ザ・グレート・展開予測ショー

ミットナイト・ダンディ(その十)


投稿者名:ツナさん
投稿日時:(01/ 4/20)

 「観念するっぱ、煩悩の権化たる者よ」
じりじりっと逃走を図るべく後ずさむ横島を捕まえ、諭し始めたその時であった。
 その場にいた全員にびりりと電流が走ったような衝撃が体中を貫いた。
「な、なんだ?」
横島の声を皮切りに唐巣の向かった祠のほうへ、みな一斉に振り返る。
「かっぱっぱ?」
「な、なんと言うことかっぱ、封印が解けたっぱ??」
「封印だって?」
「あの唐巣とか言う男が向かった祠の地蔵尊はある者の魂を封じておくためのものであったっぱ。我らがこの川に巣くう目的のひとつはその魂の監視であったっぱ。しかし彼奴が予想外に力を付けてしまった為、我らが一族の者はこの川の底に閉じ込められていたっぱ」
「我らは至らなさに苦汁をなめながらも待ったっぱ。いつか彼奴めを払う霊能者が現れることを。しかし遅かったっぱ。決して破られるはずの無いと踏んでおった我らが秘結界が破られるとは・・」
「ど、どうなるというのですか、唐巣先生は?」
強烈な霊波に射竦められて、狼狽の色を隠せないピート。
「む、すぐに助けに行くっぱ。唐巣とか言う男はかなりの使い手らしいが、おそらくは数分と持たないっぱ」 
「唐巣先生をして数分・・・、かなりやばい相手らしいですね?」
「我らが全力をもってしても太刀打ちできるかどうかわからないっぱ」
「ここは誰か応援を呼びにいくしかないな。さしあたり美神さんか西条あたりに話がつけばなんとかなるかもしれない・・・」
「横島さんが行くんですか?」
「いや、ピートが頼む。こいつを持っていけ、使えるだろ?」
横島は文珠を二つ取り出すとピートに投げ渡した。
「それを使えばおまえならかなりの速さで街までいけるはずだから。美神さんか西条だぞ?」
「・・・昔の横島さんならいの一番に逃げ出してたのに。分かりました。どうにか30分こらえてください、その間に応援を」
くすりと笑って、答えるピート。
「なんか前半、えらく気に障る言い方だな?」
横島は訝しげにピートをにらんだだすぐに真剣な目に戻る。
「では!」
ピートは軽く会釈をすると、西の空へ消えていった。
「あ、あの横島さん?」
「ああ、水野さんはおキヌちゃんのそばから離れないで、おいあんた等、二人に怪我を負わせたら一生恨むぞ?」
「安心するっぱ。あとで飛びっきりの美女紹介してやるっぱ!」
最年長だろうか、子供姿の割にやたらと威風堂々とした河童が、任せておけ、と胸を張る。
「美人のねーちゃん!!!うまくいけば両手に花だぜ!!しゃ、やったるでぇ!!!」
美人と言われて天に向かって雄叫びを上げる横島。
「さすが煩悩の権化たる者、すさまじい煩悩エネルギーっぱ」
横島の煩悩エネルギーに半ばあきれ、半ば感心する河童たち。おキヌちゃんの顔がちょっと怖かったのは気のせいだろうか。
と意気揚々の横島たちの目に黒い固まりが吹っ飛んでくるのが見えた。
「っぱ?」
比較的視力のいい、ヘアスタイルが平八(爆)の河童がそれが何であるかいち早く気づいた。
「人っぱ!!」
「ん、唐巣のおっさん?!!!」
横島も気づいたのか、慌てふためく。あのスピードで突っ込んだら必死確実である。
「間に合わない?!」
最後の文珠を使おうかどうか判断に戸惑ったが、河童たちがとっさの判断で水を操りしたから水をぶち当てて勢いをかなり減じさせた。唐巣はそのままバランスを取ると見事に着地する。
「今のは横島君が?」
よろめきつつ横島に声をかける。
「いや、あいつらっすよ」
横島はあごをしゃくって見せた。
「ん?彼らは河童か?助かりました、礼を言います」
「それより、奴の封印は?」
「すいません、しくじってしまいました・・・詳しい話はあとで」
