ザ・グレート・展開予測ショー

ワショクヤの日々(四)前編


投稿者名:AS
投稿日時:(01/ 6/ 8)

 正午から二、三時間。 
 きつかった陽射しも雲に隠れ、湿った空気が漂い、辺りが薄暗くなっていく。
「・・・・・・」
 休憩をとり、昼食を軽く済ませて一休みしていた女性が窓を閉め、再び机に向かう。 風でめくれていたページを元に戻すと、そこに刻まれている無数の文字が示すものを脳裏に浮かべて嘆息する。
「さて、と・・・」
 鬱な表情でペンを取り、新たな文字を刻む。
『・・・そうしてとりあえずの被害は、依頼人の精神的な負荷による失神。 血迷ったケダモノが座敷に突っ込み、障子を全て破壊した上、壁に激突した時にべっとりと鼻血だか・・・何・・・だ・・・か・・・』
 バキ・・・!
 ペンにヒビが入る。
『・・・何だかがこびりつき、障子の張り替えと、拭きとった鼻血の匂いを壁から消すのに半日かかり、依頼人も目を覚まさずにその日はずっと、うなされる始末。 やむなく店は臨時休業という事態に陥る・・・』
 そこで一つ息をつき、再びペンを走らせる。
『・・・しかし、今考えれば私達にとってはいつもの事とも言えた。 それに迷う事無く矛先を向ける事ができる相手がいて、まだましだったとも言える・・・ともかくこうして初日は幕を閉じた・・・』
「記録者名・美神令子・・・これでよしっ、と・・・」
 そこで彼女はペンを置き、一転豪雨となった窓の外の景色を見つめ、疲れた様に呟く。
「雨かー・・・あの忘れたい日々を否応無しに思い出しちゃうわね・・・」



ーワショクヤの日々(災日)前編ー



 とりあえず二日目の朝。
 午前の開店前の準備が奇跡的に無事終わり、皆で休憩していると・・・小百合がぼそりと一言呟いた。
『雨ですね・・・』
「雨ねー・・・」
 
 確かに外は雨が降っていた。

『冷たい・・・雨です・・・』
 再度の小百合の呟きに、何気なく返事する美神。
「確かに外は雨降ってるし、いつもより肌寒いけど・・・」
 そこで小百合が口を挟んだ。

『心に雨が降ってるんです』

『・・・・・・』

 罪悪感を抱かせる重い一言に、美神のみならず、傍らで二人の会話を聞いていた全員が絶句する。

「・・・あ、あの・・・小百合さん・・・」
 こういう場合のフォローに、一番適役なおキヌが小百合の側に行き、声をかける。 
「え、えぇと・・・小百合さんっ! 確かに私達は(いくらかわかんないけど)大金で雇われてました! それなのに来た早々に依頼人に襲いかかって、そのあげく座敷を壊して店を臨時・・・休・・・・・・」
 そこまで言って、おキヌは凍りついた。
「・・・・・・」
 見ると、小百合の眼差しが更に冷たくなっている。 フォローなど到底不可能な事に気づいたおキヌは、蛇に睨まれた蛙のように、冷や汗を流していた。
『あの・・・何か・・・?』
 眼差し以上に冷たさを感じさせる声に、おキヌは涙目になって美神達に助けを求めるべく視線を逸らす。 しかしそこには美神達の姿は無かった。 
(み、美神さ〜〜〜ん・・・)
 とりあえず奥の厨房に避難した美神が、おキヌに向かいエールを送る。
(ファイト! おキヌちゃん! 主席の力を私に見せて!)
(そ、それはあんまり関係無いんじゃ・・・?)
 余計な事を口走った全ての元凶を拳で黙らすと、ふいに笑い声が聞こえてきた。
「よ、良かった〜・・・小百合さん人が悪いですよ・・・」
「ふふ、ごめんなさい。 でもこれでおあいこですから・・・」
 いつの間にか、おキヌと小百合が姉妹の様に笑いあっている。
 どうやらあれは小百合の演技だったという事に気づいて、美神達は脱力した。
「さ、雨もあがったようですし、今日は私もタマモさんに負けない様、腕をふるいますから!」
 外を見ると確かに晴れ渡っていた。 その空の変わり様と一致した小百合の表情に、一同安堵のため息を洩らす。
 だが・・・真の脅威はここから始まった。
(やれやれ・・・ん?)
「よっ・・・ふぅ・・・」
 ビシィッ!
 視線の先でー・・・小百合が壁に掛けたものを見て、美神は先のおキヌより更に凍りついた。
 
 そして、その頃亭主は・・・
「さーて、そろそろ・・・あれ? 地図どこやった?」
 迷い・・・・・・親父になろうとしていた。

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