ザ・グレート・展開予測ショー

ワショクヤの日々(四)後始末編<後半>


投稿者名:AS
投稿日時:(01/ 6/12)

 私は今、更衣室の壁に取り付けられた鏡の前にいる。
「・・・・・・」
 先ほど自分で乱してしまった髪を整えながら、私は思い出していた。

『もっとも・・・時折本物の砕いたガラスを混ぜちゃう時もありますが・・・』

 あんまりといえばあんまりな、あの聞き捨てならないセリフ。
(・・・これで決定的ねー・・・)
 そう・・・決定的だ。
 最初に彼女に抱いた第一印象は幻想だという事が。
 しかし、だからといって・・・
(憎い・・・! このお金への情熱が・・・!)
 結局自分から仕事を続行するのを承諾してしまった事に変わりは無く、再び着物の着付けをしてもらった今の自分の姿に・・・

(・・・ハァー)

 自然とため息をついた。



ーワショクヤの日々(災日)後始末編<後半>ー



 更衣室を出ると『やつ』が待っていた。
「・・・お待たせ・・・」
「赤い着物、良く似合ってますよ」
 思いっきり険しさを込めたつもりだったのだが・・・彼女はにっこりとしたままだ。
 じっと・・・彼女を見る。
 おキヌちゃんそっくりの、邪気の無い笑顔・・・しかしこいつのおとぼけはおキヌちゃんと違い、笑って済まされるものでは無い。 悪気が無いところはおキヌちゃんと一緒なのが、なお恐ろしい。 
 あの後聞いた話では、わずかながら口中を切った客のほとんどが、彼女の笑顔の前には何も言えず帰っていったという事が分かった。 小量のガラスの為、大怪我までには至ってないからという事もあるだろうが・・・頭が痛い。
『最後は美味しかった・・・って言ってくれるんです』
(・・・あれ?)
 何かがひっかかる。 確か私の周囲にもう一人こんな・・・
「美神さん?」
 気づくと、彼女がきょとんとした眼差しでこちらを見ていた。
「あ・・・何?」
「お客さんが来たみたいですので、接客の方を・・・」
「ああ・・・はいはい」
 私はメニューを手に、客の方へと向かった。
 
 それからしばらくは何事も無く時が流れた。
 女性客ばかり狙って何の戦果も無く帰って来た丁稚をしばいたり、小百合が得意料理を作る時に目を光らせてたりはしたが、特に問題は起きなかった。

 そして一時間の休止時間に入った。

「・・・あら?」
 渋々掃除をしてると、柱の一つに書かれた文字に気がついた。
(?)
 近づいて、間近で見る。
「あら? 美神さん、それ・・・」
 いつの間にか、小百合が側にいた。 共に柱の文字を読む。
<ー我が人生、我が思想はこの店とキツネうどんにありー>
<ーゴンベエー>
 目がくらんだ。
「・・・家は世襲するんですよ」
「え?」
 良く聞いてなかった・・・世襲・・・?
「この店を継ぐ者は同時に、名前も継ぐんです」
「え、じゃあこのごんべえ・・・っていうのを?」
「はい!」
(・・・あの店主がごんべえ・・・)
「似合いすぎて、逆につまんないわね」
「え?」
 私は手を振った。 ごまかす様に微笑む。
「あ、いや、あの・・・亭主さんには似合うなって・・・」

 ふいに、沈黙が訪れた。

「ぷっ・・・くすくす、やだ美神さんたら・・・」
 ? 何故笑っているの? 
 その疑問をぶつける前に、彼女が口を開く。

『継いだのは、私ですよ』

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は!?)

 一瞬、彼女が何を言ったのか理解出来なかった。

『あ、まだ言ってませんでしたっけ、じゃあ・・・』
「ち、ちちちち! ちょっ・・・」
 やばい! 聞いてはいけない! そう思うが口が上手く動かない!?

『改めまして・・・坤鳴院小百合権兵衛です』

 ・・・そこからは覚えていない・・・

 次に気がついたのは、布団の上。 隣に何故か権兵衛さんが寝ている。 うなされてる様だ。
(・・・・・・)
 私はやっと気づいた。 私の周囲にいるあの子とこの人が似通ってるという事に・・・即ち・・・

(この人・・・冥子にそっくりなんだわ・・・)

 そこで私の意識は途切れた。

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