ザ・グレート・展開予測ショー

自作小説「マムシ、息子に腹を食い破らるる」


投稿者名:富士見と美神のファン
投稿日時:(01/ 5/ 6)

いや、考えてみればちっとも関係ないことかもしれませんが、以前書いたこの小説が
偶然「ミスター・ジパング」の舞台となった時代にあっていたんで、載せてみました
それだけです(笑)
実はこの作品、未完ながらもう二部あったりします。リクエストがあれば載せますの
で、いい返事を期待しています。
この長良川の戦いは「ミスター・ジパング」だとまだ描かれていない義龍謀反、そし
て道三敗死の話ですので、今後の予想展開になるといえばなるのですが、この話の中
での義龍はかなり美化されています。私も今改めて見直して気づきましたけど。
ま、それではつたない文章ですが興味があったらお目を通し下さい。

〜簡単なあらすじ〜
「美濃のマムシ」と恐れられた謀将、斎藤道三は数々の謀略を駆使し、美濃国守護土
岐頼芸から実権を奪い、最終的には他国に追放してしまった。だが、ある時かつて頼
芸から道三に下げ渡された側室、土岐愛芳野との間に生まれた嫡男(跡取り息子)義
龍が実は頼芸の隠し子だという疑惑が持ち上がる。道三自身も以前から何かとそりが
あわなかった我が子をに対し、次第に疑いを抱きはじめ、次第に険悪になっていく道
三と義龍。そんな中、長年争ってきた隣国尾張の太守、織田信秀の嫡男で「うつけ者
(バカ殿)」と評判の織田信長と道三の娘、お濃との間に和議を目的とした政略結婚
が結ばれる。その三年後、道三は娘婿である信長の器量を見極めるために信長に会見
を申し込む。―もし信長が本当のうつけなら寝首を掻いてしまおうという目的で―。
世に言う「正徳寺の会見」である。その席で信長がうつけどころか優れた武将である
ことを見抜いた道三は、息子義龍が将来信長の家来に成り下がるであろうと家来に漏
らす。それを聞いた義龍はますます父への不信感を募らせる。
そして1555年11月22日、義龍は道三がかねてより自分よりかわいがっていた
弟二人を病と偽って居城、稲葉山城に呼び寄せ、暗殺してしまう。(一説によれば道
三は義龍を廃嫡して弟を新たな後継者にしようとしていたという。)そして打倒道三
の兵を募り、父に対して公然と反旗を翻した。それに対し、道三も慌てて兵を召集し
たがその数はわずかに二千七百、一方の義龍軍は一万七千、結果は火を見るより明ら
かだった。両軍は稲葉山城の北を流れる長良川を挟んで対峙したまま、運命の朝を迎
えようとしていた。

