ザ・グレート・展開予測ショー

月に吼える(18)前編


投稿者名:四季
投稿日時:(01/ 3/29)

  前日の曇は夜の内にすっかり去ったようだ。
 
清々しい冬の朝日が美神除霊事務所を白く照らし出す。
 
が、それに見合わない罵り合いが、御近所中に響き渡っていたりした。
「いやでござるーーーーーっ!!」

「駄目なもんは駄目だっ!大人しく寝てろ、病み上がりっ!」

 喧騒の源は涙目で駄々をこねるシロと、何故か(笑)全身包帯だらけで叱り付ける横島。

 とても昨夜の感動の場面(?)の後とは思えない口論である。

 シロは前日の勢いのままであるし、横島にしてみれば色んな意味で不安があるのでこち
らも言葉が強くなる。

 概してそう言う時は相手の言葉の真意になど耳を傾ける余裕は不足気味なもので、それは迷師弟の二人にも例外ではないのだった。

「お前とタマモは留守番、決定なんだよ!!大人しく寝てろっ!!」

 敢えて高圧的な言葉でシロを睨む横島に、けれど、まるで怖気づいた様子もなく、シロは食って掛かった。

「先生だって包帯ぐるぐる巻きではござらぬか」

 ごもっとも。

「な、誰の所為だと思っとるんじゃーーーっ!」

 無論横島の所為である。

 間接的には、後ろで不機嫌を引き摺った表情をしている女性達と、ひよことじゃれあい
ながら楽しそうにその様子を眺めている一人の女性の所為でもあるが。

 ちなみに昨夜アレからどうなったかと言うと、一般に言うところの阿鼻叫喚というか、鬼軍曹というか、まあそんな感じだったのだ。

「と・に・か・く、今日位大人しくしてろ、本調子じゃないんだろうが」

「いやったらいやでござるっ!何で拙者を仲間ハズレにするでござるか!」

 シロの暴走指数、またアップ。

 今回の一件は、シロに、よりアグレッシブな性格を与えたようだ。

「……バカ師弟」
 もう一方の置いてけぼり要員であるところのタマモは、我関せずといった表情でそっぽ
を向いている。

 心の底で何を思うのかはその無表情からは窺い知れないが、時折口論の方に向けられる胡乱気な視線が、なにより雄弁に物語っているようでもあった。

「シロ、アンタ、飼い主の言うことが聞けないってーの?」

 元来あまり気の長い方ではない美神が、こめかみを揉んでいる。

 口調に苛立ちが覗いている内は、まだ少し余裕があるといえるが、この分では、場の空気が氷点下に下がるのも時間の問題だろう。

「……でも、でも、あんまりでござるよ」

 まあ、美神達にしても、ここ数日寝たきりだったシロの言い分にまるで共感しないこともないのだが。

「シロちゃん、横島さんも、何も意地悪で言ってるんじゃないのよ?」
 宥めるように言ったのは、おキヌだ。

 何の悪意もなく、本当に困ったような表情で、シロに諄々と言い聞かせる。

 何分、今回の相手が相手だけに、シロとタマモには、付いて来て欲しくないという事情があった。

 相手が新種のウィルスと複合された呪いを開発していないとも限らない。
 何かがあってからでは遅いのだ。

「ううう……」

 尚も納得しかねる表情のシロに声を掛けたのは、意外な人間だった。

「ま、あんまり焦るもんじゃないさ」

 のんびりとした声。

 細められた瞳の輝きには、微かに笑みが含まれていた。

「グーラー殿……」

 子供たち(とは言っても、ガルーダなのだが)を肩やら頭やらに載せた姿は、ある意味
場にそぐわないほど長閑だったが、次に口にした言葉は、その雰囲気からも、表情からもかけ離れた、厳しいものだった。

