ザ・グレート・展開予測ショー

囚われの小竜姫@


投稿者名:NT【C】
投稿日時:(01/ 6/14)

夕刻―――
「・・・・ん?あれが臥雷兄(あん)ちゃんの言ってた『妙神山』か?」
夕焼け空をバックに背中の巨大な黄金色の翼を自慢げに羽ばたかせながら男は呟いた。
男の遥か前方には、人と神との接点と呼ばれる山、妙神山が雲の間からうっすらとその姿を浮かび上がらせていた。
「竜王の子供か・・・・・・・悪く思うな・・・」
男は、ぱんぱん、と軽く頬を叩くと両翼を力強く羽ばたかせて高速で飛び去っていった。

妙神山門前――――
「のう、左の。竜神王陛下の風邪は大丈夫かのう?」
「う〜む・・・。なんでも『いんふるえんざ』とか言う流行性感冒らしいぞ。」
「聞いたことの無い病気だな。心配じゃのう・・・・・それにしてもお主、流行性感冒なんて言葉どこで覚えたんじゃ?」
「むっ?・・・・・・はて?どこじゃったかな・・・・・・?」
鬼門の二人が心配している当人の竜神王は現在風邪を拗らせており、インフルエンザ(笑)の可能性があるため、伝染を恐れ
治るまでの間、天龍童子を妙神山へ預けることにしたのであった。
その当人は現在小竜姫と入浴中である。

妙神山大浴場―――
ごしごし・・・・
「殿下!髪を洗う間はじっとしてて下さいっ!!」
ジタバタジタバタ!!
「イヤじゃイヤじゃっ!余はもう大人じゃっ!自分の髪ぐらい一人で洗えるわいっ!!」
うっすらと立ち昇る湯気の奥で少年と少女の言い争う声が引っ切無しに繰り返されている。
その現場では天龍童子がいつものように自分の髪を無理やり?洗おうとする小竜姫から必死で逃げ惑っていた。
「待ちなさいっ!」
ギュウ!
小竜姫の腕がぐいと童子の体を胸元に引き寄せる。
「ほーら♪捕まえましたよ!」
「ぬわっ!?こ、このっ!」
捕まった後も童子は全身を使って最後の抵抗を試みている。
「こ、こらっ!暴れないで・・・ひっ!?や、やめっ、そこくすぐった・・・あはははっ・・!!」
「このっ!離さんかいっ!!」
ジタバタジタバタ!!
「あ、あはははっ!!・・・い・・・い・・・・・・いい加減になさいっ!!」
ガンッ!!×2
辺りの湯気を一気に吹き飛ばすような快音が浴場一帯に響き渡った。

