ザ・グレート・展開予測ショー

ミットナイト・ダンディ(その九)


投稿者名:ツナさん
投稿日時:(01/ 4/19)

 「正体を暴いているぞ!!悪霊!!」
唐巣は結界を張り、聖書を構えたまま洞へと歩み寄っていく。
 すさまじいプレッシャーが唐巣を襲う。初めて感じたプレッシャーではない。
 同じ、冷たい霊気を、明日美の背後から感じていた。つまるところ彼女にもここにいる悪霊と同じようなものが付いているということである。
 唐巣はそれが少々気がかりだったが、いまは目の前にいるであろうそれにすべての意識を集中した。
 それは闇の中から少しずつ、少しずつ触手を伸ばしているように思えた。
 唐巣は語りかけるようにつぶやく。
「恐ろしいほどの霊威だな。まったく今までなぜ野放しにされていたのか、疑問だな」
『我は常、常は常にあるゆえ、見えず』
帰ってくるとは思っていなかった答えに唐巣は耳を傾けた。
「常?」
『我は常なり。あることのみを望む。我は常夜の常、汝らの魂も常ならば汝らもまた我』「いや違う。私たちは生きている。おまえとは違う」
『何が違うのか・・・我理解しえず。死すればみな同じ常夜の常たるもの。すべては魂に返り、すなはちこれ常なるや』
「眠りにつけば天に帰ることこそ常、地にとどまり続けることは常ではない。命あるものの生を奪い、眠りに就きたる魂を巻き込み、己の願望のみのためにあまたを苦しめるおまえに、この地にある資格は無い!」
『たわごと也。我は我ら、我らは常、我の望みは『有り』続けること、我は常に有り、そのための手はいとわぬ。すべては我なり、何時はかなき者なり!!!』 
地蔵尊の背後から黒い塊が姿をあらわにする。唐巣はその姿をじっと見た。
 黒いそれは一見ただの塊のように見えるがよくよく眼を凝らすとそれがあまたの魂の塊であることが見て取れた。その魂は人の魂だけでなく、明らかに動物たちの者もある。
 それぞれが形容し難い傷を体に負っているように見えた。
 一つ一つの目が唐巣をじっとにらみつける。
 怨念、とは違う。ただ、無念の感がひしひしと伝わってきた。そう、それは人によって死を迎えた魂たち・・・。自らが望まざる形で死を迎えた魂であることを、唐巣は理解した。そしてその魂の塊の中心から大きな力を感じる。
 多くの魂とは別な、強烈な怨念。すべてを包み込むような強烈な念が、噴出している。
 その魂が洞から出ようとするたびに地藏尊に細かいひびが入る。
唐巣は自らの結界を解き、さらに洞に歩み寄る。どうにかこの霊を抑えなければならない。 
「このままでは奴を封じている結界が崩壊する!!」
唐巣は自分が余計にあの悪霊を刺激してしまったらしいことを理解した。
「私の手で彼らを天に帰すしかあるまい・・・・。
 草よ木よ花よ虫よ、地に在りしあまたのわが友たる精霊たちよ・・・・」
唐巣が呪文を唱え始める。すると唐巣の体に少しずつ力が集まっていく。
「かの地に在りしのろわれし魂たちを天に帰す力を我に分け与えたまえ!!!」
『汝ごときの力に屈する我にあらず、我は常なり・・・』
「我は願う、汝らが迷わず天に帰すことを、そしてわれらが父たる神よ聖霊よ、我が願いを聞き届けたまえ、けがれし魂が地にあるは宿業なれど、等しく救いの手を差し伸べんことを!!!!」
唐巣の魂の叫びが力となって悪霊を包み込む!
「苦しむ必要は無い。救いを受け入れよ、定めを受け入れ、天に帰り、再び眠りに就くのだ・・・」
『がぁぁぁぁぁぁ!!!!我は我なり、我は常なり、我は有り、我は滅せず!!!!』
「くっ、なんて強固な意思だ。ただ有りつづけることを願うとはそれほど強固なのか・・」 
唐巣の顔に汗がにじむ。彼の霊力はすでに限界を超えていた。
 ただ存在を望むことはそれほど強固な意志なのだろう。ただ自分で有りたいだけ、生死を超越したその意思に唐巣の力は効力を失いかけていた。
『我は消えず、滅せず!我は我なり!我は常、常とは魂、死は開放、常にあるのみがすべて!』
「天に帰れ!おまえの居るべき所はここではない!」
『すべての魂は我なり!すべてを開放せしめよ!汝らは我なり!!!!』
「そうか!おまえのねらいは生あるものを滅ぼすことなんだな?」
『生はかりそめ!実は死なり!すべては我!開放するのだ!!!!』
「もはや意思とはいえないか・・・く・・・」
強烈な念に唐巣の力が押され始めた。
「しかし、負けるわけには・・・」

びしびしびし・・・・

「は!?」
そのとき、地蔵尊に一気にひびが入る。そして・・・。

がらがらがら・・・。

「な、崩れた!」
一気にこなごなに崩れ去った。唐巣と悪霊の力の圧力に耐え切れず、崩壊してしまったのである。
それに唐巣が気を取られ、少しだけ力が弱まった瞬間、悪霊が一気に飛び出してきた!
唐巣の想像より若干小さいが、それでも高さ5メートル、幅3メートルほどあるか。
 なんとなく人に似た両手両足があるが、体全体が霊の集合体うである。
「神よ、我に今一度力を!!!!!」
唐巣が力を振り絞ってそれを押さえ込もうとする。
 しかし。
『我は開放されり、すべてが我になりし時が来たり、我は我なり!すべてに等しく死を、すべては魂に帰せり!魂は常、常は我なり』
強烈な力が唐巣の霊気を押し返す!
「しまった!これほど強力とは・・・!」
さらに近隣にいたのであろう魂が悪霊に引き寄せられているのが分かった。
 とんでもないことになってきた、と、唐巣は冷や汗をかき始めていた。

続く
 
 

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