ザ・グレート・展開予測ショー

「マムシ、息子に腹を食い破らるる(後編)」


投稿者名:富士見と美神のファン
投稿日時:(01/ 5/ 6)

ごめんなさい・・・なんか文章が長すぎたので、二つに分断することになってしまし
ました。それでは、続きをどうぞ。

「退くな、退いてはならん!進めぇっ!」
形成我にあらずと見た馬上の義龍が必死の形相で叫ぶ。その声に答え、足軽はつ
ぎつぎにに川に飛び込み、騎馬武者は川に馬を乗り入れ、義龍軍はがむしゃらに川を
突き進んだ。それでもなお道三軍は奮戦し、両軍一進一退の戦がしばらくの間
続いたが数の多い義龍軍はあとからあとから現れ、しだいに道三軍を川岸から陸に
おいやり、押し包んでいった。川には散乱した武具や、破れた旗、そして無惨な死体
だけが残された。
「いいぞ!かかれ、かかれ!一兵たりとも逃すな!皆殺しじゃあっ!」
義龍自身も馬を川に乗り入れつつ無我夢中で采配を振るった。義龍の勢いはそのまま
軍勢の勢いと化した。その勢いに、かろうじて持ちこたえていた道三軍はついに総崩
れとなった。一度統率を失った軍勢はもろい。文字通りクモの子を散らす敵勢を、
義龍軍は追い回し、手当たり次第殺戮した。
その乱戦の最中、長井忠左右衛門が次々と敗走する兵卒の中に道三を見つけた。
「斉藤道三入道とおみうけいたした!いざ尋常に勝負!」
名乗りを上げるなり忠左右衛門は槍を手に道三におどりかかった。
「忠左右衛門か!この首、とれるものならとってみよ!」
道三は不敵な笑いを浮かべつつ忠左右衛門の鋭い一撃を槍の柄で受け止めると、素早
く槍を下から半回転させて忠左右衛門の足をめがけて下から突き上げた。とても六
十歳を越えた老人とは思えない見事な槍さばきだ。
「なんのぉ!」
忠左右衛門も剛の者である。足を一歩後ろに引き、この一撃を穂先ではらいのけ
た後そこを起点に槍の石突きで上から叩きつけるような一撃を逆に道三に放っ
た。身をかがめ、かろうじてこれをかわす道三。息詰まるような攻防戦は果てしなく
続くかのように思われた。しかし、高齢な道三が戦いが長引くにつれて不利になるこ
とは目に見えていた。そして、息切れし始めた道三は、忠左右衛門の槍の柄で横
殴りにするような一撃をなんとか受け止めた拍子に、ついに上体をぐらつかせた。
「すきありっ!」
その隙をついて忠左右衛門が渾身の槍を繰り出す。槍は道三の胴に深々と突き刺さっ
た。道三の口から赤黒い液体がドッと吐き出された。
「さすが・・・よ、義龍、見事なてぎわ・・・道三の・・・まことの・・む・す・こ
・・・。」
その口から消え入りそうな言葉がもれる。道三の目から、少しずつ光が失われて
ゆき―
「大殿っ、ご免!」
そこに後ろから小牧源太が後ろから飛びかかり、首に脇差しを押し当てる。頸動脈を
切り裂いたとたん真っ赤な鮮血が噴水のように吹き出し、うっすらと明けかかっ
た蒼い初春の空に舞い散った。あとには、首のない道三の死体だけが残された。
後に、その首のことで
長井忠左右衛門と小牧源太はどちらが先に道三を討ったかを言い争を始め、長井忠左
右衛門が証拠として首から鼻をそぎ落としてしまった。
「敵の大将討ち取ったぁ!」
その声が血どろみの長良川に響き渡った。オォー!とそれに答える鬨の声がいたると
ころであがり、血どろみのまま、義龍軍の兵は肩を抱き合っい、戦場には悲鳴に
かわって歓声が満ちた。それは、敵が殲滅された証でもあった・・・。
「終わった・・・。」
義龍はその声を聞くと、腰が抜けたようにぺたん、と地面にへたり込んでしまった。
(母上・・・長井道利叔父殿・・・やりましたぞ。)
義龍はそう心の中で呼びかけた。叔父の長井道利は苛烈すぎる道三の恐怖政治に反発
し、義龍をたきつけた。母の浄龍院(愛芳野)は道三憎しの激情を抱き続け、幼い頃
から我が子に道三を殺すように言い聞かせてきた。だが義龍にはわかっていた。これ
が誰のためでもない、自分自身の戦いであったということが。
(俺は・・・父を倒した!父を越えた!)
その感動をえるために義龍は戦った。国のためでも家臣や領民のためでもない、土岐
頼芸の子かどうかなどどうでもいい、ただ、そのためだけに・・・。
(なのに・・・このやるせなさは一体なんなのだ・・・・・?)
義龍の心のに空虚が生まれた。それは風船のように広がり義龍の心を圧迫してく。
(俺は・・・俺はいったい何のために・・・・・。)
その時、すでに白み始めていた東の空から赤々と燃える朝日が昇ってき
た。血の色のような紅い日が地上の凄惨な光景を照らしてゆく・・・。ところが義龍
の座っている場所だけ、未だに暗いままだ。
「?」
ふと、えもしれない気配を感じ義龍は顔をあげる。そこには道三が立っていた。義龍
にしか見えない父の姿が確かに目の前にあった。その姿が朝日を隠していたのだ。義
龍は心の中で今までに見たことがないほど悲しい顔をしている道三の幻に語りかけた
・・・。
(父上・・・これが我ら親子の運命だったのですか?こうなる以外に道はなかったの
ですか?戦いの中でしか、親子として心を交えることが出来なかったのですか!)
道三は答えなかった。ただ、悲しげな目をむけるだけで・・・。だが、義龍にはそれ
で十分だった。今の二人の間では、たとえ百万言を費やしても語りきれない不思議な
コミュニケーションが行われているのだ。
(父上・・・父上・・・父上ーっ!)
義龍は幾度もその名を繰り返した。そうすることしか今の義龍には出来なかったの
だ。もはや、取り返しはつかない。それが分かっていても、義龍にはそうすることし
か出来ない。それ以外には・・・何も。長良川を揺るがす歓声にかすかな嗚咽が混じ
り、川に沿って長々と尾を引いた。・・・長く・・・いつまでも・・・・・。
前章、完。

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