ザ・グレート・展開予測ショー

サイコダイバー(その3)


投稿者名:ボヘミアン
投稿日時:(98/ 5/27)

ど〜も〜、ボヘミアンです。「サイコダイバー」も今回で終わりにしようと思ったのですが、広げた風呂敷きのたたみ方がわかりません。おかげで終わりませんでした。それと、実は今回は息切れした感じでギャグもほとんど入っていません。誰か助けてください。 <ほとんど本気です(*_*)

カオスが女性二人に袋叩きにされる少し前、令子の肘鉄はルシオラにも動揺を与えていた。サンダルフォンの耳に残る悲鳴が消えた直後、横島の精神体に異変が発生したのである。ルシオラには何かはわからなかったが横島にきっついダメージが加わったのだ。周りの景観がグニャグニャと定型を成さなくなる。
「やだ、まっずーい。敵を斬るついでに美神に関する記憶も叩き切ったのがいけなかったかしら。」
サンダルフォンをギリギリまで引き付けたのは、美神の記憶が格納されたセルとサンダルフォンが直線上に並ぶのを待っていたためのようだ。敵との実力に差があったせいか、結構冷静である。横島の危機にルシオラがあたふたしていると今度は体が火照りはじめた。高揚感が押さえられない。枝を通じて横島の興奮が伝わってくる。
「こいつ、なに考えてるのよ。こんな時に!」
しかも対象物は自分ではないらしい。横島の感情は漠然としか伝わってこないが、そこは女の感というやつだろう。ルシオラは自分以外のものにスケベ心をあらわにしている横島に少々怒りを感じた。自分が対象だったらいいのかな、こういう場合?
「こんなことならさっき遠慮するんじゃなかった。帰ったら絶対とっちめてやる。」
ルシオラは先を急いだ。

「もうすぐ底に付くはずだけど・・・」
ルシオラの周りは薄暗くなり視界がきかない。霊波を利用した探索システムの探索範囲も乱反射で狭まってきている。そろそろのはずだ。そのとき、下方から一条の光が射す。
「あれは?」
遠いいため細かい点は確認できないが、殻のようなものに包まれた何かが光っている。殻が光を遮っているが、所々破れた部分から光が漏れているのだ。やさしくとても淡い光だ。位置からして横島の意識の底、イドの中心だろう。暗い意識の底でそれはひときわ目立つ灯台だった。
「何かしら?」
ルシオラが再び疑問の言葉を発したとき、彼女のすぐ後方に肉の塊「鉄雄」が現れた。近いっ! 深層意識下では探索システムも役には立たなかったようだ。ルシオラは両手から光の剣を出そうとするが、彼女が振り返るよりも先に「鉄雄」が爆発的な増殖を始める。人面疽のように塊に張り付いた顔が無表情にルシオラを見つめていた。
「このやろー!」
やっと出た光の剣で肉の塊に切りつけるが増殖速度の方が早い。たちまちルシオラの肢体に達するとそのまま彼女を取り込もうとする。
「まっ、まずい!」
下半身を絡め取られたルシオラが脱出しようともがき、両手で相手を押し返そうとするが手応えなく今度は手が肉塊にのめり込む。凄まじい速度でルシオラの体が侵食されていった。抵抗するルシオラの体をあっという間に「鉄雄」は飲み込んでしまった。
「くっ、苦しい、息が出来ない。」
薄れゆく意識の中でルシオラは声にならない叫びをあげた。
「ヨコシマ! たすけて・・・」



