ザ・グレート・展開予測ショー

主の望みよ喜びよ。


投稿者名:hazuki
投稿日時:(01/ 4/29)

死が生の先にあるという事を意識したのはいつだろう。
淡々とつづられる日常の中にある「生」そして「死」。
「死」というものはけして特別な事ではなくとても当たり前な出来事。
人は生きている限り自分がそれを迎え入れるまで自分以外の「死」と「生」を見つめてなにより自分が生きていかなければならないのだから。

穏やかな昼下がり。
ステンドグラスから差し込む柔らかな光。
彼は礼拝堂にひざまづきそっと胸にかけられたロザリオに手を這わしていた。
ひやりとした感触。
温かくもなんともない。
だが彼はすがるようにロザリオに手を這わす。
救いを求めるように。
脳裏に何度も繰り返される言葉。
   シニマシタ
  ミカミミチコハシニマシタ。
  カノジョハジブンノシキヲシッテイタトオモワレマス

あれ以来逢う事は無かった。
幸せだという風の噂は聞いた。
良かったと思った。
眩しいくらいにひたむきに前を向く彼女には幸せになる力があると思った。
幸せにして貰うではなく。
彼と。
だがもういない。
彼女は死んだのだ。
彼を残して。


そして死後に自分に届くただ一通の遺書。
白い便箋にたった一行の言葉
   娘を頼みます。
友人としての言葉もなにも無く自分の死を認識した言葉でもなく
ただひとつ母親としての言葉。
そこから思い浮かぶ彼女は若々しい生命力に溢れた女性では無く母親としてのひとりの強い女性。

自分の「死」を見つめて受け入れてそして娘を思いやる彼女。
失った彼。


彼女の命。
意思。
記憶。
そして想い。

涙が溢れた。

もうこのどこにもいない彼女のことが鮮やかに思い出される。
いきていた頃よりずっと鮮明に。

生の先に死があるかのように
死の先にも生がある。

いきている
彼女を覚えている自分は生きている。
そして彼も。
彼女の娘も。

そして全ては受け継がれる。
死が孤独でないように。
生が孤独でないように

ロザリオから手を離す。
顔を上げる
視線の先には十字架。
十字架は人の罪だという
ひとは誰もが十字架を背負っている
だがひとが背負っているのはそれだけでは無い。

そして祈りをささげる
もうここにはいない彼女に届くように。

神にではなく彼女へと
いきていた。
自分が覚えている彼女へと
おわり

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