ザ・グレート・展開予測ショー

ミットナイト・ダンディ(その15)


投稿者名:ツナさん
投稿日時:(01/ 5/ 3)

 悪霊は横島の急激な霊力増加に些少ながら恐れを感じた。
 しかし悪霊の中に敗北の文字は無い。
 ただ有って、そしてそのために何をするか、その一点。
 ただその一点にこだわっているからこそ彼はここまで力をつけたといっても過言ではないのである。
 そして横島が切れていようと、おキヌが魔獣を出してこようと、何をするかはまったく変わらない。ただ肉体より魂を解放し、吸収するだけである。
 逃げた唐巣達はしばし放っておく。すでに二人には支配下の雑霊を取り付かせてある。
 逃げようが何をしようが、いかにでもなる、と思っている。
『生あるものとはいかにも矮小で小賢しい。すべては我なり。汝らも死して我となれり』どこか哀れみを含ませた口ぶりでそういうと、意識を横島に集中させた。

 悪霊を遠巻きに取り囲むようにバロム13が位置どる。
 いつでも飛びかかれるよう体勢をとりながら低く唸っている。
 悪霊ははそれを意に介す気配は無い。

 横島は文珠を無意識的にGパンの左ポケットにしまう。
 それより右手の霊波刀の変化が気にかかる。
 金色の霊波が更に凝縮されより具現化し、まさに日本刀そのもののような研ぎ澄まされた刀へと変貌していた。
 文珠を制御するべき超人的な霊力が結晶化したと言うべきか。一つの個体としてそこに存在するようにも見えるが、確かに横島の手に吸いついているようである。
 切れ味は文珠で作り出したそれを上回るかもしれない。
「とことんやってやるよ」
そして刃を手にし、猛り狂った先ほどとは一転、気の抜けたような上半身の力が抜けたような腕をだらんと垂らした構えでゆっくりと歩み寄っていく。
 おキヌちゃんの目線が横島の背中を追う。そこにはあの底抜けにすけべな横島は無いように見えた。 
 
『汝の命運は変わらず。ただただ死して我になるだけなり』
悪霊が動いた。
 ピッチャーの投球ホームのように右腕を振り出すとそのまま腕が伸びて一直線に横島を襲う。
 しかし横島は避ける気配が無い。
 おキヌちゃんが笛でバルム達に食い止めるよう指示を出すが、反応が無い。動く気配を見せない。
(どうして!?)
 彼らはここに感情があり判断力がある。おキヌちゃんの指示でもその必要が無いと踏めば動かない。
 そして横島はそれをギリギリで半歩分右に動いてあっさり避けると、その右腕を霊波刀で瞬断する。 
 しかし断たれた右腕はすぐに悪霊に吸収され、また右腕が生えてくる。
「ふん、それがどうしたっていうんだよ」
小ばかにするように鼻を鳴らす横島。余裕からか。
 そのまま悪霊につめていく。文珠を使う様子もない。
「横島さん」
おキヌちゃんは不安になった。あれは横島さんではない、そう思ったのだ。
 事実、今の横島は横島であって完全な横島ではないといえる。
 記憶の中のアシュタロスの冷酷な部分が、横島の感情の中に多く混ざり込んでいる。 『おおおおお・・・』
悪霊が気圧されている。今の横島の力は下手な神魔を上回っていると言えた。
 場の雰囲気が悪霊の威圧感から横島の冷酷な気に変わった。
  
「まずいわよ」
横島の霊気を感じ取った美神が目を光らせる。
 美神たち一行はすでにヘリから離れ、細かい怪我の治療を済ませていた。
 幸い道具もいっしょに持ち出せたので、このまま戦闘に加われる。
「横島、こんな冷たかったわけ?」
「いや、そんなことは無いですよ、あきらかにおかしい」
「いや、あれが横島君の真の姿なんだ、わかったろう令子ちゃん」
「下らない冗談は辞めて、西条さん」
美神はかってに道具を漁ると、あーだこうだ話を続ける3人を無視してさっさと現場へと足を向けた。
「ちょ、ちょっと待つわけ、令子、あんた一人いったって・・」
「待つんだ令子ちゃん・・・・しょうがない、僕らも続くぞ」
「はい」

 横島は怒りのうちに圧倒的優位に立ってしまったと感じたがゆえに、冷酷な面をより膨らませてしまった。
 このまま行くと横島は暴走しかねない。
 そう美神は読みとった。
 横島レベルの人間が負の感情を強くもって行動するようになれば人間をそして多くの命を奪うことになりかねない、いや、奪うだろう。
 残念ながら人間には殺人欲とも言うべき本能的な感情がある。更に魔神アシュタロスという最悪にして最強の魔神の心を孕んでいる横島だ。
 感情の赴くままに暴走したら、街一つ吹き飛ばすぐらいは可能だ。
 そうなれば横島は間違いなく神魔族の手によって殺されることになる。
 だから今止めなくてはならない。
 もはや悪霊のことなんぞ彼女にはどうでも良かった。
「あの馬鹿!かってに死んだとでも思い込んだのかしら」
美神は悪態をつきながらも、不安を隠せない。

横島はただ冷酷な、残虐な目で悪霊をにらんでいる。
 横島にとって今の悪霊は蛙や甲虫のような、弱い、生きたおもちゃのような物にしか見えないのか。
 霊波刀で悪霊の節々を刻みながら、その目に冷たさをたたえている。
「・・・・」
そんな横島をおキヌちゃんが悲しそうに見つめている。

続く

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