめると、やむなく彼も後を追う。
 そうしながら彼は・・・先の出来事によりもたらされた『苦さ』を思いおこした。ー認めずにいた『敗北』の味をー

(お前にどんな事情があるのか・・・んな事解るわけねぇ・・・けどな・・・)

 そこで一旦、立ち止まる。自然と拳が、固く握られてゆく。

『借りは返す!必ず!』


 ー彼は再び、階段を駆けあがったー


 ーその頃ー


 屋敷の奥・・・倉がある。ーそこで何かが蠢いたー

 動く。ゆっくりと・・・緩慢にだが・・・倉の奥に在る一振りの『刀』の前へと立ちはだかる。

 それはまるで・・・その『刀』を護るかの如く・・・そこから離れずにいる。 ー闇の中ー音無き声が響く。

『愚か者共・・・例え何度来ようとも・・・』

 何者かが刀を手にする。白刃が闇を薙ぐ。

『狼牙は・・・渡さん!』



 ー声と共に、雷鳴が鳴り響いたー



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