黒い呪いと天使の笛の音(29)
投稿者名:AS
投稿日時:(01/ 5/11)
「そうね・・・まずは・・・」
(・・・・・・)
エミはちらりと、美神の闘いに目を奪われている二人の後輩・・・弓と一文字に目を向ける。 二人が今だ、うっとりとしてるのを見て、神父達へ再び・・・口を開いた。
「この呪いは厳密に言えば魔術。 ただ使った結果が余りにも呪わしいものになったから、『呪術』と言われる様になったワケ」
『・・・・・・』
「あそこの二人には具体的には説明しなかったけど、おたくらには事態を詳しく把握してもらわないと・・・いいわね?」
神父がゆっくりと頷く。 それにならい左右の二人の青年も首を縦に振った。
三人の合意をうけ、エミも頷いてゆっくりと口を開く。
「オーケー・・・じゃあこの呪いが初めて世に出た時の話からなワケ・・・」
静かに・・・エミは言葉を紡ぎはじめた。
「本では確か・・・中世の時代の・・・」
ー黒い呪いと天使の笛の音(29)
中世。
魔術師や魔女。 神話を継承する数々の神秘的な存在。 それらが数多く実在していた時代に、二人の領主がいた。
一人は魔術を崇拝し、もう一人は武術に誇りを抱いていた。
それは二人の治める地の民や兵にも浸透し、やがて二人の治める地は・・・近くとも遠いものとなった。
そしていつしか違う価値観がぶつかりあう。
規模は小さくとも互いに信じるものがあった為、ささいな火種は燃え広がり、全ての民や兵達を巻き込んでいった。
争いが始まってから三日。
戦況は圧倒的に、武術派が優勢だった。
特殊な才能を要する為、実戦レベルに到達しない者が多い魔術派と違い、誰もが武器さえ選べばそれなれの働きが可能な武術派が、質でも量でも優勢だった。
魔術派の拠点は次々と落とされ、精鋭が守る最後の砦のみが残った。 精鋭達はさすがに良く守ったが、物量差がじわじわと現れ始めた。 疲労によって戦意も薄れ、降伏案が出た頃。
その砦に一人の天才を称する者が現れた。
その者はいくつかの魔術と、二つの鏡を渡すと、いずこかへと立ち去った。
それから更に三日後・・・戦況は一変する。
突如、強力となった魔術にも損害を被ったが・・・それよりも兵達を戦慄させる事態が武術派の軍を襲った。
川から水を調達した者達、あるいはその水に触れた者達の中に、『影』に襲われ息絶える者達が続出した。
今日。 そして今日が昨日となった日に一人ずつ・・・恐怖に顔を歪ませた躯が地に還る。
そうして十日後・・・回避するには水を断つ以外の策は浮かばず、昼夜を問わず襲い来る漆黒の死神の前に、武術派の軍の戦意は急速に失われていき、やがて敗走した。
後に魔術派が・・・
「・・・後に魔術派が残したわずかな手記などでは、どうやら魔術派は武術派達の『血』と『汗』を『鏡』から取り出したらしいワケ」
「血と・・・」
「汗?」
おうむ返しをする二人に、さらに言葉を続ける。
「そう・・・この魔術は鏡に浮かび上がった相手に大きく関わる『モノ』をすり替えて、鏡の魔力で実体化した『影』に相手を偽物と錯覚させて霊体・・・魂を消滅させるもの・・・もし返されても術者には何の危険も無い。 ま、憎い相手から持ち物奪うのが難しいくらいなワケ」
そこで神父が口を開いた。
「つまり・・・戦って流れた相手の血や汗・・・地に落ちて、もう取り戻せなくなってから、前もって鏡から抜き取っておいた・・・」
エミが後を続けた。
「・・・血や汗を川の上流に流して、後は鏡に映った兵がその水に触れれば発動・・・武術だけじゃ抗う術も無い」
「・・・・・・」
「胸くそわりぃ・・・」
渋面の神父がそこで、再び口を開く。
「では・・・彼女を救うには?」
エミは一つ咳払いをして、答えた。
「言ってしまえば簡単よ。 自分が本物だと証を立てれば影は消える・・・それ以外は手は無いけどね・・・」
(だから・・・頼むわよ横島・・・)
その頃横島は・・・
「・・・・・・」
(な、何だ・・・タマモのこの冷たい目は・・・)
タマモが口を開く。
「横島あんたって・・・」
『最低無比、ね』
彼は昏倒した。
今までの
コメント:
- 「今回のは・・・拙いながら、今まで避けてたものを書いたつもりです・・・今まで読んだものを参考にして書いたけど、残酷な描写を終えた後は沈みます・・・とにかく読んでもらえたら嬉しいです」 (AS)
- 残酷を嫌う御気持ち理解できないでもないのですが、
高飛車な言い方を許してもらえれば、シリーズの中で最も説得力が有り、
そして、大変興味を持って文字を追わせていただきました。
創作とは言え物を書く以上、必要以上に綺麗だけを求めても
あまり、面白くないものになると私は考えます。
(と、言うよりも実際の世界にも目を覆いたくなるような事象が数多くあるので)
ま、綺麗、夢の世界を具現化したのはディズニーランドの等の一部の例外で、
例えば、映画にしてもある程度のバイオレンス的表現は必要不可欠であると思います。
長々となってしまいましたが、
大変面白い一編でした。 (トンプソン)
- 今回の描写が残酷だと仰いますが、前回までの美神の凶行の方がその何倍か凄惨だったと思います(苦笑)。
謂わゆる中世欧州の「暗黒時代」……魔術を扱う関係か、やや伝奇的な雰囲気で面白いですね。エミの最後の独白から察するに、どう横島が解決に絡んでくるのか、楽しみです。
あ、横島もう這い上がってる。しかも「無比」だって(笑)。
(Iholi)
- いつも感想有難うございます。 トンプさんから頂くのは久しぶり・・・嬉しいです。 残酷さ、というのは命に関わるかどうかで考えていますので、今回の背景描写は抵抗あったけど、賛成してもらって有難うございます。 (AS)
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