ザ・グレート・展開予測ショー

Witch Dressed As A Man (魔女の男装)


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(01/ 7/18)

西から吹く幾ばくか湿り気を持つ風が桜の抵抗を容赦無く払いのけている。
もう凍てつく空気が消えた春だ。無機質の車も喜んでいるように見える。
ここに春を喜ばない男が一人。
「春か。虚しいだけだ」
ため息も冷たい。いたしかたはあるまい。女を賭けた勝負に負けたのだ。
年下の餓鬼に。
西条の口にある煙草の燃色だけが赤い。
しかし、人間空気を吸っているだけで生活できるほど、頑健ではない。
「飯でも食いにいくか」
彼の財布ははちきれんばかりの物は有るが、昼から使う事もあるまい。
近くに後輩である魔鈴めぐみの店がある。
西条、幸いも花粉症には縁が無いのには羨ましい。
食欲もないので、無理やり昼食のメニューを思い浮かべながら入ると、
「ちょっと!ここは料理を食べる店です!風俗店じゃありません!」
かなきり声で怒っているのは魔鈴である。
前から彼女に言い寄っている男は、これまで貢物等に物を使ってきた男が暴発したようだ。
どうも魔鈴めぐみの近くに不心得者も少なくない。
そういう類の人物を利用する方も方だが、魔女所以であるとも言えなくない。
「んだとぉ!ちっきしょぅ。このアマ、こうなったら」
魔鈴も顔が青くなる、男が懐に手を入れると人殺ししか出来ない道具が見えたからだ。
だが、
「フリーズ、指一本でも動かせば、食事の入らない体にするぜ」
「さっ、西条先輩」
へなへなと膝から落ちるのも当然である。
パトカーがやってきて、段落が付く。本日は臨時休業になった。
「さて、今日はゆっくり休みなよ、災難だったね」
肩をたたいて踝(くるぶし)を外に向けると、
「西条先輩、今日御仕事は?」
「定刻通りで5時終業だ」
「それじゃあ」
テーブルにあった水を呑んでから、
「あと数日で切れる映画のチケットがあるんです。宜しかったら」
煙草を付けなおそうとしたが、
「あぁ、いいよ」
肯定の返事は魔鈴を小娘のように喜ばした。
「やったー。気になる映画なんだったんですよ。でも一人じゃ寂しいし」
はん、と鼻をならしてから、外に出ようとしたとき、
「先輩も元気出してくださいよ。未練を残してもしょうがないじゃないですか」
答えず、店を出ると、もう桜の華は散っていた。
昼食は食いそびれたようだ。
5時、待ち合わせの場所へと向かう。
あたりに女の姿はなかったが、
「西条先輩、時間通りだな!」
小柄な男が話しかけてきたかと思った。
「あん?魔鈴君か、どうして、そんな格好で?」
春物のコートから、ベストまで左上の男物なのだ。
「女の格好だと、男が五月蝿くてな、対策さ」
なんともな言い分である。
女は変るな。何時の世にも使える常套文句であろうか。言葉まで男のそれである。
「そぉか。んじゃ映画でも」
「そうだよ、楽しもうぜ。嫌な事は忘れてさ」
「・・・忘れられるかな」
春の夜は早い。気温も昼とは比較にならない。
風に涼気が混じる。
「さぁ、映画館に行こうぜ?」
魔鈴が率先して、映画館のある場所に向かうが、
「おかしいな。この方向暗くないか?」
「でもこの道であっているハズだがな」
暗いのも当然である。西条が魔鈴から映画のチケットを借りると、
「魔鈴君、暗いのも当然だな。注意書き見てごらん」
本日は休館日としっかり明記されてある。
「そんなぁ、ボクたら馬鹿だなぁ」
魔鈴、拳で自分の頭に軽く打つ。
「西条先輩、昼飯食いそびれたんだよな?食事にでも行くかい?」
「んー、レストラン経営者の君と行ってもいい場所は」
結局駅前の喫茶店となった。
「煙草、吸ってもいいかな?」
注文を終えた西条が断わりをいれると、
「それが、美味しければいいさ」
変な質問にどう言う事だと聞き返すと、
「寂しさを紛らわす煙草なら吸わない方がいいて事さ。判るだろ?」
「なるほどな、紛らわす為の煙草か」
左手に持った煙草を火を付けずに灰皿に置く。
円い灰皿の切れこみにフィルターを庇う様にして。
「そういう事さ。西条先輩まだ彼女に未練があるのか?もう人の妻同様だぜ」
悲しいまでの笑みが毀れる。
「そう、さ。可愛い妹だったのが、目の覚めるような美人になってたんだからさ」
口元が寂しいのか、言葉に使う唇運動よりも多く上下に口を使っている。
「昔、彼女が告白した時に振ったンだろ?当然の結果じゃないか」
そうかもなとの意味合いの溜息が漏れると、
「でもどうして今日に限ってこんな話しになるんだ?昔の話でもしようじゃないか」
会話を変えようとするが、
「いいのかい?先輩の女垂らしの日々が話題になるぜ」
二の句が続かない。
「でも、その女の中に、ボクはいなかった」
何を言い出すと思えばと身を構える西条。
「昔は、同じ霊能を持つ日本人として見ていたし、ボクは授業や課題に精をだしていたさ」
「そうだったな。君は優秀な生徒としても知られていたかね」
無意識に新しい煙草を胸ポケットから出して、ライターを探している。
「また、吸うのかい?そこにあるというのに、もらうよ?」
有無を言わさず灰皿を廻して、煙草を指に挟む。
「今日の魔鈴君はどうしたんだい?何時もと違うじゃないか。まぁ昼にあんな事があったんだし」
西条の言葉を聞かずに、魔鈴煙草を口に持っていく手前で止めて、
「いつまでもいじけてんじゃないよ。いい加減目を覚ましな」
言う事を言って口にくわえる。
くんとあごを少し前に出す。火をつけてくれと言う事だ。
気づいた西条がようやくライターを見つけて、魔鈴の咥えた煙草の先端に火を持っていく。
「目を覚ませか。キツイ言葉だが」
一端、手をテーブルにおいてから、
「そうだな。後輩に教えられるとは俺もまだまだアマちゃんだな」
諦めの溜息が出た後、腕を動かそうとした時、魔鈴が西条の腕を掴んで、自分の方へひきよせたから、
「そうだよ。で、どうだい。今日はボクを攫(さら)って行かないか?」
聞こえる限界の音量だった。
1分後、ようやく西条のライターは火を燈せた。
少し経ってから、レストランでエプロン姿の西条がいたと言う。

-FIN-

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