「それとも、アンタとダーリンの師弟の間柄ってのは、たった一日の仕事も信じてやれない、ケチな関係なのかい?」

 それじゃあ、ダーリン友の会のメンバーと認めるわけにはいかないねえ。

 最後は笑み交じりの、彼女なりのユーモアを交えた言葉だったが、それだけに、シロの
胸には辛辣に響いた。

「そーゆーこった。師匠を信じろって」

 尻尾と首をがっくりと項垂れて、如何にもしょげ返っているといった様子のシロの頭を、横島はぽんぽんと撫でる。

「安心しとけ、今度もそんなにかかんねーよ」

 緩む口元に苦いものが混じるのを、しかし、横島にも止める事は出来なかった。

 正直、ほっとしている自分に気付かざるを得ない。

 シロの率直な言葉と比較すると、僅かに負い目も感じる。だが、自分の中に、何かを失うことに敏感な拒絶反応を示す部分があることを、ずいぶん前から認識していた。

 無論、その原因も。

「んじゃ、ま、そんな訳だから、シロのこと頼むわ、タマモ」

 おどけた口調で、タマモに頭を下げる。

 だがそれは、横島の顔をじっと見つめているタマモと、視線を合わせない為の行為のようにも思えた。
「……ま、いーけど。このバカ犬が本気で暴走したら、責任持ちきれないわよ?」

「ははは……や、だ、だいじょーぶだよな?な、シロ?」
 思わずあげた乾いた笑いがやや引きつっている。

「知らないでござるっ」

「あらら……」

 拗ねた口調でぷいっとそっぽを向いてしまったシロに、美智恵が満面に笑みを湛えながら近付いて行った。

「ほら、そんなに拗ねないで、私とお留守番してましょう?夕食の準備でもしながら」

 母親を感じさせる笑みに、シロが複雑そうな表情で美智恵を見上げる。

「でも、拙者も、何かお役に立ちたいのでござるよ……」

「……そう」

 相変わらず、何か微笑ましいものでも見るような表情でシロの言葉を頷きつつ聞いていた美智恵の口元が、にんまりと歪んだ。

「じゃ、俊介君と一緒に例の獣医さんのところで、血清を作るお手伝い、する?」

 ピキーン。

 その場にいた全員が、一瞬凍りついた。

「い、いや、そ、それは遠慮したいでござる」

 シロの額に、熱を出して寝込んでいた時もかくやという脂汗が滲む。

 誰だって、自分の体を隅から隅まで調べ尽くそうと手ぐすね引いて待っているマッドなサイエンティストに自分からお近付きになりたいとは思うまい。

「あら、とっても役に立つわよ?」

 にっこり。

 言ってる方は、マジである。

 芯からそう思っているだけに侮れない人なのだ。

 この母にして、この娘……いや、敢えて言うまい。

「ははははは、僕の事を呼んだかい?」

 と、突然窓が開くと、関が顔を覗かせた。

「「だわああああああああ」」

 窓際に引いていた横島と美神が、珍しく絶叫のハーモニーを奏でる。

「なんだ、失敬だなあ。ちゃんと朝起きてすぐ顔を洗って、歯も磨いたし、髪もセットし
たんだよ?」

「「……いや、そういうことじゃなくて……」」

 論点ズレている。

 一瞬の沈黙の後、これまた同じ台詞をぶつけた二人は、心の中でも同じような突込みを
入れていた。

 もしかしたら、この霊長類人科雄の感性と我々の感性の間には、少なく見積もっても地球とM78星雲くらいには、開きがあるかもしれない。

「おや、もしや、窓から入ってきたことを言ってるのかい?」

 一瞬考え込むような仕草をした後、関はポンと手を打った。
 やはり、ズレている。

 こくこく頷いたその場の全員(慣れている美智恵は除く)が、同じ感想を胸中に抱いた。

「いやあ、何も皆を驚かせようと思った訳じゃないんだが……」

 無言の視線の集中に少し照れたように笑うと、関が理由を告げた。

「何、ちょっと盗聴器を新しいのに付け替えようと思ってね」

 しれっと。

 言ってのける。

「アンタは人んちの壁で、朝っぱらから何をしとるかあああっっ!!!」

 裏拳の突込みを潔く顔面で受けると、関は事務所から落下していった。

 ちなみに三階である。

「まあ、それは置いといて」

 が、やはり誰も心配はしなかった。

「……これ位でどうにかなるタマじゃないからな」

「……同感」

「でござる」

「ま、俊介君だしねえ」

「五メートルくらい吹っ飛んだかしらねえ」

「……あ、あはははは……」

 辛うじておキヌだけは、冷や汗を流して窓から下を覗いたが、既に関の姿は視界から消えていた。

「ホントに、どういう人なんだろう……?」

 或いは、ハニーと呼ばれる人だけが、その問いに答えられるのかもしれない。

〜後編につづく

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa