ザ・グレート・展開予測ショー

黒い呪いと天使の笛の音(26)


投稿者名:AS
投稿日時:(01/ 5/ 8)

 法則に従う。
 物体が高い場所から低い場所へと移動するには『落下』するしか術は無い。
 高層ビルの10階から一階まで『降下』しようと、無事でいられる技術があるとはいえ、それが生身では術は無い・・・筈である。 (一部例外あり)
「落ちろ!」
 その一言に込められた意味を頭で理解した次の瞬間、その場から逃れるために、指示を出す。
「退がるぞ!」
 二人からの返事が、耳に届くよりも先に床を蹴る。
 スカ・・・ッ
 蹴ろうとした右足に、床の感触は既に無く・・・
「このガキャアァァァ・・・」
 彼は素直に、『法則』に従った。 従うしか無かった。
 三人の姿が消えた後には・・・
「・・・備えあれば、憂いなし・・・さ・・・」
 独りほくそ笑む、少年の姿があるだけだった・・・



ー黒い呪いと天使の笛の音(26)ー



 三人がまたもや・・・不覚をとった、その少し前。

「さて、と・・・令子! 聞いてたでしょ!?」
『え?』
 唐突に、暴走中の女性に声をかけた彼女ー・・・小笠原エミに対し、説明を受けた二人が怪訝な表情を浮かべる。
 それには構わずに、彼女は喋り続ける。
「いい加減キレるのやめてほしいワケ!」
 ドガガガ・・・
 エミのそんな言葉など、耳に入らないといった様子で・・・暴れ続ける美神。
「・・・・・・」
 そんな美神の様子を、しばらく眺めてからー・・・エミはため息をついた。
「やれやれ・・・お、いいものがあるワケ・・・!」
 ため息混じりに、何気なく周囲を見回したエミの目は、使いこんだ様子の拡声器に注がれた。
 スタスタと、呪いをかけられた少女の看護を続ける、活発そうな娘の手元にある拡声器に近づき、それを拾いあげる。
(さて・・・と・・・)
 呪いに恐れを抱いたのか・・・(キレた美神に接したのは初めてでは無い為、それが原因とは思えなくなっている)・・・いつの間にか無人となった観客席に目を向けて、残念そうな顔をするエミ。
(出来れば・・・たくさん人がいる前で暴露したかったんだけど・・・)
 息を吸い込んで、エミは振り絞った声を出した。

『皆さーーーーーん!!! 以前グラビトンの像というのが日本にやって来たのを! 覚えてますかーーーーーー!!!?』

 ビタァッ!
 鬼の動きが止まった。
 エミの声は止まらない。

『そのグラビトンに! 不用意なこと言って呪いをかけられた女は何と・・・』
 ドガァァッ!
 横からの矢の様な飛び蹴りに、吹っ飛ばされるエミ。

『あんた何勝手に人の過去ほじくり出してんのよ!!?』

 横たわったエミの耳に、怒声が届く。
 バァァンッ!
 その声に反応してー・・・エミがバネが仕込まれていれかの様な、恐ろしい速さで起き上がり、美神に詰めよる。
「・・・おたくがいつまでも暴走してるからでしょーが!! 感謝するとこを蹴り入れるとはどういう事なワケ!!?」
 負けじと美神も言い返す。
「どこの世界の人間が! 人の汚点ぶちまけようとする奴に感謝したりすんのよ!?」
 背後でゆっくりと・・・影が再び少女の姿に戻ろうと蠢いているのだがー・・・おかまいなしに喧嘩は続く。
 その時。
「あのー・・・美神さんも何か呪いを・・・?」
「美神おねーさまに!?  一体どんな呪いが!?」
 ビタァッ!
 またもや鬼の動きが止まる。
「え、えーとね・・・それは・・・」
 ゆっくりと、二人に向かって振り向く美神を見て、エミが『ニヤーッ』とする。
「聞きたい・・・実は・・・ムガガッ!」
「何でも・・・た、たいした事無いのよ!」
 おほほほっ・・・と笑いながらごまかす美神と、もがいているエミを見て、二人は不思議そうに首を傾げる。
「と、とにかく今は・・・」
「美神さん! エミさん!」
『!』
 戦慄したかの様な金髪の青年の声に、全員の視線が集まる
「な・・・!」
 息を呑む美神。
 そこにはまるで・・・時間を巻き戻したかの様に、完璧に少女の姿へと復元されたー・・・影がたたずんでいた。
 ズ・・・ズズ・・・
 ゆっくりとこちらに近づく影のうめきに・・・少女、おキヌの苦しげな声が重なる。

『オオオ・・・ォ・・・』
「う・・・はぁ・・・はぁ・・・!」

「エミ・・・手はあるのね?」
「・・・・・・」

 エミがコクリと頷いたのを見て・・・美神は駆け出した。

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