ザ・グレート・展開予測ショー

【リレー小説】『極楽大作戦・タダオの結婚前夜』(11)[八年前からの約束(後編)]


投稿者名:Iholi
投稿日時:(01/ 4/ 5)

「……今やっと、ママの最期の言葉の意味が解かったような気がする。」
 亜麻色の長髪が、姐包の胸元から離れる。
 やや赤目勝ちなその瞳には、希望なき希望の光。
「マリア! さっきのアレ、ゴメンなさいね。アレもコレもみーんな忘れて!」
「……それ・では?」
 唇に不敵な笑み。額には涼しげな眉。やや腫れた目元も愛らしい。
「ワタシは日本に帰る! さあ、連れてって頂戴! 超特急便でね!」
「……イエス・ミズ・美神!」
 マリアがやや甲高い合成音声でそう頷くが早いか、踵のジェットが加熱を始める。
 それから十数秒後、甲板上の大勢のギャラリーと鴎の群れによる盛大な歓声に見送られて、美神とマリアは海よりも青く澄んだ大空に超音速で吸い込まれていった。

 初夏の南欧の日差しは何時までも柔らかく、オリーヴ色の南風は何処までも優しい。


 その頃、甲板では。
「なんじゃ、騒々しい……って、おい! マリア! このワシを置いていってどーするのだ! おーい! 戻ってこんか! おーーい! ……ふぅ、行ってしまいおったか。」
「おじさん、そんな暢気な事いってて、好いんですか? おじさんのお知り合いでもあるんでしょう?」
「ああ、まあな。小僧はともかく、おキヌの一生の晴れ姿が拝めないのは、千年いや万年の後悔となるじゃろうな。」
『まだまだ、諦めるのは早いですよ、ドクターカオス!』
「なぬっ!? その声は、ダンピールの若造!」
「お、おじさん、あれを見て下さい! 着艦しますよ!」

 甲板のヘリポートに着艦したのは、モスグリーンの胴体に大きく「I.C.P.O.」のロゴがプリントされた無骨な輸送用ヘリ。

「色々と人を拾ってきた処なんですよ。美神さんは最後に回していたんですけど……どうやらもう日本に向かっているみたいですね。」
 心底和らいだ調子でそう言いながら操縦席から出てきたのは、オカルトGメンの若手ホープ・ピートである。副操縦席にはやや不機嫌そうにみえる先輩Gメン・西条が腕を組んでいる。ここは機嫌好い方に話を聞いた方が良かろう、とドクターカオスは判断した。
「他の面子は後ろの貨物部分か?」
「ええ、ビジネスクラス並の設備を整えまして。まずイギリスでヴァン・ヘルシング親娘とマーロウ、スペインで魔鈴めぐみさん、ブラドー島で僕の親父を乗せたところです。まだまだこれから増えるかもしれませんけどね。」

「では、お気を付けて! 良い旅を!」
「ちょっと大げさじゃが、良い航海を!」
 ドクターカオスは警備主任たちに見送られる中、ピートのエスコートでヘリの貨物部分に乗り込んだ。

**********

 日本、日本武道館、昼過ぎ。
 ここではメジャーなアーティストたちがライヴをこなす、まさにイヴェントの総本山。
 また、ここでは年に一回、ゴーストスイーパー資格取得試験の会場としても利用される。
 しかし明日ここで行われる予定のイヴェントは、この会場としては真に異例の物である。何せ日本トップクラスのゴーストスイーパーのカップルの挙式が行われるのであるから。

「美神さん、来てくれないのかな……? きっと、怒っているわよね……。」
 そう呟いた女性は、白い作業着姿の係員たちがてきぱきと会場を設営していく様子を、観客席の最後尾から呆然と見守っている。ちなみに婚礼の儀式は神式で行われることになっており、神主を務めるのは彼女の義理の父親である。
 赤いブラウスの上にベージュ色の三つ揃えとネクタイいった出で立ちは、照明の届かない会場の隅っこにいても目立つ。タイトスカートの裾にまで掛かりそうな程長いストレートの黒髪を大きな三つ編みにして、それを左肩から垂らしている。さっきから似たような事をブツブツと呟きながら、三つ編みの先っぽを両手で弄ぶ。
「……だって、わたしが、横取りしちゃったんだもの……。」
 その女性----氷室キヌは、ハンカチで目頭を拭った。 
八年前、美智恵の突然の死の要因が自分の落ち度にあるものと思い悩んだ美神令子は直後、事務所を閉鎖。弟子たちを知り合いたちに預けて、自分自身は世界を放浪。その除霊の腕前と知識から「美神先生」の名は日本にまで届いていたが、その間、一切の音信は途絶えていた。
 たかが八年。されど八年。かつての弟子たちは何時しか共に集い、昔話に花を咲かせる歳にもなった。そうしたささやかな触れ合いの中で、それまで忘れていた、いや、胸の奥底に閉じ込めてきた想いが再び芽を出し実を結んでも、一体誰が責められようか?
 しかし、ゴーストスイーパーとして自立し、それなりの名声を獲得していた横島と付き合うようになってからの二年間。この少女はいつも自身を責めながら、日々を過ごしていた。
 そんな彼女の心労を察してか、日本では以前の美神に劣らない実力と名声を手に入れた横島は、キヌにプロポーズをした。素朴な思いやりの言葉は何よりも彼女の心に安らぎを与えてくれた。
 明日になれば、この悔恨の日々は終わる筈。そうすればきっと、もっと世界は輝いて見える筈。
 でも……。
「美神さん……。」
 今は只、キヌは美神と話がしたかった。

とんっ

 小さなベージュ色の肩を、不意に誰かが叩いた。
「んっっ?」
 慌ててハンカチで目鼻を拭い、キヌが振り返ると、そこには……?

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