1556年4月20日 A・M5:00ごろ
朝霧がたちこめる長良川河畔はまだ薄暗かった。義龍軍は昨夜のうちにそこに陣を
はっていた。美濃斉藤家の家紋である「撫子」の旗が川をわたってくる春風に
なぶられて、無数になびいている。遠くから見ればその光景は幻想的に写ったかもし
れない。だが、その下に待機しているのはおびただしい数の人馬の群。戦争をするた
めの集団だ。どの顔もにも、これから始まるであろう合戦に対する緊張と不安が見ら
れた。なんといっても彼らの相手は、ほんの数ヶ月前まで仕えていた元主君、「美濃
のマムシ」斉藤道三。これまで彼らは彼の采配のもとで、なみいる強敵を幾度もうち
破ってきた。だが、今度はその道三が敵なのだ。その義龍軍の対岸には「二頭立波」
の旗がひるがえっている。道三軍の旗だ。
(父上、いや、道三は何を考えている?)
一段と高い場所に据えられた義龍軍本営、その床几に座していた義龍は、林立する
「二頭立波」の旗を穴があくほどにらみながら考えていた。
(信長が城を出てこちらに向かっていることは道三もおそらく知っている。救援が
来ると分かっている以上、籠城して援軍の到着を待つのが普通だ。数に劣る軍勢で、
わざわざ不利な野戦にもちこむ必要がどこにある?)
義龍の疑問はそこだった。並の相手なら、「願ってもない!」とばかりにいっきに川
を渡って襲いかかっただろう。しかし―
(いや、道三は名うての戦上手、うかつに仕掛ければ罠にはまる。)
その思いが義龍を押しとどめていた。さらに、義龍は信長の北上に備え、五千人ほど
の軍勢を木曽川沿いに配置して置いたのだ。他にも、稲葉山城の留守居や、日和見
を決め込んでいる豪族達を警戒するためにも兵力を裂いているので、義龍軍総勢一万
七千のうち今、ここに集結している兵力は、せいぜい六千人といったところである。
それでも、二千七百人の道三軍のゆうに倍以上の兵力ではあるが、相手はかつて自分
が師と仰ぎ、その実力に恐おののいていた男である。油断は禁物だ。
(あるいは、これが策略か?ありもしない罠を見せつけることでこちら側の渡河を
遅らせ、信長の到着を待っているのか?そして、こちら側の戦意が低下したところ
に、前後から挟み撃ちにする手はずか?・・・・・・・・・いや、いかん!いかんぞ
んなことでは)
義龍は先ほどから幾度もそんな根拠のない考えにとらわれているのに気づき、あわ
ててたった今脳裏に浮かんだ考えをかき消した。だが、不安は山裾からこんこんと出
行く湧き水のように次から次ぎに浮かんできては義龍の頭を悩ませた。
「殿、」
傍らに控えていた日根野備中守弘就が声を掛けた。
「矢合わせの時刻ですが・・・延期なさいますか?」
彼も道三の策謀を恐れてか、声に弱々しさが感じられた。
(いかん、このままでは)
本気で全軍の志気が低下すると感じた義龍は、次の瞬間声高に叫んでいた。
「いや、矢合せは予定の刻限に行う。全軍、総渡河の準備を!」
「ははッ!」
日根野弘就は力強く答えると、一礼して退出していった。
ふぅ・・・・・。誰もいなくなった本営で、義龍は一人、重く憂鬱なため息を吐き
出した。
全軍にみなぎる緊張は頂点に達しようとしていた。その緊張から解放されるときが
惨劇の幕開け・・・そしてその幕を開ける瞬間は、一人の男の手に握られている。霧
の向こうに見え隠れする道三の馬印を見つめながら、義龍はゆっくりと握りしめた軍
配を振り上げた。
(道三・・・参るぞ。この義龍の戦ぶり、とくとみるがよい!)
心の中でそう語りかけながら、義龍は思いのたけをぶちまけるがごとくイッキに軍配
を振り下ろし、叫んだ。
「かかれぇっ!」
オォーッ!義龍が軍配を振り下ろすと同時に、六千余の軍勢は鬨の声をあげ、一斉に
渡河を強行した。まだ冷たい川水を蹴散らし、人馬一体となって敢然と進むその
姿は、さながら一体の巨大な生き物のようだった。
全軍が川の中程まで達した時、川向こうから轟音と共に濃霧を切り裂いて数発の銃
弾が飛来した。足軽達が糸の切れた操り人形(マリオネット)のようにバタバタと倒
れる。続いて無数の矢がほとんど義龍軍の直上から襲いかかってきた。騎馬武者が雨
のように降り注ぐ矢に撃たれて落馬し、長良川の波間にもまれて消えてゆく。が、そ
れでも義龍軍は進撃をやめない。足軽達が恐怖の叫び声を上げ、興奮した軍馬が
狂ったようにいななく。ついに、両軍は対岸の川岸近くでぶつかった。ぶつか
る槍ぶすま、うなりをあげて飛来する矢、飛び交う銃弾、交錯する怒号と悲鳴、川は
たちまち惨劇のるつぼと化した。道三軍は足場のしっかりとした川岸近くに踏みと
どまって足場の不安定な川中にいる義龍軍を懸命に寄せ付けまいとしていた。それが
劣勢の道三軍にできる唯一の戦法だったのだ。
その死にものぐるいの抵抗に義龍軍先鋒の竹腰道塵隊はやむなく後退、さらに道塵
自身は撤退する際に追いすがってきた敵の騎馬武者の繰り出した槍に母衣を引っかけ
られて落馬。そこにわっと群がってきた道三軍の足軽達にあっという間に首を上げら
れてしまった。
「ええい、やんぬるかな!」
その様子を見ていた義龍は地面に軍配を叩きつけて悔しそうにうめいた。それに対し
て、口元にかすかな笑みすら浮かべながら同じ状況を見ていた人物が対岸にいた。道
三である。彼は悠然と床几に座したまま誰に向かって言うでもなくつぶやいた。
「あわれなことよ。今少し生きながらえておればよき仕合わせとも出会えたものを・
・・。」
大将を討ち取られて完全に潰走状態になった竹腰道塵隊からただ一騎、馬を返してく
る騎馬武者がいた。その武者は対岸の川岸近くまで進むと大音声で名乗りを上げた。
「我こそは竹腰道塵が家臣、長屋甚右衛門なり!亡き主の敵討ちいたしに参上仕っ
た。腕に覚えのある者は名乗り出られよ!」
その声に答えて道三軍の陣営から一騎の騎馬武者がもうもうと土煙を上げてやってき
た。柴田角内、道三軍でも音に聞こえた猛者である。甚右衛門も馬を進める。二人は
七間(約10メートル)の距離を挟んで対峙した。
霧はすでに晴れ、川中にいる二人は道三軍、義龍軍の両軍からもよく見えた。誰もが
固唾を飲んで二人の一騎打ちを見守っている。次の瞬間、二人はほぼ同時に馬腹を蹴
り、水を蹴立てて駆けだした。裂帛の気合いと共に二人の槍が繰り出され、そのの姿
が交錯する。鋭い撃剣の音と共に、二人は二合、三合と槍をあわせた。だが四合目に
槍をあわせたとき互いの馬体が衝突して長屋甚右衛門がバランスを崩した。そのスキ
を逃さず柴田角内が甚右衛門を槍の柄で殴りつけて川中にたたき落とす。慌てて立ち
上がった甚右衛門が応戦しようと刀を抜いたとき、そののどに角内の槍が突き刺
さった。
「ぐ・・・あ・・・うぅぅ・・・。」
甚右衛門は声にならない悲鳴を上げながら川中へゆっくりと崩れ落ちていった。角内
が槍を天に突き上げて勝利の雄叫びを上げ、道三軍からも歓声が上がる。だが、次の
瞬間それら全ての音を圧して轟音が川面にとどろき、そして―
「ぐうっ!」
雄叫びを上げていた角内が突然苦しそうにうめき声を上げたかと思うと、馬の上から
滑り落ち、盛大な水しぶきを上げて川中へ転落する。そして、甚右衛門と同じように
波間へ飲み込まれていった。この一騎打ちによって全軍の志気の低下を恐れた義龍が
部下に命じて彼を鉄砲で狙撃させたのだ。
その轟音の余韻もまた川中へと消えていった。
そして、その次の瞬間、つかの間の静けさを取り戻していた長良川は再び惨劇の舞台と化した。
道三軍、義龍軍の両軍が全軍総攻撃に移ったのだ。

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