「来たぞ!!」
短く叫び横島がハンズオブグローリーを発動させる。
「ピートは?」
「応援を呼びに!30分っす」
「分かった!」
唐巣がクロスを構えなおす。聖書は吹き飛ばされてしまったようだ。
『惰弱也惰弱也惰弱也!!!汝ら受け入れよ!魂は常、常は我、すべては我なり!!!』
そこに黒い人形(ひとがた)がすべるように近寄ってくる。
「おいおい、下手すりゃメドーサとかベルセブブより上だぜ?こいつ・・」
一目見てその危険性を見て取る横島。背中は汗でベッショリである。
「なにあぶねぇ事口走ってるんだよ!!!この腐れ悪霊が!!!」
『ほざけ!!!我は常なり、汝も我が物也!!!』
「油断するな、横島君!!」
「わかって・・・うぉぉ??」
返事をしようとして一瞬気の抜けた瞬間悪霊は横島の横を何もせずすり抜ける。
「天よ地よ聖霊よ、けがれし魂の進む道を遮れ!かの者に道はあらず、あるは帰天の導のみ!!!」
唐巣が咄嗟に霊波を食らわせるが、足止めには至らない。
「逃げろ、逃げろ〜〜〜〜!!!」
横島が霊波刀を振りかざしながら叫ぶ。河童達では抑えきれない、と咄嗟に見抜いたからだ。
「かっぱっぱ〜〜〜〜!!!」
河童たちはまさかという思いがあったのか、慌てておキヌ達を囲み対峙する体制を整えようとするが、間に合わない。さらに悪いことにおキヌ達はそのあわてる河童に遮られて逃げられない。
『汝か、我が念を封じた者は!・・・滅せよ!汝あることすら許さぬ!!!』
「きゃぁぁぁぁぁ!!!!」
「ぱっぱっぱ〜〜〜〜〜!!!」
水野が無意識のうちに河童達とおキヌちゃんを抱きかかえる。そこに悪霊の腕らしき物が叩き付けられた、と思ったが、
「神よ!!!!」
唐巣が割って入っていた。咄嗟にクロスを構え、その腕らしきものを受け止めたのだ。
しかしその瞬間、唐巣の中に大量の怨念が流れ込んできた。
 強力な悪霊の怨念の直接注入となると、通常濃度の五百倍のヘロインを血管注射されるよりはるかに精神と肉体を蝕まれる。
 ビクン、と体を痙攣させると、肩ひざを付き、うめき声をあげる。 
「唐巣さん!!」
水野が咄嗟に唐巣の腕を握ろうとする。
「やめろ・・・さわるな・・・!!」
唐巣はそれをなんとか発した言葉で遮る。
「貴様ぁ・・・俺をこんな目に合わせやがって・・・痛いぞ・・苦しいぞ・・・ぶっ殺してやる・・・」
唐巣の目が血走っている。息が荒い。大量の怨念に自らの精神を侵され始めた証拠だ。完全に侵されてしまえば、もはや唐巣は唐巣ではなくなる。
「おまえのせいだ、俺を苦しめやがって、この野郎・・・・絶対殺してやる・・・」
クロスを構え、悪霊の攻撃を受け止めたまま、呪うように吐き出される言葉。
ぱしぃん、と時々霊力の衝突で空間がスパークする。
「っそったれが!!!」
そのとき悪霊の背を横島が袈裟切りにする。霊波刀が極限まで研ぎ澄まされて日本刀のごとき見事な反りのある刃を形どっている。
『なに?』
悪霊が振り向こうとすると同時に背中がぱっくりと割れた。
『ごぉぉぁぁぁ!!!』
獣の悲鳴とも似つかない怒声をあげ、立ち振り返る悪霊。
「さっさと極楽におくっちゃる!!!!」
今度は腹のあたりを一突きにする横島。
『惰弱也!!!』
悪霊はその一突きを無造作に掴み取ると横島をそのまま天高く放り投げる。
「ぎゃぁぁぁ、助けてヘルプみぃ!!!」
悲鳴をあげながら釜に落ちていく横島。
見れば悪霊の傷はすでに全快していた。

どっぱぁぁぁん・・・。

そして悪霊がもう一度唐巣に向き直った。
『ぬぬぬ・・・』
しかしその場に唐巣たちの姿はすでに無かった。

続く

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