ザ・グレート・展開予測ショー

ワショクヤの日々(五)前編その二


投稿者名:AS
投稿日時:(01/ 6/21)




ーワショクヤの日々(悪因)前編その二ー



『権兵衛さん!』
 朝から聞きたくない名が大音量で耳に入った。
 今は開店前の休止時間。 
 昨日・・・忌まわしい名を記憶してしまった事で脳に多大な量の負荷をかけられ意識を失ってから、半日が過ぎていた。
 ・・・らしい。
 ともかく目を覚ました頃には既に開店前の準備に取り掛かる時間。 気を失った私の身を案じて(殴った事は、一応、謝った)店に泊まりこんだみんなは無理しなくていいと言ったが、忘れたい事もあったので、その気遣いは気持ちだけ受け取る事にした。
 そうして、今に至るー・・・のだが・・・
『全く・・・権兵衛お嬢さん・・・水くさいですよ!』
『確かに親父さんの行き過ぎにはうんざりしたけど、だからって権兵衛さんの苦境に黙ってられる程俺ら・・・!?』
 とりあえず・・・どこの誰かは知らないが店に入るや否や、呪わしい名を連発してくる男二人。 精神的に痛い。 そこで私は手近なモノを投げつける事にした。
 ドガァ!
 もんどりうって、倒れる彼等。
「ん〜! 今のは会心の一球だったわね・・・」
「今の音は・・・?」
 後ろでそんな声がした。
「・・・きゃああ! 孫八さん!? 兵次さんも!?」
 悲鳴。 続いてパタリと誰かが倒れた様だ。 ため息一つついて取りやすい場所に置かれる様になった二つの札の内、一つを手にした。

 その時。

 ガララ!
「あー・・・腹へっ・・・」
 戸を開いて客らしき男が入って来た。 そこで店の中の光景に、目を剥いて固まる。
「・・・・・・」
 男はどうしていいやら・・・リアクションに困っている様だ。
「・・・・・・」
 私は男から目を離して、周囲を確かめてみた。
 とりあえず・・・大の男が二人揃って倒れている。 伏せた方は・・・げ、顔の辺りからドクドクと紅い液体が・・・もう片方は仰向けの状態で、白い眼をしている。 額から口元まで紅が縦に一筋。 近くには紅に染まった椅子が転がっていたりして、客らしき男の顔が対象的に蒼く染まる。
 次に私は後ろに目を向けた。 予想通りに彼女がいる。 意識は無い様だが。 困ったものだ。
(どうしたもんかしらねー・・・うん、まずは・・・)
 考えた末ー・・・私は客の方へと振り向いた。
「ひっー!」
 何やら客が後ずさる。
(・・・・・・?)
 ともかく・・・客ならば最初に言わねばならぬ言葉を私は口にした。 極上の笑顔と共に。

『いらっしゃいませー(ニッコリ)』

『人殺しぃぃぃ!!! 誰かぁぁぁぁ!!!!!』

 客は背を向けると、一目散に逃げ出した。

「・・・・・・」

 しばらく呆然としていると、後ろからポンと、肩に手を置かれた。

『美神さん・・・これで名実共に前科者っすねー・・・』
『差し入れ持っていくでござるー』
『最高のあぶらあげ、いる?』

 ブチィ!

『名も実も無い! 見てたんならどうにかせんかー!!!』

 丁稚の背に隠れていた為、犬科の二人は逃がしたが・・・

『あーもー! 私は降りる! 後はあんたやりなさい! 特別に代理として認めてあげるから!』
『美、美神さ・・・苦し・・・息が・・・止・・・ま・・・』

 持っていた札を投げ捨て、丁稚の首をがくがく揺さぶっていると・・・後ろからため息が一つ、耳に届いた。

『結局・・・今日もまたこうなるんですね・・・はぁ・・・』

 そう言って、疲れた様に彼女は拾った札を持って、戸の方へと向かった。 札がかけられ、戸が閉められる。

『ただいまの時間、都合によりお休みさせていただきます』

 皆の口から揃ってため息と、うなされてる様な声が洩れた。


『美神さん・・・私たち何やってるんでしょうね・・・』
『おキヌちゃん・・・お願いだから言わないで・・・』



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