ザ・グレート・展開予測ショー

狼牙(三)


投稿者名:AS
投稿日時:(01/ 7/22)




 ー狼牙ー



 絶叫が、響いた。

『ぐあああああっっっ!!!!!』

 喉の奥から・・・いや、魂からの叫びが場の空気を震わせた。

 苦痛。そう形容するしかない。凄まじい肉体への・・・いや、魂への苦痛が雪之丞を襲っていた。薄れ行く意識を必死に繋ぎ止め、その『痛み』がどこから来るものかを探る。
 脇腹。左手が動かない事からして、左の脇腹だと雪之丞は看破した。腕が動かせないのは、脇腹に喰いつく『何か』に押さえ込まれているからだろう。右手で引き剥しにかかる。
『ーーーうおぉっ!』
 渾身の力。といっても組み伏せられ、しかもこの激痛の中では普段の半分も力は入らないだろうが、それでも迷わずに、雪之丞は『何か』を掴んで引き剥そうともがき始めた。その時。
 ーー戻れーー
 そんな声が耳に届いた。
 ダンッ!
 脇腹から『何か』が離れる。ー途端ー血が溢れだした。
「く・・・!」
 自由になった左手で傷口を塞ぐ。しかし流れる血は左手を紅に染めながら、一向に止まる気配が無い。
(ヤ・・・ヤベ・・・ェ・・・)
 体中から暖かみが消えていく。血が流れれば流れる程に己の暖かさが失われていく。本能が『危険』と激しく訴えてくる。
 ゆっくりと、彼は体勢を変えようと動いた。少しでも出血を抑える為に。遅々としてだが。

 その最中、彼の目に先程と同じ二人の姿が写った。
 
(な、何だ・・・あれは!?)
 大柄の男の足元に、『何か』がかしづいている。無論ヒトでは無い。その姿はまるでー・・・
(と・・・ら・・・?)
 その考えを、すぐに打ち消す。
(違う!あんな虎がいるか!あんな・・・!))
 その虎(らしきもの)は巨体だった。目に写る男が小柄に見えてくる程。しかし最も目を惹くのは大きさよりも、全身の『色』だった。統一して青白く輝いている。瞳すらも。だ。
「もういくわよ!タイガー!」
 ふいに、女の声が響いた。
「下らない状態の奴に捕まって、つまらない時間を過ごしたワケ!とっとと戻るワケ!」
 その言葉に頷き、既に『彼』に背を向けて歩き始めた女性の後を追う。その背中に先程の虎が飛びつき、そのまま溶け込んで消えた。
「あ、あの虎は・・・何!?」
 傷が無い!?流れた血も!?驚愕する雪之丞に声がかかる。
『・・・情けとして教えといてやるがノー・・・!あの虎はワシが生み出した『精神獣』ジャ・・・自分を虎に変える必要の無くなったワシの頼れる『相棒』ジャ!』
 ー情けー
 その言葉は雪之丞に突き刺さった。心の奥底に、深く。
「タイガァ・・・てめ・・・ぇ・・・」
 闘志は尽きていない。それどころか怒りによって更に引き出されている。しかし身体はピクリとも動かなかった。
「無駄ジャ・・・例え現実で無くとも、身体は大量の血を失ったと勘違いしとる・・・しばらくは貧血で動く事も出来ん」
「く・・・!」
「最後に言うとくがノー・・・これに懲りたら今のワシらの邪魔はせん事ジャ・・・次は手加減せぇケンノー・・・」
 
 やがて雨の向こうに、二人の姿は消えた。

 一人雨の中取り残された彼・・・ふいにその視界の中を、何かが通り過ぎた。

 ガンッ!

 ー雪之丞は、地に拳を打ちつけたー

 ガンガンガン!
 打ち続ける。心に広がる苦い何かを打ち消そうと。しかしそうすればそうする程、それは苦さを増していく。
「ーーー!!!」
 ガンッッ!!!
 アスファルトの上を血が流れる。拳から、そして強く噛んだ口元から。それは先程と違い、正真正銘自分の流す『血』だ。
「・・・・・・」
 打つのを止める。まだ自暴自棄になるには早い。そこで彼は、自分を見つめる『存在』に気がついた。顔を上げずに、問う。

『・・・誰だ・・・てめぇ・・・』


 静かに・・・気配が揺れる。


『・・・神奈・・・と申します』


 表情も変えずに・・・ソイツは問いに応えた。



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