黒い呪いと天使の笛の音(12)
投稿者名:AS
投稿日時:(01/ 4/18)
ー黒い呪いと天使の笛の音(12)ー
ドクン!
一歩、前に踏み出すと、自分はおろか、そばに居る人にも聞こえるのではないか・・・というくらい、心の臓が高鳴る。
「・・・・・・」
『彼女』は一旦足を止め、鼓動を抑えようと、若干背筋を伸ばして深呼吸をした。
(すー・・・はー・・・)
気持ちが落ち着いて来ると、徐々に心音のペースも緩やかになっていく。
彼女は最後に大きく息を吸い、吐いて・・・
ぺち。
両頬をたたいて、気合いを入れる。
ほかの人では余り・・・全然、気合いなど入りそうも無いやり方だが・・・彼女には充分な効果があったらしく、それまでよりも、引き締まった顔つきになっている。
「・・・よしっ!」
彼女は意を決して、試合場へ進もうとした。
その時。
ドンドンドーン!
パパラパッパー!
彼女の背後から、何やら太鼓やらラッパなどを吹いたかのような音がした。
(・・・・・・?)
何事かと思い、首を傾げた彼女が、後ろを振り向いた瞬間。
「おっキヌちゃーーーーん!! 頑張れーーーーーー!!!」
彼女の目と耳に、飛び込んで来たのは、太鼓を打つ白狼と、ラッパを吹く白狐、そして・・・
「・・・あ、ああああーーー!!?」
会場中に響きわたる、拡声器越しの姉の声と、一心不乱に応援旗らしきモノを振る姉の姿にー・・・
「・・・・・・」
彼女の時は、止まった。
「・・・・・・」
「豪勢な応援ねー」
対戦相手の率直な声も、時が止まった彼女には届かない。
「おー! 私! 実況の仕事を始めてからかなりになりますが!
これほど気合いの入った恥ずかしい応援は・・・」
ビクッ!
一瞬、時が動いた。
「もとい、頼もしい応援は、お目にかかった事がありません!」
「・・・・・・」
慌ててフォローする実況の声・・・しかし、彼女の時を動かすには至らない。
<氷室選・・・プ、クク、氷室キヌ選手! 早く結界の中へ!>
試合開始を促す放送にも、応援の『余計』な効果が表れている。
「お・キ・ヌ・ちゃーーーん!!!」
旗を振り、声を上げ、応援に熱中している姉は、おキヌの様子に気が付かない。
「・・・・・・」
より一層熱の入る応援に、ただただ呆然としているおキヌ。
そのおキヌを救ったのは、別の応援だった。
「おキヌちゃん! 負けるなよーーー!!」
「!」
突然聞こえた、その声に、おキヌはハッと振り返る。
「い、一文字さん!?」
振り返ったその先には、医務室で治療を受けている筈の友達の姿があった。
その頃医務室では・・・
「君・・・友達いないのかね?」
「・・・・・・うるせぇ・・・俺は・・・一匹狼なのさ・・・」
「若い頃はそうやって寂しいのをごまかすもんさ・・・うんうん。」
「だからうるせえー!」
というやりとりがあったのは、余談である。
そして、時が止まった状態から復活したおキヌと、待ちくたびれた顔の『矢神桔梗』との試合が始まった。
やや離れた距離で、おキヌと矢神は向き合っている。
(一文字さん、怪我の治療後回しにして・・・応援に・・・)
一度は失いかけた気合いが戻って来るのを、おキヌは感じていた。
(頑張らなきゃ!)
おキヌはネクロマンサーの笛をー・・・
「先手、必勝!」
「! え・・・っ!?」
突如、矢神がおキヌに向かって駆け出して来た。
「わ、わわ・・・!」
慌てるおキヌ。 その間にも、二人の距離は狭まっていく。
ドンッ!
「もらった!」
更にスピードを上げた矢神の拳がおキヌに・・・
「きゃあ・・・っ!」
「え・・・!?」
ドガアアアッ!
矢神の拳はおキヌには当たらず、結界に突き刺さった。
「こ、この娘・・・」
(あんな腰がひけた状態で、私の攻めをしのいだ・・・?)
「ふ、笛、笛・・・」
いまだ、動揺しているおキヌを見、矢神は不気味さを感じた。
(悪運が強いだけなの・・・?)
本当にそれだけなのか、決めかねる矢神。
「なら、これで確かめる!」
矢神の拳に、先程よりも強い霊力の光が集まっていく。
「しのげるものならー・・・しのいでみなさいっ!」
そう言って矢神は、再びおキヌに向かい、駆け出した。
一方、おキヌの試合に、怨念めいた眼差しを向ける者がいた。
「試合が終わって・・・笛を手放す時・・・クク・・・」
独り言をぶつぶつと呟き、彼は懐にある『笛』を服の上から撫でた。
「もう少し・・・もう少しだ・・・!」
AS「11に入れるはずだった部分に書き足して12にしました・・・楽しんでもらえたら嬉しいです。」
今までの
コメント:
- 豪『勢』で無く、豪『華』でした・・・ (AS)
- う〜ん。雪之丞がなんか可哀相。
違う意味でおキヌちゃんも可哀相。
さぁ、いよいよおキヌちゃんの出番ですね。
この後どうなるのか楽しみです。 (かいぜる)
- どんな応援旗なのか気に成るっ(笑)。
果たしてキヌは憶えているだろうか? かつて自分自身も同じ場所で似たような行為をして、周りの人間に迷惑がられていた事を(笑)。
雪之丞の恥ずかしいセリフも今回は空回り。やはり年の功には敵わないか……で、このオヤヂ誰?(笑) (Iholi)
- 『オヤヂ』さんは、何の変哲も無い、『ヒーリングが使える』三十路の方です。
Iholiさん、いつも感想有難うございます。 (AS)
- ついでに・・・補足、です。
今回GS試験のお話を書くなら、どうしてもアクションの描写は外せないので、試験に出る主要キャラにはそれぞれ土壇場で盛り上げる切り札を考えたんです。(一文字の右、少年の式神制限解除とか)今の自分では、あんまり上手く書けないかもしれないので、雪之丞やタイガー、矢神とかの切り札が出て、それらがイメージに合わなかったら、すみません。
・・・補足というより、逃げ口上かも・・・ (AS)
- おお、おキヌちゃんがんばれー (トシ)
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