ザ・グレート・展開予測ショー

ワショクヤの日々(六)前編


投稿者名:AS
投稿日時:(01/ 7/ 1)

 突然の豪雨の後に、空には七色のパイが姿を見せていた。
「お腹がすいてるのかしら・・・」
 窓から虹を見てそんな感想を抱いた女性は、沈鬱な表情で机の上の新品らしきペンを手にした。今まで手にしていたペンはやむなく折れてしまったのでくずかごに放ろうとする。
「そういえば何だかイライラ・・・空腹のせいね、きっと」
 こういう時に限って姿を現す者がいる。その者の名は・・・もはや記すまでも無い。
「今帰ったっすよー、いやー突然降られて・・・」
 サクッ!
 そこまで言って、青年は額に半分になったペンを生やしてゆっくりと眠りについた。後には真っ赤な噴水が出現し、床を染めていく。その様子を特に関心も無く眺めてからー・・・彼女は記録書と向き合った。
『・・・かくして、その日は仕込みと掃除に片付け、そしていろいろと作戦を練るだけで終わった。その日の運命の選択については・・・いや、言うまい。もはや過ぎた事。その時は続行する事が正しいと思っ・・・てしまったのだから』
 新しいペンが、ガタガタ震え出す。

『ーーそして、最後の日が訪れたーー』



ーワショクヤの日々(終日)または習日ー



 恒例の開店前の休止時間。
 その時間を利用して(何故かとは言いたくもないが)今まで説明出来なかった事を伝える事にした。
「れい・・・りょく?」
「そ、霊力」
 彼女はいまいち理解出来ないらしく、キョトンとしている。
(もう少し・・・わかりやすく説明しなきゃ駄目みたいね)
 私は初歩的な事から説明を始める事にした。彼女・・・『坤鳴院小百合』とその後ろにひかえる二人の板前、『轟孫八』と『火車兵次』に向かって口を開く。彼女のフルネームについての記憶はとっくに封印済みだ。
「いい? 霊力は本来、個人差はあるけど誰でも持ってる力の事で、その能力に秀でた者が、GSやGメンみたくー、オカルトがらみの仕事につく事が出来る・・・ここまではわかった?」
 揃って首を縦に振る。それに対しこちらも頷いて、話を進める事にした。
「・・・で、ここからが本題。小百合さんや後ろの二人から見てタマモとあの旦那さんの腕はどう? 本職として意見を聞かせてくれない?」
 こちらの言葉に、今度は揃って眉をひそめた。
「・・・正直、タマモさんの腕には驚きました。けど・・・」
 小百合が言いにくそうにしていると、後ろの片割れ、兵次が後を続けた。
「親父さんが最後に作った時の手際からして、ほとんど差は無い・・・いや僅かに親父さんの方が・・・」
「実際の味は?」
 途端に口ごもる。
「・・・・・・」
「・・・・・・タマモさんの方が美味い。そう思いやす・・・」
 正直なその答えに満足すると、私はもう一つ別の質問をした。
「それは変よね? 材料は同じ超一級品。同じ厨房で作ってて、腕は親父さんの方が上。なのに何でタマモの方が美味しいのかしらね?」
 そこでようやく、こちらが言いたい事が伝わったらしく、一様に頷き、代表して小百合が口を開く。
「・・・霊力の差、ですか?」
 私はニッコリ微笑み、頷いた。
「タマモはね、無意識の内に霊力を注いでるの、タマモの方が美味しく感じるのは実際の味覚に併せて霊体の方まで刺激しているからなのよ」
 意気揚々と、そう言うこちらに対し・・・何故か沈痛な顔をする三人。
「? どうしたのよ」
 沈痛な表情のまま、同じ内容の言葉が三つの口から同時に放たれる。

『あの人のやってらっしゃる事って、徒労なのでしょうか?』
『親父さんの修行って、意味が無いって事なんじゃあ・・・』

 時間が止まる音が聞こえた・・・様な気がした。



 その頃・・・またも宣伝に駆り出された者が二人、朝の駅前をぶらついていた。

「さぁて・・・今度こそ美人のネエちゃんを・・・!」
『ダブルアトミックファイアー!』
 ドドグアァァッ!!! 
「せ、先生! 大丈夫・・・でござるな」
 程良く焦げたまま、勢いよく立ち上がる。
「な、何で今攻撃されなきゃいかんのじゃーーー!!!?」
 もっともな疑問に弟子が答える。
「美神さんが少し手を加えたんでござる・・・店の中じゃおキヌ殿やタマモに接近しても攻撃しない様に、それと今は先生が暴走しない様に・・・」
 意外な・・・そして強力な見張り。彼は嘆息して、文珠を二つ取り出した。
「あ、先生それ・・・」
 その文珠に刻まれた二つの文字は、弟子の少女にとっても見知ったものだった。その文字は・・・

『さぁて・・・とびっきりの山彦を響かせるか・・・』

 文珠が一際大きく輝きー・・・掌から消えた。


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