ザ・グレート・展開予測ショー

オキヌちゃんの事件簿、密室編


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(01/ 7/ 5)

大雨の降った次の日は蒸し暑い。
徐霊の依頼が入った。
現場は今流行りのウイークリーマンションの走りともいえる都内の建物で、
「なんか、アメリカの安ホテルっぽい作りっすよねぇ、美神さん」
横島がそう述べるのも無理はなかった。
その一室で自殺が起こったという。壁にブランド品の葉巻が掲げてある。
「この部屋に出る幽霊の退治ね。こんなのちょろいわね」
GSトップクラスの美神令子でなくてもこのような意見を述べるであろう簡単な仕事だ。
「そうですか。しかしこのままでは仕事になりません。社長が自殺したなんて・・」
睡眠薬を多量に服用した自殺だと言う。
涙ながらに語る小柄な男は専務のS氏である。背丈はオキヌちゃんが勝つ程だ。
第1発見者で、建物の管理人が持つマスターキーを使い中に入ったという事だ。
「あ、いや会社と言っても社長と私の二人だけで行なっていた煙草輸入業者ですが」
「ま、お金を払っていただければ文句はないわ。オキヌちゃん、御願い」
はーい、とネクロマンサーの笛で対処する。問題無く霊は消滅するが、
「・・俺は・・自殺じゃない・・殺され・・たんだぁ・・・専務に・・専務に!!」
霊にしてはハッキリとした口調であった。
更に社長の霊は告白を続けた。かなりショッキングで犯罪に関する物だった。
『壁・・に・・掛かっている煙草は・・・危険・・・な・・品・・だ!それは・・』
(聞き違い?まさか)
恐くなったオキヌちゃんはボスの美神に事を話そうとするが、
「現金払い!いやー、この瞬間が楽しいのよね!」
駄目だ、こりゃ。と思ったに違いない。
「有難う御座います。これから警察の方がいらっしゃるので、どうぞ」
「えぇ、あちらとはあまり仲が良い訳でないので」
そそくさ、と帰る美神であった。
一つしかない階段を下る三人だ。一番近い踊場には灰皿が置いてある。そこの絨毯が、
「あれ?絨毯が濡れてる」
「おそらく、灰皿の水替えの時にこぼしたんじゃないの?」
横島もとっとと帰りたいといった心持であろう。
出口で警察の人と出くわした。

1時間程、待ったか。警察の人がロビーに現れた。
「警部さんですか?あの、少しお話が」
「なんですか?お嬢さん」
家出少女かと思ったその警部補、C警部補と言う。
「私、オキヌって言います。実はS専務からたのまれて徐霊を行なったのですが」
「なんですと?徐霊を・・そんなことSは言ってなかったな。それで何か」
「あの、こんな事警部さんが信じて貰えるか解りませんが、社長さんが・・・」
霊の告白を信じるかな、と思いつつ聞いた事を話すと、
「そうか、しかしS専務にはアリバイがあるぞ」
それでもC警部補は思うところがあるのか、S専務のアリバイを話した。
「社長が亡くなった時刻は昨日の11時過ぎから深夜。隣のビルにあるバーにいたんだ」
監視カメラにも不審な人物は映っていない。
問題の専務がいた隣ビルだが、東京の入り組んだ土地、隣接しているとは言え、
玄関が左右対象に位置し、ワンブロックの行き来にも坂道も有り10分はかかる代物だ。
「これは信憑性のあるアリバイだからね」
その時間帯にはS専務がずっとバーにいたという。
「それに鍵の事だが、この会社の鍵はマスターキーを除けば一つしかないというんだ」
そのマスターキーはフロントに架けてある。管理人らしき老人もいる。
「管理人さん。昨日このマスターキーを弄った人いるかい?」
「んにゃ。ここんとこ、だーれも触ってないだよ」
間延びした返事だ。
時間と鍵、この2点を解決しなければ、どうにもならないとC警部補は言う。
難しい顔をしたオキヌちゃん。
其処へ掃除を終えたオバちゃんがやってきた。
「まったく!雨の日なんだから誰か窓をしめてほしいモンさ!」
独り言が警部補の耳に入った。
「あの、失礼ですが、警部補のCと言います」
警察手帳を見せたから、
「窓を閉めて欲しいとおっしゃったのは、あの踊場の事ですか?」
「そうさ。昨日の六時には私きちんと窓しめておいたのに・・」
ぶつくさ文句を言い始める。適当にあしらった警部が、
「もしかして、あの階も掃除しましたか?」
「あぁ、警察が出ていたら掃除していい、って事だったからね、ほらこの塵取の中がそうさ」
「ちょっと拝見」
大した物はなかったが、オキヌちゃんの目にとまったのが、
「古びたネジ、最近工事しました?」
「いんにゃ、してねぇ〜だよ」
管理人が答えるが、オキヌちゃんはずっとマスターキーを眺めていた。
たった一つ、妙に光る鍵があったのだ。
「マスターキー拝見できます?」
「ど〜ぞ」
しげしげと眺め、警部補も眺めたが、特に変った事はないが、光に当てると、一個だけ妙に輝く鍵があった。

