ザ・グレート・展開予測ショー

真夜中の珈琲店


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(01/ 7/15)

更に深まる秋というには遅い季節か。
裏にはどうしようもないほど汚い川が有る。コンビニも近くに全く無いので暗い。
もう使われない引き込線がに侘しさを物語る。
東京でも開発に乗り遅れた所がある。
もうニ時を廻った。唯一光々と明かりが灯っているのは時間を間違えたとしか思えない珈琲店だけである。
「なんで今日に限って開けてるんだ、閉めるか」
アルバイトも雇っていないこの店では特に終業時間が決まっていない。
ラジオ放送が消えたことで鍵をかけようとしたとき、
「まだ、やってる、ワケ?」
「えぇどうぞ。御注文は何にします?」
「熱い珈琲を」
一人の客。日焼けの跡かと思える程肌の黒い女性だで美人である。
珈琲店であるので、インスタントを使うはずは無い。相応の機械は揃っている。
バリスタと言うにはくちはばったいので、マスターとするか。
マスターはいかほどの年齢だろうか。顔付きはまだ若そうだが、白髪混じりで老けて見える。
5分程、用意に時間を有した。
「どうぞ」
かちゃと磁気カップで珈琲を出すがこれとて某番組のお宝鑑定に出すほどの品ではない。
「ん」
腐食部が少しだけある砂糖入れからスプーン一匙すくっていれる。
3回右回りに掻き回す。
「あれじゃあ底に砂糖が残るな」
聞こえない小声でマスターが指摘する。
女は一口飲む。
「あら、美味しい」
入れ方は本格的であるのだろうか。
女は店を見渡す。
以前は栄えていたこの町であったのか、壁には本物の絵が打ちつけてある。
ほんの少し埃が額縁に溜まっているが。
植物も時期が時期だけに申し訳無い程度に咲いているだけだ。
鑑賞にようやく耐えるといった咲き方か。
派手な電飾をともすも、蛍光灯が切れかかっているジュークボックスがある。
人間には嫌な音をたてながら。
それにどう使うか予想もつかない器具がある。
女の目線に気づいたマスターが、
「これは明治時代に作られた珈琲をドリップする機械ですよ。今は展示物ですがね」
この機械だけは他の飾りと違って妙に鈍い光沢を発している。
「もう何年もつかちゃいませんがね」
「そぅ」
沈黙が店を支配する。
気まずいな、と思ったマスターが、
「何か音楽でもかけましょうか?ジュークボックスありますよ?」
「ん」
唇に磁気をつけた後女は言った。肯定にも否定にも取れる返事だ。
再度聞き取れない声で、
「しかし、いったいどう言う訳でこの店に?」
誰かを待つ様子でもない。時計をまったく見ないからだ。
この女が帰ったら店を閉めるか。もう誰も来ないだろうとマスターは思った。
しかし、
扉のベルがなる。
「いらっしゃい。何にします?」
終電に乗り遅れたのか、男が二人入ってくる。幸い酔ってはいないようだ。
「そうだな。サンドイッチを」
「俺はホットドックを」
注文すると男達は今日行なわれた野球の試合について話をしている。
と、言っても店の雰囲気がその話をちいさな声にさせる。
この男達はどういった訳でこの店にきたのか、マスターとしては興味を持つが、聞くのも野暮だと自重する。
サンドイッチを頼んだ男と女は目があった。
「こりゃどうも」
といって手を振る。女は僅かに会釈する程度だ。
手を振った男はとなりの奴に耳打して、
「あの人かな?」
「いや違うだろ、そうなら声をかけるさ」
この会話で男達はある女を待っているのだと推測出来る。
「静か過ぎるな。なぁ亭主、ラジオでもつけないか?」
「あっちにまだ稼動するジュークボックスがあるよ。一曲10円」
そうか、と言って男が選んだ曲は賑やかなジャズである。
言えば米国の生んだ20世紀を代表するジャズ作曲家ガーシュインの曲で、
タイトルは『ガール・クレイジー』、長調移行の曲である。
場違いだな、とマスターは思ったのか、女に一言断わりを入れる。
「すいませんな。騒々しくなって」
「ん」
やる気の無い返事だ。
だが、女はこの曲に影響をうけたのか、男達に声をかけようとしたその時、ドアが開いた。
「ごめんなさい。おそくなちゃって」
女がやってくる。年齢に不釣合いなコートを着ている、しかも中に来ているのは下着にも見える物だ。
「まってましたよ、ようやくの御到着だね」
その女は男二人に交互にキスをする。
「・・そっちの女か」
マスターは理解をする。こんな町にもその手の商売があるのだ。
男達は勘定を済ませてから、いそいそと出ていく。
「いやぁ、なかなか美味かったよ」
見え透いた御世辞だ。
マスターはジュークボックスに向かって途中であったが曲を止める。
「ま、愛の形は色々ですからね。一曲だけ奢ります。何にします?」
「・・なんでもいいわ。この場にあった静かな曲を」
その答えを聞いて、F・シナトラのバラード特集のレコードに変えた。
「これでいいですかな、そう珈琲のお替りどうします?」
「もらうわ」
それを聞くと、珈琲豆を展示してある年代物のドリップ機に入れる。
「それ、使えるワケ?」
「サービスしますよ。俺の親父が10年前に使ってましたから」
「ありがと、でもどうして?」
「さぁ、なんででしょう。振られた女の存在がそうしようと思ったからかな?」
怒るかな?と思ったが、
「振られたんじゃないワケ。ライバルに先越されたの。結婚してね。近くの教会で。それで寂しくなって町を歩いていたら」
ギーギーと珈琲メーカーは機械音をならすも、どうやら無事に工程へ入ったようだ。珈琲の匂いがしてくる。
「そうでしたか、私なら貴方のような人を口説きたくなりますがね」
くすっ、と女は笑った。
「ありがと。ワタシの名前はエミ、小笠原エミ。でも、失礼だけどワタシのタイプじゃないワケ」
「そりゃ、どうも」
二杯の珈琲にはもう少し時間がかかりそうだが、
太陽が昇るにはまだまだ時間がある。

-FIN-

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