ザ・グレート・展開予測ショー

【リレー小説】『極楽大作戦・タダオの結婚前夜』(14)[へだたり](後編)


投稿者名:Iholi
投稿日時:(01/ 6/26)

『失礼します!』
 ハスキーな女性の声が、大広間に凛として響いた。
「……あっ。」
 談笑に興じていた横島の息が、思わず止まる。
 広間の入り口では、軍服姿の女性が模範的な敬礼をしたまま、立ち止まっている。癖の強いオレンジ色の頭髪は首のあたりで纏められ、クリムゾンレッドのベレー帽の中に押し込まれている。その下には針のように鋭い眼差しに、それを彩るペインティングのアイライン。
『お入りなさい、べスパ中尉。』
『はっ!』
 小竜姫に促されて、女性は大広間を小走りに横切る。先ずは小竜姫の下へ、続いて迦具夜姫の下へ向かうと二三言言葉を交わす。恐らくは警備関係の打ち合わせなのだろう。
 その間横島は何度も彼女の名前を呼ぼうと思っていたが、いざとなると舌の根が石になったように動かない。両の目だけはあたかも吸い寄せられるようにべスパの姿を追っていたが、向こうはこちらに顔を向ける素振りすら無く、これは完全に無視されている……と思った矢先だった。
『……横島。』
「はっ、はい!」
 彼女の方からの突然の指名に、横島は敬礼しながら上ずった声で返事をした。
 しかしべスパはにこりともせず、言葉を続けた。
『話がある。これから一寸いいか?』
「あ、ああ。構わないが。」
『……付いて来てくれ。』
 無表情にそれだけ言うと、べスパは入り口へと踵を返した。
 どこか剣呑な雰囲気を察した朧が、べスパの姿が部屋の外へ消えたのを確認してから、横島に何か声を掛けようとする。
『あ、あの、横島どの……』
「彼女も君たちと同期の友達さ。只、10年間全然顔を合わせていなかったから、お互いに戸惑っちゃってさ……。」
 嘘は言っていない筈なのに、何処か言い訳じみた物言いに成ってしまい、横島は更に笑顔を歪めた。
「……じゃ、行ってくるよ。今夜は満月だから、ある程度は月の霊気を補給出来るとは思うけど、それ迄はゆっくり安静にしてるといい。」
『……うん。』
「……神無もしっかり寝とけよ。俺の実力をいち早く見抜いたお前が、もし明日の式に出てこないような事になったら、お前んとこの月警官を全員口説き落としちゃるからな。」
 やや固めのショートヘアをぽんぽんと優しく叩くと、横島は滑るように大広間から出て行った。

『……う、ううう、う……。』
『……神無。』
 朧は神無と向かい合わせに寝ている。したがって朧は、神無が全く眠ってなどいない事を始めから知っていた。
『……うう、うえっ……ひっく……。』
『でもああしないと、神無も気持ちの整理が着かないと思ったから……。』
 そして横島も、その事実に気付いていた。もうひとつの、大事な事実にも。
『……ぅえっく、ひっく……ひっく……』
『……ごめん。ごめんね、神無……。』
 朧は布団から転げ落ちないギリギリの端に身を寄せると、分泌物に塗(まみ)れた神無の頬を両手で優しく包む。その手の温もりが伝わるように、頬の温度を確かめるように、その上を神無の手がおずおずと添えられる。

 やがて安らかな寝息のハーモニーが聞こえてくるまで、月神族の女王は秋の月光のような優しい眼差しを二人に差し向けていた。

* * * * *

 旅館風の宿泊施設の裏手に廻ると、高さ20メートル程の切り立った崖に成っている。その崖の表面にジグザクに穿(うが)たれた石段をゆっくり降りていくと、そこには本修行場自慢の露天風呂と成っているのだ。
 何も言わずにスタスタと石段を降りていくべスパの後を慌てて追い掛けながら、横島は彼女とこの9年間について、あれこれ思いを巡らせていた……。

 べスパ――彼女は自分の想い人の妹。そして、姉を殺した女。
 べスパ――彼女は悪の親玉に最後まで付いていった女。そして、その親玉を殺すよう自分に頼んだ女。

 矛盾するファクターを一身に背負った彼女の気持ちが知りたかった。
 だからこの9年の間も、ワルキューレ(現在は魔軍大佐・極東支部担当)を通じて何度も彼女に面会を申し込んだのだが、やれ特殊任務だ、やれ入院中だと「拒絶」され続けた。
 ジーク(現在は魔軍少佐)に訊いた処によると(ワルキューレは教えてくれなかった)、実際彼女は自ら危険度の高い任務ばかりに志願し、死に掛けた事も何度かあったようだ。任官も尽く拒否し続けたが、「他の兵士に示しが付かない」と上官に説得され、気が付いたら中尉にまで上り詰めていた。これは気の長い神魔の軍隊の中では異例のスピード出世なのだ。
 一体べスパは何を想い、何を求めこの9年間を走り抜けていったのか、横島の興味は尽きない。しかしいざ目の前に本人がいると、却って尻込みしてしまっている自分自身が余りに滑稽で、横島は心の中で頭を掻いた。
 少しは、心の準備が出来たみたいだ。

『……なあ、横島。』
「……ん?」
 崖下まで降りるなり、べスパが呼び掛けた。
 ごく自然に返事が出来ている自分に、横島は驚いた。

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