ザ・グレート・展開予測ショー

深々とした森の中で


投稿者名:ツナさん
投稿日時:(01/ 6/25)

 秋の昼、夏名残の強い日差が、木々の合間を縫って二人を照らす。
 膝丈まで伸びた草草の匂いが鼻腔をくすぐる。
「懐かしいわねぇ」
 女は、小脇に抱えた少し古びたハンドバックを抱えなおしながら、獣道のも足らないような草が踏み分けられただけの道なき道を歩いていく。
 その先に歩く青年が、草を踏み分けながら、ふと振りかえり、
「そうだね」
と昔を懐かしがるように答えた。
 時は人の世にして世紀末と呼ばれた時代。
 住み慣れた家を麓の人々によって追われんとした時、そこで出会った一人の少年によって助けられ、彼女ら親子は無事一難をさけ、巷へと逃れることが出来た。
 すぐに森に戻っても良かったんだが、復讐を恐れている節のある人間を過分にを恐れさせまいという配慮から、一時親類の住処へと居住いを移していた。
「あそこの暮らしもなかなかだったけど、やっぱりこの森のほうが落ち着くよ」
「そう?」
「まぁ、ね。それより母さん、兄ちゃんは約束どおり待っていてくれるかな?」 
「きっと待っていてくれるわよ」
青年は引越しの前に文を送っていた。手紙などという上等な物ではないが、きっと意図を察してくれるであろう、と青年は思っていた。 
 文にはたった一言。「帰ってきたよ、にいちゃん」それとあの当時作ってもらった、散々遊んでもうぼろぼろになってしまった竹蜻蛉。
青年はたった一言の口約束を、固く信じていた。

 見渡す限りの森。
 ふもとの村はとうに廃れ、今この界隈に住むのは極わずかの健康な老人と、変り者の芸術家だけである。
 森は人の手から離れ、十数年前のあの頃親子二人のすごした森の姿を取り戻しつつある。小鳥たちの囁きはまるでしばらく振りに帰ってきた二人を歓迎しているかのようだった。
 
 そして数刻の時を経て。
 谷間を流れるし水のせせらぎが、耳をくすぐりはじめる。
 この先には、なつかしの我が家が待っている・・・・。

 歩いているとそこはいきなり開けた土地になる。
 長年の手入れとちょっとした「細工」のおかげで、庭であったそこは、月日を隔ててもいまだに雑草が生えることもなく未だに庭であった。
「帰ってきたね」
青年はあの頃と寸分変わらぬ姿の母親の手をとる。
「変ってないね。全然・・・」 
 地区200年は経つであろう昔ながらの日本家屋もまた、あの時とその姿を変えていない。
薄汚れるでもなく、小奇麗になるでもなく、ただそこに鎮座してるだけだ。
 ただそこにはあきらかに人の手を加えた形跡がある。
 土壁は塗りなおされ、いたんだ木戸は修繕され、藁葺き屋根は、より持ちのいい竹ぶき屋根へと姿を変えていた。
「・・・・」
彼女はただそこにある人の気配を追う。マーキングしてあったのだから誰かがかってに住み着いたとは思えない。
ただその気配はずっと前にも感じたことのある、懐かしい気配。 

「・・・よう!」
そして竹ぶき屋根の向こうからひょっこり顔を出したのは、いまや青年を通り越して円熟味を増した男になった、あの少年の姿だった。
「・・・にーちゃ???」 
さすがに中年が目の前の男を兄ちゃんと呼ぶのは気が引ける。
「に〜ちゃんでかまはないさ。しかし若いなおまえらは」
「猫又ですから」
母親は微笑を浮かべた。
 風に誘われふと空を見上げれば秋の空に一筋の飛行機雲が舞う。
 その雲はまるで三人の縁を未来まで繋いでいるようであった。

 

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