ザ・グレート・展開予測ショー

月に吼える(19)後編


投稿者名:四季
投稿日時:(01/ 4/10)



遠目に見たら、少女達の長閑なハイキングに見えるような光景。

それとも、場所がこんな年に何人も人が近付かないような山奥でなかったら、そこにある
建物が人外のものの巣窟でなかったら、その通りだったかもしれない。

小さな水筒からお茶を分け合って、地面にぺたりと腰を下ろした二人の少女を見ると、誰だってそんな気にさせられるだろう。

けれど、そこは人外のものの本拠であり、物騒なウィルスを撒き散らす迷惑極まりない場
所だったし、少女達は、それを自らの手で打ち砕こうというこれも又ある意味物騒な意図とその実力を持つゴーストスイーパー(手伝い)だった。

「さて、そろそろ、いいかな」

ゴミを手早くまとめると、タマモが立ち上がる。

もう、美神達がこの場所を離れて二十分ほどが経っていた。

正体不明の相手では慎重な行動をとっている筈だから手遅れではないだろうし、かといって美神たちに気付かれて追い返される時間帯も過ぎている。

「よし、れっつごーでござるよ!!」

威勢良くシッポを振り回しながら正面玄関に突進しようとするシロの後頭部を、タマモは
多少ウンザリした表情ではたき倒した。

「全く同じルートで行ってどうするのよ」

それでは何の為に二手に分かれているのだか、解ったものではない。

今度こそ抗議しようとしたシロをじろっと睨んで黙らせると、タマモはびしっと指を突きつけた。

とは言っても、先行隊は後に続く二人組みの事など知る由も無いのだが。

「じゃあ、どうするでござる。拙者まどろっこしい事は嫌いでござる」

腕組みのシロに、一瞬がっくりと首を垂れたが、タマモは何とか立ち直った。

直情径行は人狼の種族特性だ。いちいちメゲていたらやっていけない。

「どうやったら効果的に動けるか、考えないと」

タマモがそう言った瞬間。

「「「そのとーり!!!」」」

どこからともなく、そんな声が轟いた。

「なっ、なんでござる!?」

「こ、この声は!!」

忘れたくても忘れられないこの声は。

バタン!!

と、タマモ達が隠れていたのと違う方の車のトランクが開いた。

そして現れたのは。

「あ、アンタ達……」

タマモが絶句する。

「な、なぜここに!?」

シロが蒼褪める。

「ふふ、きまってるじゃないか」

「無論」

「我々なくして、この状況をどう打開すると言うのかね」

図々しくものたまったのは、関、天狗、上村動物病院院長のオヤジ三人衆だった。

「「む、むさい」」

思わず一歩引いてしまうシロとタマモ。

「失礼だなあ、僕はまだ三十五歳だよ?」

関がお馴染みの笑顔で抗議した。

「私とて、まだそんな年ではない」

院長の手に握られたメスに、シロが思わずタマモの後ろに隠れようとする。

既にトラウマだろうか。

「おお、ワシもオヤジと言ってもらえるのか。三百歳過ぎてから年なんぞ数えていなかったが、嬉しいのう」

天狗の感性も、やはり少しズレていた。

肯きあう三人を余所に、シロとタマモは逃げ出したくなる足を留めるのに必死である。

なんと言うか、正体不明のウィルスより、寧ろこの三人の方が恐かったのだ。

無理も無いと、三人の内の一人でも知る者ならば、言うに違いない。

「どうでもいいけど、なんで今まで隠れてたの?」

どうやら三人組の恐怖よりも横島たちを助けたいという想いの方が勝ったようだ。

タマモがもはや諦観に達したのか、投げ遣りに尋ねた。

既に、美神たちが去ってからでさえ二十分近く、ここに到着してからは三十分以上が経過
している。

が、関は実にあっさりと言ってのけた。

「はっはっは、言ったじゃないか。全てはこの効果的な登場の為だよ」

どうやら、窓から突き落とされた後はずっとトランクの中に隠れていたらしい。

「うむ、真打はかくあるべし」

天狗に至っては深夜からではなかったか?

「フフフ、貴重な犬種のにっくき敵、倒す為ならたとえ火の中水の中」

院長は、やはり、その為だったらしい。

目がイッてしまっている。

「……」

タマモは、返す言葉も無く再び絶句した。

と言うか、何も言いたくなかったのかもしれないが。

「……なあ、タマモ……」

その時、何やら考え込んでいたシロが、ふと顔を上げた。

「なに……」

タマモは何もする前から声に疲れが滲んでいる。

「あの三人、どうやってトランクの中に三人も入っていたのでござろうか?」

その言葉には、畏怖の念さえ篭っていた。

「そう言えば……」

タマモも、トランクを見て、首を捻った。

自分達は変化すればサイズが変えられる。

トランクの隅に潜り込むくらい容易いものだ。

しかし、彼等は?

あの天狗が戦闘以外の技を持っているとは考えがたいし、関も、いかに優れた能力者とは
いえ人間だ。院長に至っては、ただの(性格は兎も角)獣医である。

スポーツタイプの車の狭いトランクに、その三人が……。

「や、止めとこう、考えるのは……」

「そ、そうでござるな……」

一瞬想像しそうになって、二人は慌てて思い止まった。

人間、想像して良い事と悪い事がある。それを知った瞬間だった。

そして。

「さて、それは兎も角、行こうか」

どこまでも爽やかな関の声に続き、タマモ達は研究所の裏手に向かって歩き始めた。

(20)へつづく

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