シャァァァ・・・・
「ふう・・・・・どうにか洗い終わったわね・・・・・」
シャワーを止めながら小竜姫は疲れ果てた顔で呟いた。
その横では頭に二つのたんこぶを拵えた童子が滑稽なタンゴを踊っていた。
「うう・・・・・小竜姫が二人おる〜・・・・・・」
「・・・・・まったく、もう」
そんなフラフラ状態の童子を半ば呆れ気味に見つめる小竜姫。
だが、そんな小竜姫の眼差しには母が子を愛しむような暖かさが確かに宿っていた。
「殿下はまだ小さいのですから。竜神王陛下が風邪の時ぐらい私に世話をさせて下さいな」
ピクッ
「余は小さくないぞっ!」
ふらついていた童子がキッと怒った顔で小竜姫を睨みつけた。
「見たじゃろう?、この前のメドーサとの戦いで余が大人へ覚醒したところをっ!」
自慢げに両手でちょこんと生えた頭の角をさすりながらポーズを決める童子。
くす・・・
その童子の仕草に小竜姫が微笑する。
「ん?なにが可笑しいのじゃ、小竜姫?」
「いえ・・・・・・残念だなーと思いまして。」
「・・・何がじゃ?」
訳が分からないといった顔で小首を傾げる童子。
「実は・・・明日は修行をお休みにして気分転換に殿下と下界の遊園地にでも行ってみようかと思っていたのですが・・・・・」
「な、なんじゃとっ!?」
遊園地と聞いて童子の目つきが険しいものからみるみる期待のそれへと変わってゆく。
「殿下も大分お強くなられましたし、私が側で見張ってれば問題無いだろうと・・・・」
「ま、まことかっ!!」
「でも・・・・殿下が大人でしたら、そんな子供染みた所なんて行く必要ありませんよね〜?」
小竜姫が悪戯っぽい表情で童子に微笑みかける。
「うっ・・・・・(汗)」
「明日はどんなお稽古がいいですか♪筋トレ1日フルセットがいいですか♪それとも妙神山を100往復・・・・」
「ま、待ていっ!・・・・・そうじゃ!余はまだ子供じゃった!な?まだ・・子供・・・・(ちらり)」
じー・・・・
「ぅぐ・・・・・・」
無言で圧力をかけてくる小竜姫の笑顔に顔を引きつらせて黙り込む天龍童子。
今更後悔しても仕方無いことは本人も百も承知である。
だが、少年のデジャブーランドへの憧れ、そして執念は半端ではない。
童子は、ふと小竜姫の脇に置いてある小さな身体洗浄料に気がついた。
(これじゃ!)
「・・・・・のう、小竜姫?」
「・・・・・・・」
小竜姫は答えない。相変わらず冷ややかな笑顔をこちらに向けてくる。
だが、童子は構わず小竜姫の体に巻かれたバスタオルを見つめながら言葉を続けた。
「・・・・・・・最近、お主痩せたのではないか?」
ピクッ
「えっ!?・・・・・そ、その手には乗りませんよっ!お世辞だって分かってるんですからっ!!」
プイと視線をそらす小竜姫だったが、その表情からは明かに動揺の色が窺がえた。
(にや)
童子の口元が僅かに綻んだ。
どうやら作戦は成功のようだ。
そう、小竜姫はお世辞にかなり弱い。
童子の瞳に閃光が宿る。
「何を言うか。お主は竜族の中でも体型は良いし、肌はしっとりしておるし。ほれ、腕なんてまるで白魚のようじゃぞ?」
童子は体中がむず痒くなってくるのに必死で我慢しながら考え付く限りの世辞で小竜姫をひたすらに褒めちぎった。
「ほ・・・本当にっ!?やっぱり、この前下界で買ってきた『ダヴ』のモイスチャーミルクが効いたのかしら!」
童子が顔を上げると、既に小竜姫はうっとりとした表情で目の前の自分の細腕に酔いしれていた。
「(ぼそ)いつもと変わらんに決まっておろう・・・・・・・」
「・・・・・え?何か言いました?」
「いやいやいや!な、何でも無いぞ!」
慌てて首をブンブン横に振りながら否定を誇張する童子。
「??・・・・・まあいっか♪」
小竜姫は特に気にするでもなく、視線を自分自身に戻し、満足そうに微笑んでいる。
(よし、もう一息じゃ!)
童子は再び期待の眼差しを小竜姫に向けて甘えた声で呟いた。
「小竜姫・・・・・明日、デジャブーランドへ行きたいのう・・・・・・・」
「・・・・・ダヴが私を変えたのね・・・・・・♪」
「・・・・・・・。これっ!聞いておるのかっ!?」
既に自分の世界に突入した小竜姫に、つい呆れ顔になる童子だったが、直に本来の目的を思い出し小竜姫の腕を強引に引っ張った。
「・・・・・・・・え?あ・・・・・そうですね♪ダヴを買うついでに寄ってみましょうか♪」
「ほ・・・本当かっ!?」
「ええ♪」
何となく引っかかる物言いだったが、今の童子には十分過ぎる返答であった。
ぱああ・・・
「デジャブーランドじゃっ!また行けるのじゃっ!!」
ばたばたばた・・・
みるみる顔を綻ばせながら童子は飛び上がるように湯船へ駆け出していった。
「あ!殿下、まだ体が・・・!・・・・・ふふ、やっぱり子供よね」
小竜姫は伸ばしかけた手を引っ込めながら喜ぶ童子の顔を満足げに眺めていた。
「明日も晴れるかしら・・・・・」
小竜姫がふと見上げた窓の外では夕日が赤々と・・・・まるで血のように赤々と燃えていた。
そう、これから起きるであろう悲劇を今の二人はもちろん知る由もない・・・。

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