「解った!鍵のトリックが」
驚いたのは警部補Cである。
「なんだって、それはどういう事だ?それにどうして」
「私は被害者から犯人を聞いていますから。だからアリバイも崩せると思います!」
その真摯な態度に共鳴したC警部補は、
「解ったよ、じゃあS専務がいたバーの建物にいこうか」
「いいんですか?」
「犯人逮捕に御協力を、Ms,ジェシカ」
あら、そんなおばさんじゃないわよ、花の女子高生よ、オキヌちゃんは反論する。
アメリカの有名な探偵ドラマ、ジェシカおばさんの事件簿よりの洒落に答えたオキヌちゃんである。
C警部補の車は今時珍しいスバルである、オキヌちゃんを乗せてバーのある建物に向かう。
「といっても僕もめぼしはついている。あの踊場の窓から隣のビルは行き来できる距離だからね」
たしかに、車でも時間がかかる。
昨日、S専務のいたバーには運良くバーテンがいた。
「ずーっと、ここにいたのかね?」
「いや、電話が鳴ってると、15分ぐらい時間をあけたがね」
普通に考えれば犯行は不可能だが、
「ショート・カットすればいいのよ!あの踊場にちかい階の窓はどこかしら?」
エレベーターであの踊場と隣接しているであろう階に向かう。
「トイレ、か。。この時間帯にこの階のトイレなんて使わないだろうし」
先ずは女子トイレにオキヌちゃんが向かうが、こっちはちがう。しかし、
「オキヌちゃん、こっち!おあつらえの窓があるよ!」
誰もいない事を確認して、オキヌちゃんに男子トイレへと呼ぶ。
その窓はガタイの良いC警部補には無理だが、
「わ、私になら簡単に通りぬけ出来ます!でも・・」
行くはよいよい、と言う奴で帰るのは至難の技だが、
「そうだ!ここにあるほうきを使えば、
と、雑務用具入れのような扉をあける。
ガチャと、あけたあと、文句と悲鳴が起きた。
「こら、用足し中だ・・・って!女ぁ!・・オキヌちゃん!」
「よ、横島さん!すいませんー」
あやまる事しきりのC警部である。しかし、
「こちらが用具いれ。ほらこの二本のほうき柄が濡れているね。これをこうして、」
二本のほうきを滑り台の要領にして、固定すれば、行き来は可能だ。
「さて、状況証拠は出来た。しかしなぁ、しょうがない、自供させるか」
「そんな事、出来ますか?」
「あぁ、本当にその煙草が『そういう品』ならね」
「はい、社長さんは言ってました。『壁に掛かっているのは危ない煙草』だって」

二人は急いで、専務のいる部屋へ向かう。
「実は専務、あなたのアリバイですが・・」
と、先ずは抜け道のトリックを喋ると、
「はぁ、そうですか。いや警部さん、それてもそちらのお嬢さんかな?なかなか面白い考えですよ。小説家でも目指したら?」
皮肉たっぷりに言ってから、
「しかし、どうして私はこの部屋に入れたというのです?鍵は一つしかないのですよ」
そういって、御帰り願おうかと、煙草を口にする。
「そうですな。しかし、これをご覧ください」
C警部補はそういってドアノブの鍵部を見せる。
「ほら、これだけ、他の金属部は酸化が目立つのに、妙に綺麗でしょ?」
「それで?」
葉巻に火をつけようとする手が微かに震えている。
「そう、誰かが取り換えたのでしょうな。状況証拠に、隣部屋の鍵はもう倒産したZ社の物ですが」
これは見ての通り、E社の物だ。
「S専務。貴方は社長が睡眠薬を使っているのを知っていた。それを呑ませたのでしょ?」
貴方は先ず、マスターキーを頃合を見てE社に物にしておいた。
「そして昨日、Z社の鍵を使って中に入った。社長には忘れ物とでも言ったのでしょう」
ようやく、煙草に火がついた。
「それから居住空間としても使っていた社長に睡眠薬入りの水を渡して睡眠薬を渡して始末。その後、鍵のすえ付け」
その作業も手馴れれば15分で済む。
「し、しかし状況証拠じゃないか!だいいち何で私が犯罪を!」
声を荒げるS専務に、
「わ、私は霊の声を聞きました。貴方が、麻薬密売をやっていると!」
「考えた物ですね。葉巻の中にコカ葉ですか」
壁にかけてある葉巻がそうなんですね?と問い詰めると、
「そ、そんな事はない!」
「そうですか。じゃあ大丈夫ですね。貴方の吸っているその葉巻は、さっき私が悪戯しましてね」
壁かけの葉巻が一本消えている。
「じ、じゃあ俺の吸ってるのは・・・!」
クラクラとしたあと、机にうっつぷしてしまった。
「・・・・・ウソなんだけどな。麻薬と思って吸ったから気絶したのかな?」
S氏の犯罪、殺人及び、麻薬取締法違反である。
有難う、Ms,ジェシカと再度ふざける警部補に対して、
「いいえ、こちらこそ。シャーロック・ホームズさん」
と、オキヌちゃん。
C警部補の答えは、僕は英国紳士と言うよりと言ってから、
何時洗濯したのか不明のレインコートが後部座席に有り、そいつをはおり、葉巻をくわえて、
「うちのカミさんがね、ってほうが似合うだろ?そうだ。これは個人的な御礼、あの用足し中だった坊やとどうぞ」
「はい、有難うございます!」
「雨上がりのデートか、若いっていいもんだ」
その切っ掛けが用足しを覗いてしまったと言う事を除けば、である。
「一体なんだったんだ?」
ロビーで待っていた横島に最高の自慢話が出来たオキヌちゃんである。
「ごめんね。あんな姿みちゃって」
と、言う事実を除けば。

-FIN-

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