ザ・グレート・展開予測ショー

黒い呪いと天使の笛の音(30)


投稿者名:AS
投稿日時:(01/ 5/11)

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」
「先生っ! ファイト! でござる!」
 廃れたビルの階段を上がる一組の男女。
 軽快な動きでひょいひょいと先を行く少女に対し、男の方はかなりへたばっている様だった。
「だー! くそ・・・あのガキ本気で折檻しちゃる! ぜぇぜぇ・・・」
「はぁ・・・」
 階段を登っている間、横島は延々と少年への文句を繰り返していた。 それを側で聞かされ続けたシロが、上にいる相棒と同じ様に、ほぼ同じ理由のため息をつく。
「ぶつぶつ・・・ぶつぶつ・・・」
(勘弁してほしいでござるぅ・・・)
 頭を抱えるシロ。 しかし・・・ぶつぶつと不満を漏らす一方、横島はもう一つ別の事を考えていた。
(どう考えてもおかしい・・・あの呪いに加えて霊力を無効化するアイテム・・・それにあの棒きれ。 どれ一つとってもあんなガキ一人に用意出来るとは思えねーし・・・何か裏で動いてるみてーだな。 ・・・それにしても・・・!)
 突如、両手で頭を抱えて彼は叫んだ。
「階段なんて嫌いじゃー! エスカレーター! エレベーターッ!!」
「せんせぇ・・・」
 かなり切実そうな叫びが、廃虚に響き渡った。



ー黒い呪いと天使の笛の音(30)ー



 一方会場では説明を終えたエミが、そわそわと何かを待っている素振りを見せ始めた。
 そこで神父が声をかける。
「エミ君」
(まったく・・・アシスタント共・・・さっさとするワケ!)
 神父の声は届かなかった。
「エミ君」
 慣れているのか・・・それとも予想していたのか、エミの反応をさして気にせず、神父は再び、声をかけた。
「? 何なワケ?」
 きょとんとした顔でこちらを向く彼女に、嘆息する神父。
「いや、少々疑問に思うところが幾つかあったんで・・・いいかね?」
 エミは少し顔をしかめた。
「・・・あの説明のどこに疑わしいとこがあったワケ?」
 慌てて手を振る。
「いや・・・別にそういう意味では無く・・・その・・・」
 ジト目になったエミのプレッシャーに、神父は右横にたたずむ金髪の青年に目配せした。
「はぁ・・・まあまあエミさん。 とりあえず先生の話を聞いてあげて下さい」
(感謝だ! ピート君!)
 ピートにそう言われてはエミもプレッシャーを発し続けるわけにもいかず、目を閉じて話を促した。
「で・・・何なワケ?」
「あ、いや・・・実は・・・」
 慎重に言葉を選び、神父が口を開く。
「先程の話によれば・・・その呪いは中世の魔術派達でも当初は使えなかった程高度なものなのだろう? そんな術をどうやって・・・」
 割り込むエミ。
「・・・言いたい事はわかるワケ。 確かにこんな魔術を使える奴は限られる・・・しかもその時代の遺産を持っていなきゃならないし・・・」
 そこで冗談めかした声がかかった。
「おいおい・・・まさかその本の、天才とか言ってた奴の幽霊の仕業・・・とか言わねー・・・よ・・・な・・・」
 軽い気持ちで言った自分の言葉。 しかしその言葉に他の三人はただの冗談とは受け取られなかった。
「お、おい・・・」
「確か、そいつは何かー・・・仮面をかぶってて素顔は・・・」

『仮面!?』

 突然驚愕の叫びを上げた神父。 皆の視線が集まる。
「先生!? 心あたりがあるんですか!?」
「い、いや・・・」
 勢いこんで聞いてくる弟子をなだめて、神父は目を泳がせた。
(仮面・・・そして幽霊・・・まさか・・・)
『・・・・・・』

「や、やっと着いた・・・おいガ・・・」
 冷え冷えとした、凍える声が割って入る。
「ヨコシマ」
「!?」
 見るとそこには、美神ばりの絶対零度の瞳の少女がたたずんでいた。 その少女がその冷たさを叩きつけるべく一言呟いた。
 ビキィッ! 
 瞬間が止まる。 思考、脈拍、鼓動、全てが止まる。 彼の見る世界が灰色に染まる。
 そして次の瞬間・・・何か、大事な何かを無くしたかの様に・・・彼はすべてを真っ白にして、地に伏した。
 ドサァッ!
 彼女が彼に送った言葉。 それは他に並ぶものなき者を称えるはずの言葉。 しかし一文字すり替えたその言葉とは即ち。

『最低無比』

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