ザ・グレート・展開予測ショー

ミットナイト・ダンディ(その一)


投稿者名:ツナさん
投稿日時:(01/ 3/30)

 都内郊外に立つ教会。
 唐巣和宏は夜の勤めを終え、聖書を閉じた。
 春とはいえ教会の夜は寒い。本来なら暖房を入れたいところなのだが、清貧を旨とする唐巣神父、例え真冬でも修行のためとストーブを焚かない。しかしもう数年もそんな生活をしているので、寒さなどはもうなれてしまった。しかしそれにしては冷える。さすがの唐巣も少々堪えた。
「ピート。熱いミルクでも飲まないか?」
傍らでともに祈っていたピートに尋ねる。
「いいですね。じゃ、僕が用意しましょう、唐巣神父」
ピートは立ち上がると、そのまま奥の居住区のドアのほうへ向かう。
「すまないな、いつも」
唐巣がやんわりとした声で礼をする。
「かまわないですよ。じゃすぐに用意しますから、居間のほうで待っていてくださいね」
ピートは振り返りざま、唐巣の心使いに笑みを浮かべる。そしてドアの奥へと消えていった。 
「しかし今日はやけに冷えるな。ここのところ暖かかったらなおさらそう感じるだけなんだろうか」
唐巣は冷えた手を温めるようにこすりあわせながら、自らも奥へと戻ろうとした。

どんどん

とその時、入り口のドアをノックする音が聞こえた。
「こんな時間に誰だろうか?」
ドアの鍵は閉まっている。唐巣はドアへ向かうと鍵を開け、どうぞ、といった。
「あの、こちらGSの唐巣先生の教会でよろしいのでしょうか?」
ドアの向こうから、およそ20代後半であろう女性の声が聞こえた。気配からして、どうも霊症を抱えている人のようだ。
「ええ、そうですよ。とにかく中へお入りなさい。今夜は冷える、何か暖かいものでも飲みながらお話しましょう」
唐巣派そういってドアを開ける。そしてドアの前に立つその女性の姿を観た。
 落ち着いた感じのスーツに身を包んだ、OL風の女性であった。スタイルだけを見れば
かなり美しい女性である。神父である唐巣でも十二分に魅力的な女性である。しかし。
「・・・・」
セミロングのしなやかな黒髪から半ば髪に隠れた顔に目が移ったその瞬間、唐巣は絶句した。
「・・・とにかく、中へ」
数拍の間を置き、それでも唐巣は相手に不信感を与えぬよう、じっとその目を見つめながら、中へ入るよう促す。
「驚かれないんですか?」
女性は意外そうに尋ねた。予想しうるに足らぬほど、彼女はその顔で幾度となく人をおびえさせ、驚かせててしまい、心を痛めてきたのだろう。もしかしたらほかのGSもあたったかもしれない。しかし彼女のそれを見れば、誰でも腰が引ける。
「・・・正直なところ、少々」
唐巣は嘘偽りなく答えた。
 彼女のその顔には、右目の周りを中心に無数の腫瘍が「うごめいて」いたのである。しかもわずかに口のようなものが見て取れ、それが鳴いている様にも見えた。
 その一つ一つが霊症であることは明白であった。それもかなり強力な霊によるものである。その霊威であたりが冷えたように感じるほどに。
「ここへおかけなさい。・・・ピート、お客様だ。ミルクはこっちへ持ってきてくれないか?」
女性に長いすに腰掛けるよう促すと、よく透る大きな、澄んだ声でピートに呼びかける。「分かりました神父」
すでに暖め終わっていたのだろう、ピートはすぐにミルクを二つもってやってきた。
「こちらがお客様ですか?・・・これは」
さしものピートも、女性の顔を見てギョッとする。さすがに表情には出さないものの、手元がふらついてミルクを落としそうになった。
「すいません」
それでも冷静にミルクを唐巣と女性に手渡す。すると頭を下げて奥へ戻っていった。
女性はやはりか、と、悲しげな顔をする。
「とりあえずそれを飲んで、落ち着いてからお話しましょうか」
唐巣は女性の前に腰をかけると、ミルクを飲む。女性は一瞬ためらっていたが、さすがに体が冷えるのだろう、ミルクに口をつける。
「あったかい・・・」
「そうですか、それは良かった」
唐巣が微笑みかけると、彼女も少し笑顔を見せたように見えた。腫瘍がなければ、もっと可愛らしい笑顔に違いない。唐巣は真摯に、彼女を霊症から救いたいと考えた。

「さて・・・」
彼女がミルクを飲み終えるのを待って、唐巣が話し掛ける。
「まずお名前から、お聞かせ願いますか?」 
「あ、すいません、私、水野明日美といいます。一応3年前までOLをしてました」
彼女はカップを横に置きながら、話し始める。
「ほう、OLさんですか。どちらのほうの?」
「K区のT物産で会計事務の仕事を」
「へぇ、T物産っていったら有名な一流企業じゃないですか」
「ええ、まぁ」
「うん、通りで利発そうな顔をしてられる」
「・・・・・」
唐巣に顔のことを言われて、少し顔をこわばらせる。瞬きの回数が若干増えた。
そのたびに腫瘍がビチリと動き、痛みがあるのか小さなうめきを上げる。
「失礼。大丈夫ですか?」
「ええ、ちょっと痛いですけど」
「話を続けましょう。それで、いつからその腫瘍が、出来始めたんですか?」
「その前にある出来事の話を聞いていただきたいのですが・・・?」
「お聞きしましょう」
重要な話なのだろうと覚った唐巣は、真剣なまなざしを彼女に向けた。
彼女はこくりと頷くと少しずつ、ことの顛末を語り始めた。

続く
 

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