ザ・グレート・展開予測ショー

黒い呪いと天使の笛の音(幕)


投稿者名:AS
投稿日時:(01/ 5/30)

 試合場から少し離れた場所、医務室に近い辺りにその少年はたたずんでいた。 そうして物思いにふけっていると、場の空気に変化が生じた。
 ピシィ!
「!」
 場の禍禍しい雰囲気が、凄まじい霊力の爆発によって散らされるのを少年は感じとった。
 ピシピシ!
 同時に掌の中の『鏡』に亀裂が走る。
 シャァァァン!
 四散・・・というより霧散し、掻き消える呪いの鏡。 その直前にその鏡が映していたのが他ならぬ自分の姿だというのは、少年には余りにも滑稽と思えた。
「こんなとこにいたの?」
 突然の声に顔を上げる。
「あ・・・」
 いつの間にか3メートル程離れた場所に『彼女』がいた。
「とりあえず・・・『こっち』は決着ついたけど・・・」
「そう・・・」
 彼女の言葉を受け、少年は一歩、踏み出した。



ー黒い呪いと天使の笛の音(幕)ー



「おキヌちゃん! 大丈夫だか!? 痛いとこさ無いだか!?」
「ちょ・・・! お姉ちゃん苦し・・・」
 とりあえず・・・ダイブした面々の中でいち早く起き上がったのは彼女の姉だった。 駆け寄るや否や強く抱きしめる。
「ほらほら、そんなにきつくしたら声出せないわよ・・・」
 それに続いて彼女の側にやって来た美神が早苗をたしなめると・・・おキヌはやっと解放された。
「でも・・・ほんとにどっか痛いとこ無い? じゃ無ければ違和感感じるとことか・・・」
 その問いに、おキヌは人指し指を口元に近づけ、しばし考え込む。 そうして口を開いた。
「んー・・・何だか一ヶ月ぐらい喋らなかった気がします」
 ガックリと、美神は肩を落とした。
「そ・・・そうなの?」
「はい! ・・・不思議ですよねー・・・」

『・・・・・・やあ』

 突如、背後からおキヌに声がかけられた。
 おキヌがハッと振り向いた先には、あの少年がいた。
「あ、あなたは・・・!」
「無事・・・だったんだね・・・」
 美神がーーー吠えた。
「この野郎! よくもおめおめと顔出・・・して・・・」
 少年に飛びかかろうとした美神は、突然前のめりに倒れた。
「な・・・!?」
「あー・・・言い忘れてたけど、あの霊薬飲んだら一日は自力じゃ立つ事も出来なくなるワケ」
「忘れるなーーーー!!!」
「まあ・・・おたくが介入すると流血間違い無しだから、結果オーライって事で・・・とりあえずタイガーそこの抑えといて」
 虎は迅速に、エミの指示に従った。
「離せーーー!! こんなチャンス滅多にーーー!!!」
 一行が毎度の事を繰り返す中で、呪いに最も深く関わった者達が、同時に口を開いた。
『・・・・・・ぁ』
 同時に口をつぐむ。
「・・・先に話・・・してほしい」
「・・・・・・」
 ゆっくりと、口を開く。
「ごめんなさい・・・」
「!?」
 意外過ぎる言葉に少年が目をむく。 気づかずにおキヌは言葉を続けた。
「私・・・昨日この試験が嫌だった。 進む為に人を蹴落とす事・・・私が勝ったら泣く人がいる事・・・」
「・・・・・・」
「でも今は・・・後悔してるんです。 他の人が自分の力だけで戦ってるのに、そうしなかった事。 貴方が泣いて走り去るのを止められなかった事・・・進む覚悟を決めないまま・・・」
「もういい!」
 突然声を上げた少年に驚くおキヌ。
「遅いよ! 今さらそんな事言って! ・・・僕は・・・」
 うつむき肩を震わす少年の手にソッと、おキヌの手が触れた。
「私も遅かったです・・・でも・・・」
 そこで少年は初めて、『彼女』を見た。

『私達、こうして・・・ここにいるから、ね』

 初めて気づいた『天使』の微笑み。 それまで少年にかかっていた『黒い呪い』が洗い流される。
「ぅ・・・うわあああ!」
 駆け寄る。 初めて微笑んでくれた人に。 しかし少年を待っていたのは・・・
 メシャ
 ハイヒールとやたら汚れている靴の歓迎だった。

『良かったわねー・・・じゃあ今度はわたし達のお話を・・・』

『き・い・て・ね!』

 そこで少年は初めて、『悪魔』を見た。

 今日『憎しみ』の呪いを解かれた少年は・・・明日新たな呪いを受ける。

「も、もうその辺でー・・・」
「ふん! お前なんかがおキヌちゃんに・・・」
(近づこうなんて・・・十年早いよ・・・)

 ずたぼろになりながら、少年は『呪い』を受け入れた。



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