「後半戦はこいつ抜きね。」
「ええ。」
令子はカオスを指差し汗を拭うとモニターに向き直った。カオスはボロボロにされ部屋の隅に転がされている。カオスがボロ切れと化す間、マリアは静かにルシオラのモニターを続けていた。
「アガガガッ。」
令子のアッパーカットでアゴを砕かれたカオスは、まともに発声が出来なかった。だがマリアはこの意味を成しているとも思えないうめき声に反応した。
「ミス・おキヌ・お願いします」
「あっ、はい。」
マリアは席を立つとカオスのもとへ歩み寄る。
「ウガッ。」
「イエス・ドクターカオス」
「へぇー、マリア、なんていってるかわかるの?」
「イエス・ミス・美神」
どうやら高度に圧縮された高速言語(スーパーボイスかもしれない)を使用しているようだ。マリアはおキヌちゃんが持ってきたお盆を手に取ると、カオスの口元にカステラを差し出した。
「ドクターカオス・カステラ・食べたい・といってます。」
「あ、そう・・・」
ムシャムシャとカステラをほおばるカオスを見て令子はため息をついた。
「ウガガッ。」
「ドクターカオス・やはり・カステラ・厚いのに・限る・といってます。」
「・・・もういいわ、通訳しなくても。カオスの事お願いね。」
令子はもう興味はないといった感じでパタパタと手を振るとおキヌちゃんにたずねた。
「どう? ルシオラは。」
「もうすぐ深層意識に到達します。」
「いよいよね。」
モニターにはルシオラを示す赤い点が示されている。その点の脇に下向きに矢印が添えられ、ルシオラが降下している事を示していた。先程の障害もなんなく切り抜けたし、今のところ順調といってよかった。令子は油断していたわけではなかったが好事魔多し。突然、ルシオラの赤に青い光が重なりルシオラを飲み込んだ。
「えっ、何これ?」
「ルシオラさんの同軸上に敵性物体!」
「功性防壁で援護を!」
「間に合いません! あっ!」
いくつかのモニターが暗転する。生き残ったモニターは赤く染まり異常を告げていた。
「何?」
「枝が折られました。モニターできません・・・」
「アンビリカルケーブル断線!」とか「活動限界まで4分53秒!」とかいいたいんだけど、ここは我慢しなくちゃね。ルシオラさんには「内部電源」なんてないもの。マリアさんだったらいえたのにな・・・ などとおキヌちゃんが考えたかどうかは定かではない。
「ヤバイわ、どうしよう。どうすりゃいい?」
「どうすればっていっても。」
おろおろする令子とおキヌちゃんにカオスが声をかける。
「アガッ。」
「えっ、なんていったの?」
令子とおキヌちゃんが振り返る。
「ドクターカオス・横島さんの・意識・直接・呼びかける・といってます」
変わってマリアが答えた。
「ウガガッ。」
「ミス・美神の・協力・必要です」
「このままだと・ミス・ルシオラ・帰って・来れなく・なります」
マリアがカオスをモニターの前に座らせると、カオスは震える手でキーボードを操作しはじめた。



ドテッ!

「えっ、なに?」
突然加わった衝撃にルシオラが目を開けると、窓から白いレースのカーテン超しにやわらかな日差しが射している。周りを見まわすとどうやらベッドから転げ落ちたようだ。
「う、う〜ん。」
ルシオラは頭を振り、自分がなぜこんなとこにいるのか思い出そうとしたが、考えがはっきりしない。その時になって、なぜか両手で「枕」を抱きしめていることに気がついた。
「なにやってんだろ私・・・」
「枕」をベッドに放り出すと座ったままのびをする。立ち上がろうとするとお尻が抗議の声を上げた。
「あたたっ。」
ベッドから落ちたときにぶつけたらしい。お尻を押さえていると後でドアが開く音がする。ルシオラはとっさに情けないカッコのまま戦闘態勢に入ろうとするが、入ってきたのはエプロン姿の横島だった。
「おはよう、ルシオラ。どうしたの? 悪い夢でも見た?」
怪訝そうなルシオラの表情に横島が戸惑う。
「ううん。なんでもない。」
ルシオラは横島を心配させないため微笑むが、頭は「?」でいっぱいだった。
「ならいいけど。」
「別になんでもないって。それよりそのカッコどうしたの?」
「えっ、だって休みの日は俺が家事をやるって決めたじゃないか。」
「へっ? 家事?」
「うん。三ヶ月前、結婚するときに決めたろ。忘れちゃった?」
「けっ、けっこんー?」
自然と声がうわずるのがわかる。ルシオラには自分が横島と結婚したことに確信が持てなかった。「そうだったけ?」 不安と同時に嬉しさがこみ上げてくる。
「そう、結婚。それより起きてくれ。今日の朝食は自信作なんだ。」
横島はルシオラの手を引くとパジャマ姿のまま寝室から連れ出した。鼻歌なんぞ歌っている。よほど朝食がうまく行ったのだろう。そんな横島の姿を見てルシオラの不安はどこかへ消えてしまう。横島はルシオラをダイニングキッチンのテーブルに座らせるとなべを持ち出した。
「えっー、朝からなべ物〜?」
ルシオラは不審の声を発すると

パシャ!

