ザ・グレート・展開予測ショー

ミットナイト・ダンディ(その19)


投稿者名:ツナさん
投稿日時:(01/ 7/ 4)

 口惜しそうに歯噛みをしながら、その場に立ちつくす幸村の姿を、唐巣たちはじっと眺めていた。
 別段何をしようというわけではない。ただそこにいて、彼の最後を見定めるのが彼に対してできる唯一の事であると、感じていたのである。
 
 そしてそこにかっぱたちも集まってきた。
 彼らもまた。幸村をじっと見つめている。
 何を言うわけでもない。ただそこにいて彼を見ているのだ。
 もはやこれ以上如何こうする理由は無い。彼の魂からは悪意はすでに感じられなかったし、かといって優しく成仏さしてあげるほど、彼のした事を許せるわけでもない。
 その重苦しい空気の中、唐巣がゆっくりとした口調で幸村に語りかけ始めた。
「幸村さん、あなたの武士としての心意気は天晴れなものかもしれませんが、あなたのやってきたことは決して許されることではないのです。
 人は人としていき、人として死に、人として天に帰ることが自然の成り行き、神が定めし宇宙の法則なのです。
 あなたは死してなお有ることを望み、あまたの罪の無い命を奪ってしまった」
ここまでいってクロスを構える唐巣。
「しかし神は、そんな穢れた魂おも、お救いくださる・・・善良なる神の御意志に従い、罪を悔い改めなさい」
語りかけている途中から、唐巣の構えるクロスが淡い輝きを放ち、幸村を照らしていた。
 唐巣の説法は、それだけで魂を浄化する力をもっているらしい。
「幸村さん、あなたの勇名は今もなお語り継がれてるのよ。そんなあなたがこんな場でじたばたしてるのみたら、全国のあなたのファンががっくりするわよ?」
美神が横から口添えをする。横島がこくりと頷き、おキヌちゃんがそうですよ、と続けた。
 『・・・・それがし、長い長い夢を見ていたのかもしれぬ。それはそれがしにとっても、周りの者にとっても、よき夢ではなかった。心では分かっていても、根幹にある忠の心が、そしてそれより強大になってしまった怨念がそれがしを復讐へと駆り立てた・・・いや、もう言うまい。何を言っても言い訳にもならんこともまた、それがし今知り申した』
自嘲気味に回顧する幸村。その目は吹っ切れた目をしている。
『真田の名を汚したそれがしには不惜身命の六文銭ももはや持ちえぬ物、バテレンの神父唐巣殿、もはやそれがし魂があることすら恥じ、すまぬがもう少しだけ手をお貸し願えぬか』
つまるところ、その存在自体を消してくれ、と頼んでいるのである。
 と、その時、天に帰っていったはずの魂の一つが、ゆらりゆらりと戻ってきて、その姿をあらわにした。
 それを見て水野が思わず嘆息する。
「・・・ともえ?」
それは幸村の手によって殺された水野明日美の同僚、山口ともえの魂であった。
『久しぶりね!明日美!元気してた?』
彼女は水野の姿を見て取ると、パタパタと手を振って、はじけんばかりの笑顔を見せる。
「なんか異様に明るい人ですね」
「生きている時にお会いしたかった」
「・・・横島さん」
「この馬鹿!黙ってなさい」
「いでぃ!」
おキヌちゃんにお尻をつねられ、美神に向こう脛をけられた横島が七転八倒している。
『・・・・まぁいいわ。さてとりあえず』
ともえの魂は横島たちのやり取りを見て思わず開口していたが、気を取り直して幸村に向き直ると、いきなりその顔面をしたたかに殴りつける。
『ぐほぁ』
幽霊がなぜ幽霊を殴れるのか、その辺はさておき、ともえの一撃はかなり強烈だったらしく幸村は反射的に頬を抑える。
『とりあえず気は晴れたわ。じゃ、この人連れて行くから』
「え?」
『死んでみてはじめて分かったんだけどね、わたしの前世ってどーもこの人の部下だったらしいのよ。しょーが無いから面倒みてあげるのよ。さ、きりきり行くわよ』
『う、才蔵、分かったよ、逝くから耳掴むのやめろ』 
『向こう逝ったら今度こそ責任取らすからね!・・・・じゃ、そういうことで。それと明日美』
「なに?」
『死んだ人たちのことはあまり気にしなくっていいよ。運命って奴だったんだから』
「・・・そういわれても、ねぇ」
『いいのいいの、やな事はさっさと忘れなさいって。じゃないとせっかく生きてるのにつまんないわよ?』
「・・・うん」
『じゃ今度こそさよなら、皆さん、うちのだんな(予定)がお世話になりました。死んだらまたあいましょーねー』
言うだけ言って幸村といっしょに天へと帰っていく。
その姿を呆然と眺める、唐巣一行の姿。あまりに明るく逝かれてしまったため、何も言いようが無い。
「で、結局のところ・・・・なんだったんだろーか」
「わたしに聞かないでほしいわけ」
かろうじて漏らした西条の言葉を、エミがため息混じりにあしらう。
 その時は誰も気づかなかったが・・・いつの間にか水野明日美の顔から、あの腫瘍が消えていた。
 
 おしまい・・・・いいのかこんな落ちで・・・。 
 

 

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