時を越えた約束、
投稿者名:トンプソン
投稿日時:(01/ 4/ 3)
徳川の黎明ではまだ戦の残り火が燻り、孤児が絶えなかった。
もう老境にさしかかる和尚にとって孤児の世話ははなかなかの、重労働ではあったが、
「すまぬな、オキヌ。お主がよっく働いてくれるのでこの老僧も助かるは」
「ま、和尚様、まだ老人を名乗るには歳がはようございますよ」
「なになに、ワシはもう少しで御釈迦様と酒を組む交せるのも時間の問題じゃ」
もうそんな歳じゃよと、からからと笑う。
「そ、そうなると困ります!私だけでは、ここの孤児は賄えません」
近年、何十人と孤児が集まってくるこの寺院である。
「ははは!まぁ、お主が嫁ぐまではこの老僧、生きてないとな」
「まぁ!」
くすぐったいのか、そそくさと自分の仕事に戻る。
「ふぅ、オキヌが男ならばワシの跡を継がせたじゃろうな」
和尚の独り言は桜の華と空の彼方へこぼれていったようだ。
さて、
孤児の中で一番の難物は武士の子で有る事を誇りに思っていた子供であろう。
「また喧嘩したの?ショウちゃん」
「シヨウちゃんではない、長曾我部(ちょうそかべ)昭五郎だ!」
長曾我部家とは四国に根付いた一族である。昭五郎がその血筋を引くかは解らぬが。
「おそらくはのぉ。ショウの父が吹き込んだと思うのじゃ」
そんな事を聞いていたオキヌは彼に少しだけ同情をしていた節がある。
「あらら、怪我してるじゃないの」
「気にするな、武士にとって怪我は勲章じゃ」
「はいはい、いいから傷口をみせなさい」
「・・うむ・・わかった」
「はい、よろしい」
彼には、そんな性格もあって友達は出来なかった。
「また一人でいるの?シヨウちゃん」
「なんじゃ、オキヌか、武士は食わねど、爪楊枝じゃ」
「まったく強情なんだから」
なにか思いついたのか、オキヌは一度部屋に戻ってから、
「はい、これあげるよ」
毬を取り出す。
「こんなのは、男のする物ではない!!」
きーきー声で反論するが、
「では、ショウちゃん。これをちょっとの間、預かってくださいな」
「預かる?」
「そうですわ」
何でじゃ?と言う暇も無くオキヌにほかの仕事が入った。
二三日後には、昭五郎オキヌの毬で遊んでいる姿を見たとか。
季節が流れた。
その日、オキヌと入れ違いにある男が寺院内にやってきた。
「これは導師様、この寺院を管理しております老僧で御座います」
老僧の自室へ導くと、誰も来るなといいつけてから、
「先ずは御酒を」
どちらと無く杯を取る、
「何と申せばよいや。今回の人身御供に自ら名乗りを挙げたのじゃ」
「そうやもな、あの子は優しい子じゃ」
「・・・すまぬな和尚殿」
「いや」
今にも泣きそうな声だったが、
「誰かがやらねばならぬ事じゃ、そしてあの子の気性を思えば、な」
「そうか、和尚殿も覚悟をなされておいたか」
「左様」
風が部屋を舐めたようだ。
「あの子の父は名のあった武士らしいのです」
「らしい?」
「母が所謂草の民でしてな、我が寺院に来た時には既に虫の息でしてな」
「・・・もしや、霊能を持っているのでは?」
「それが、現状では現れては、」
無い、と言おうとした時に、とんとんと、毬が落ちる音がする。
「誰ぞいるのか!」
がらと、障子を開けると其処には男の子が一人いた。
「ショウ!誰も来るなと言ってあったろ!」
和尚、大喝を食らわすが、魂が入っていない様子である。
「おい、ショウ大丈夫か?ショウ」
和尚の心配に答えず、
「キヌ!!」
とる物も手にかけず街に向かって走る。
無我夢中で走ったのに、みそぎを済ましたオキヌの輿を発見したのだ。
何と言おうか、空気を一杯吸いこんだ時に、口をふさぐ物がいた。
「ンガガ!」
「だまっとれ!」
歳が歳ではあったが、脚力で子供に負ける事はなかった。
そして、輿が二人の視線から消えた時に、
「なんで邪魔するのじゃ!」
「あの子を、キヌをこれ以上苦しめるでない」
「苦しめる?」
鼻水も涙もずるずるの顔で和尚に聞く。
とても難しい話だと、最初に断りをいれてから、夜道で昭五郎に事を説明する。
「では、オキヌは先の世界で生き返る可能性もあるのじゃな」
「そうじゃよ」
そうかと、ぽつりと言ってから、
「オキヌー、お主からー借りたー毬は絶対にー返すからなー」
時は大分流れた。
「なぁ、オキヌちゃ。今日も郷土会館いくのけ?」
早苗があきれるのもわからぬでもない。三日も続けていってるのだ。
「うん。ここが嫌って訳じゃないんだけど、すっごい素敵な品があるの」
「ふーん、まオラは山田先輩とデートだっぺ」
一人、郷土会館、まぁ小さな博物館だ。其処に玩具展示コーナーがあるのだ。
「毬」
たったそれだけの説明でしかない、ぼろぼろの毬を見にオキヌは三日も来てるのだ。
「お嬢ちゃんや、あの毬がお気に入りなのかい?」
ボランティアでやってるのであろうか初老の男が玩具展示コーナーの見張りをしている。
「はい、どうって事ないと思うんですけど・・なんか、こう」
なんかこう、懐かしく思うの、正直に答える。
「そうか、そういえばお嬢ちゃんは確か、むこうの神さんの社につかえる」
「えぇ、氷室キヌって言います」
もうほとんど閉じかけていた老人の目が少しだけ、開いた。
終業時間のチャイムがなる中、老人は鍵を出して毬の展示してあるケースを開ける。
「ほれ、あげるよ、いや、返すよと言うべきじゃな。お嬢ちゃん」
遠慮を見せるオキヌに半ば強引に引き渡すその老人である。
彼の名はよかろう、苗字を長曾我部と言う。ここの郷土会館の先代館長であった。
-FIN-
今までの
コメント:
- これで、トンプソン作品は108つ目でした。
ちゃんちゃん。 (トンプソン(超個人的史話))
- 108つ目・・・凄いです! 書いて貰ったアドバイスも、凄く参考になりました。 有難うございました。 (AS)
- ショウちゃん・・・・・・・・・・・・ぼのぼの・・・・・・・ (トシ)
- 武士は食わねど「高楊枝」。わざと間違えたのかもしれんけど一応。
ものとしてはいい方だけど、ちょっともの足りんところがある気がする。
何か足りんというような。しいません、駄文書きが余計なことを。
ということで今回は保留。 (ツナさん)
- 108作品目、おめでとうございます。
長曾我部の家名を生かした展開だともっと良かったですね。
終始ほのぼのとしていて好いです (Iholi)
- 煩悩達成おめでとうございます。
しかし、本当にすごいですね。108もお話を書くなんて。
いっそのこと1001目指してこれからもがんばって下さいね。
あぁ、痛いけど、最後に心がすっごく休まる良いお話でした。
(うっっ、私にしてはコメントが短い・・・すみません) (かいぜる)
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