横島が過去に作ったメニューが頭の中にフラッシュバックする。凝ったときに限ってうまくいった例はなかった。一瞬違和感が頭をかすめる。「なんだろ・・・」 ルシオラは怪訝な表情を浮かべるが、横島はそれに気づかず続けた。
「これが傑作なんだ。まあ、食べてみてくれ。見てくれは悪いが味は保証するぜ。ルシオラが気に入ったら名前をつけなきゃいけないな・・・」
ブツブツとつぶやく横島の横で、確かに見てくれの悪いなべにルシオラは箸をつけた。
「あら、おいしい。」
「だろ〜、苦労したんだよ。これからちょくちょく作るからさ。」
「ストップ、気持ちはありがたいけど遠慮しとくわ。」
「えっ、なんで?」
「だって、かえってこっちの仕事が増えそうだもの。」
ルシオラの背後の台所では、試作品と思しきものの屍が累々と横たわり、洗っていない皿となべ、フライパンが所狭しとならんでいた。
「だっ、だいじょうぶ。片づけの方もやるって。」
ルシオラの冷たい視線に、横島はあわてて付け加えるがルシオラはため息を吐いた。
「あなたに片づけられたんじゃ私が困るわ。どこに何があるかわからなくなっちゃうもの。明日のこのと考えると結局手伝うはめになるの。」
「そ、そうだね。」
「お料理は愛情がこもってればいいっていったのあなたでしょ。あまり凝ったものを作る必要ないわ。それにもう・・・」
壁にかけた鏡に写るデジタル時計が目に入る。また、ルシオラの心に何か引っかかるものがあったが、それよりも今が大事だった。
「・・・10時じゃない。納得ゆくものが出来るまで私を起こさなかったていうのもわかるけど、最近お仕事忙しいし、お休みの日ぐらい一緒にいる時間を長く取りたい・・・ わぁー!」
語尾が裏返ってしまう。「次からは私も手伝うわ、一緒にお料理しましょ。」とつなげるため、ちょっと拗ねた感じをだそうとそっぽを向いてしゃべっていたが、異様な息遣いに振り返ると横島が「ぐおぉぉぉ!」と迫っていた。ルシオラは横島にローリング・サンダー・スペシャルを浴びせると叫んだ。
「ムードとシチュエーションを考えるっていう約束でしょ!」
横島は派手に吹っ飛び、風圧で背後のガラス窓にひびが入る。的確に急所を押さえた五発のパンチにさすがの横島もダメージを喰らった。
「へほんひはんだははひひじぁはひは。」
「ダメよ、日が高いうちはお預け!」
「ひょんな〜。」
「それよりお買い物いきましょ。」
「かひもの〜?」
横島は明らかに不満そうだ。ルシオラは横島の耳元に口を近づけるとささやいた。
「帰ってきたらサービスしてあげるから(はぁと)」
次の瞬間、横島はダメージから回復していた。
「よし行こう、いま行こう、すぐ行こう。」
「ちょっと待ってね、着替えてくるから。」
朝メシはどうしたという外野の突っ込みには耳を貸さず、ルシオラは着替えようと椅子から立つとキッチンを出ようとする。

カシャ!

デジタル時計が音を立てて自分が動作中であることを主張する。ルシオラがふと目をやると時計の文字が裏返っていた。そう、まるで鏡で写したように・・・

パシャ!

まただ。ルシオラの時間が止まった。まるでフラッシュが焚かれたように一瞬周りが真っ白になる。すぐ近くにいる横島が声をかけているようだが、数百メートルも先にいるみたいだ。何か重要なことを思い出しかけてるみたい・・・ 頭が痛い・・・
「私、横島の精神にダイブして・・・」
独り言のようにつぶやく。自分の言葉に現実味がない。ルシオラは自分につけられた枝から擬似記憶が注入されようとしていることに気がついた。無理矢理頭に入ってくる擬似記憶、こいつが違和感の正体だった。
「これが元凶?」
ルシオラは手を伸ばし枝をつかむが力が入らない。目を閉じると横島の顔が浮かぶ。
「ヨコシマ・・・」
呪文のように横島の名前をつぶやくと、ルシオラは渾身の力を込めて枝をひきちぎった。息が苦しい。振り返ると少し離れて横島の偽者が微笑みながら立っている。部屋がドロドロと溶け始めていた。彼が口を開く。
「ここはおまえが望んだ世界を具現化したものだった。時計の件は残念だね、鉄雄は鏡の世界しか知らないからな。気がつかなければずっとここで暮らせたものを・・・」
ルシオラの感は彼がアシュタロスの分身だと告げていた。しかも手強い。アシュタロスはそのエネルギーのほとんどをこの分身に費やしているようだ。そして多分本体と枝でつながっているのだろう。部屋は既に原形をとどめておらず、床はズブズブとルシオラの足を膝まで飲み込んでいた。もう二度とあんな目に会うのはごめんだった。ルシオラは両手を合わせ光の剣を作ると最大出力でアシュタロスに叩き付けた。

グワッ!

凄まじいエネルギーが周囲の肉塊を吹き飛ばす。「鉄雄」も内部からの爆発には耐えられず、風船のようにはじけとんだ。



今までの 賛成:1 反対:4
コメント:

[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa